62 キルバーン
なぜ、即答できないのだ。
魔物だと疑ってかかると、けっしてそうではないという正当性を主張する。
質問の仕方を変えただけで、なぜか固まる。
つまり、人間ではないのだろうという点にいささか戸惑いを見せている。
人間でなかった場合、こちらが攻撃の手を加え続ければその素性となるものが見えてくるということになるが。
そう受け取るのは早計だと思うから、きちんと確認をしなくては。
僕はそんな曖昧な態度に出る彼らにいった。
ファルを見た。彼を通して全員に伝えた。
「じっくり相談してよ。僕もこのキルバーンに確認したいことあるからさ」
正面にいるユリオルに向けても「都合の良い言い訳を考えればいい」と伝えた。
ユリオルをはじめ、他の連中にも更にいう。
キルバーンと話したあとで答えてもらう、と。
キルバーンの目を見ると、すぐ目が合った。
確認したいことというのは当然、この場所についてだった。
僕は率直に尋ねた。
「キル、60年もの人生を生きてきて、また魔法使いとしてのキャリアから古い歴史についても多くを知る君に今一度尋ねよう」
「はっ! ラルク様、何なりとお尋ねください」
敵対者の手前、僕に向き直りはせず、大柄の彼が傍に立つ。
彼は僕の足元に半歩寄ると改めて跪き、面を下げ忠誠心を見せて来た。
「君と女盗賊を呼び出したこの場所だが、見覚えがあるか?」
彼は僕の質問に答えるべく顔を上げ、周囲をじっくりと眺めて見る。
崩れそうで崩れきらない神殿跡。古めかしい歴史の残骸ともいえる遺構のような空間。
「はてさて、ここは一体……どちらでございましょうか?」
僕は首を傾げて疑問をぶつける。
「なぜ見覚えがないんだ? 世界を隈なく冒険してきたはずだろ?」
「お言葉を返す様で申し訳ありませんが、儂には見当がつきませぬ。この広がりですと何かの実験施設……いえ全く見覚えがない様式の佇まい、お答えでき兼ねます」
「……そうか」
僕は一度質問を切って、ファルたちを半開きの目で見つめた。
再び視線をキルバーンにやり、こう告げた。
「ここは『臓物遺跡』という場所なのだが」
「ぞ、ぞうもつ……はらわたの……で、ございますか?」
キルバーンは自分の腹部に手をを添える。
僕は静かに頷いて、
「彼らが言うには、魔王が復活するための準備を進める危険な場所なのだそうだ」
キルバーンは「ラルク様!」と突発的な発声をした。そして驚愕の表情を浮かべ、立ち上がる。
再び目を凝らして、また少々焦り気味で周囲を観察した。
彼は目を細めると鋭い眼光を解き放つ。ユリオルという男をまっすぐ見つめた。
「お前が、ラルク様をかのような得体の知れぬ場所へいざなったのか?」
会話を漏らさず聞いていたようだ。
その眼から放たれる威圧は恐れ知らずの魔人のそれである。
僕が召使いに向けてきた『死をもって償え』という口癖も、この者の受け売りだ。
キルバーンは口を開けば、世の厳しさばかり押し付ける胸糞わるい奴だったが。
それもこれも魔物と戦う強い人材を育てたい一心からだったと今ならわかる。
「魔王の復活のための祭壇がこの下の最下層にある。そんな場所の心当たりなど儂の冒険譚には登場せぬが──」
キルバーンが彼らに敵意を向けているのがわかる。
僕だけの早合点ならこうはならない。
もし、この召喚スキルに到達していなければ、確証は得られず彼らを殺傷していたかもしれない。転移しても追われるというならこの場で片端から叩くしかない。
でもきっと、ルディみたいに非情にはまだなれない。
決断は必要だ、生き延びるために。
「キル、自己紹介が先だ。名乗ってやれ」
「はい、ラルク様! 儂は、元魔法評議会最高顧問及び評議員長のキルバーンレオリウスと申す者。おぬしらは何者じゃ?」
キルバーンは腕組をしてふんぞり返るように名乗る。
相手の素性を問うと同時に、「てめえらの番だ」と顎の先をくいっと相手に向けた。
(えっらそうにしてからに)
僕は、デルタンとアビリオンを見て言った。
「ジジイが丁重に挨拶をしたのに名乗らないの?」
すると、魔法使いのデルタンが頭を掻きながら答える。
「う~んその、長ったらしい、なんちゃら員長の意味がよくわからないのだが……」
といって、眉間にしわを寄せながらアビリオンに向いて、続きを託す。
デルタンにその部分を問われたと思ったアビリオンは両手を振って、
「こむずかしいことは苦手よ。そういうお堅いことはユリオルさまの得意分野よ」
ユリオルが二人の言葉を聞きとり、「俺が話そうか」という仕草を見せた。
アビリオンも、デルタンも首を縦に数回振る。やはり誰よりも強いのは彼だ。
言わずともキルバーンは見抜いてユリオルに名乗ったのだ。
ユリオルが「ふっ」と息を吐くとキルバーンに向き直り返答する。
「俺にも聞き覚えのない名だ。要するに、魔法を管轄する行政機関のようだが。俺はそんなものを作った覚えはない。それとキルバーンといったか、魔法のいろはをどこで学んだのだ? 筋は悪くなかったぞ」
(はぁ? 答えになっとらんがな)
世界一有名な魔法評議会を知らないというばかりか、作っていないとはどういう冗談だ。
それよりもキルバーンにあれだけの煮え湯を飲まされて置きながら、筋が悪くないとか何でそんなに上から物を言うのか。
(そんなこと言ったら……)
キルバーンは案の定、ふるふると身体を震わせていた。
「その生意気な鼻っ柱をへし折ってくれる」と今にも言いそうだ。
だが召喚で呼ばれた身だ、なんとか堪えた。
そして再び、ユリオルに向けて口を開く。
「フンっ。礼儀知らずにでも隊のリーダーが務まるのだな。よいから名を名乗れ」




