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「お前は口減らしだ」と婚約破棄された私が、前世の知識で領地を最適化したら、なぜか全員に溺愛されています  作者: 秦江湖


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第102話 騎士の誓い

「ですから、この鉄資材の買い取り価格は『北部標準規格』で明確に定められています。個別の値引き交渉には応じかねます」


問屋街の一角で、ハルシュタットから届いた精製鉄を扱う若手商人が困惑していた。

相手は王都に太い風穴を持つとされる大手の買い付け業者だ。周りに粗暴な護衛を数人引き連れ、品物を検品するふりをして難癖をつけている。


「おいおい、あの理屈っぽい眼鏡の男が遠出をしたと聞いたぞ? 看板がいなくなったら途端に強気か? この程度の品質なら、いつもの二割引きが妥当だろうが」


業者がへらへらと笑いながら商人の胸元を小突く。

巡回で通りかかった私は、迷わず人集まりの中へと歩み出た。


「いいえ。品質選別はカルナ村の石炭を用いた最新の還元炉で行われており、不純物の含有量は従来の半分以下ですわ。二割引きなど、到底納得できる根拠がございません」


「な……誰だ、あんたは」


「北領主代理のリーゼロッテ・フォン・ベルガーです。当領の市場で不当な脅迫行為を行うことは認められません」


能動的に前に出た私に対し、業者は一瞬怯んだものの、私の華奢な姿を見てすぐにせせら笑った。


「なんだ、噂の口減らし令嬢か。女子供が現場の商売に口を挟むもんじゃねえよ。おい、少しおとなしくさせておけ」


業者が顎でしゃくると、控えていた巨漢の護衛が威圧するように私へ手を伸ばそうとした。


だが――その手が私に触れることはなかった。


突如として銀色の閃光が走り、甲冑の硬質な金属音が響く。

次の瞬間には、護衛の手首をレオンハルトの鞘に収まったままの長剣が正確に叩いていた。


「ぐはっ!?」


絶叫とともに巨漢の護衛が膝をつく。レオンハルトは身構える残りの護衛を一瞥し、私を庇うように一歩前へ躍り出た。


「王都駐屯警備隊隊長、レオンハルト・フォン・シュテルンだ。当領の最高責任者に対する明確な脅迫行為と判断する。抵抗するならば、即刻その場で鎮圧するが?」


王都最精鋭の甲冑を纏ったレオンハルトの放つ威圧感は、そこらのゴロツキとは格が違っていた。彼の鋭い翠の瞳に見下ろされ、業者は青ざめて腰を抜かした。


「ひっ……! す、すぐに出ていきます! 荷を引け!」


脱兎のごとく逃げ去る業者たちの背中を見送り、周囲の商人たちから歓声が上がった。


「助かりました、リーゼロッテ様! それに新しい警備隊長様も!」


「いいえ、みんなが安心して商売できるのが一番だわ。怪我はなかった?」


安堵する商人たちと声を掛け合い、現場の状況を簡単に確認してから、私はレオンハルトとともに城下町を見下ろす高台の遊歩道へと向かった。


風が柔らかく髪を揺らす。


「助かったわ、レオン。でも、無茶はしないでね」


「無茶なんかじゃないさ。あの程度、準備運動にもならないよ」


レオンハルトは苦笑しながら、剣の柄から手を離した。そして、少し前を歩いていた私の隣に並び、遠くに見える活気ある街並みを眺めた。


「それにしても驚いたな。リーゼ、昔なら怪しい男たち相手に自分から前に出るようなことはしなかっただろう?」


「……変わったのよ、私も。座って報告を待つだけじゃ、この街の人たちの生活を守れないもの」


私が胸を張って答えると、レオンハルトは愛おしむような、けれどどこか切ない目を向けた。


「そうだな。君は本当に強く、立派になった」


視線を落とし、彼はぽつりと呟いた。


「婚約破棄されたあの夜……王宮の舞踏会で、俺は何もできなかった。ただ君が冷たい言葉を浴びせられ、一人で立ち去るのを指をくわえて見ていることしかできなかったんだ。ずっとそれが悔しくて、自分を許せなかった」


「レオン……」


「だから、二度とあんな思いはさせない」


レオンハルトは足を止め、まっすぐに私を見つめた。その瞳には、隠しきれない情熱と固い決意が宿っていた。


「君がどれほど遠くへ行こうと、どんな困難へ向かおうと、俺は君の剣になる。どんな時もお前を守り抜くよ、リーゼ」


まっすぐで温かな言葉が、胸にすとんと落ちてくる。

遠くで奮闘するルークの手紙を思い出しつつも、目の前にいる幼馴染の存在が、今の私にとってどれほど心強いかを感じていた。


「頼りにしているわ、レオン。私の大切な騎士様」


私が微笑み返すと、レオンハルトは少し照れたように耳を赤くし、嬉しそうに目を細めた。

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