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60 対立姿勢の盲点



デルタンへの魔法攻撃は通用しなかった。

キルバーンほどの者がそれを見抜けず想定外だというわけもない。

挑発の意味を知るために、わざと魔法攻撃を放ったのだろう。


さあ、アビリオンへの魔法攻撃がさく裂するときだ。

本人の希望通り、ガンガンに熱を発するファイアーボールが向かっていく。


球状の炎は意志を持ったように回転を加えながら、弧を描いた。

魔法弾は直線的に飛んでいくものだが、単純な弾丸ライナーでは弾かれてしまう。


術者に跳ね返ってきたとしてもキルバーンなら、いともたやすく消化するだろう。


キルバーンの技量なら発動後も軌道を変えたり、曲げたりできる。

確実にアビリオンを打ちのめすつもりで、火球は錐揉みで威力を増していく。


アビリオンが戦士として迎え撃つ姿勢を見せる。

火球に対し盾を構えている。ガードだけなのか。それとも弾き返して反撃へと転ずるのか。


しかし防具にも耐久値がある。

イフリートの熱地獄は並大抵の防具ではあっという間に溶解される。


盾に魔力の耐性でも付けているのか。

やけに自信に満ちた目をしている。


そして、アビリオンは狙いを定めると、こういった。



「そこに、ボーっと突っ立てる鈍そうなアンタから始末してやるわ!」



(は? ぼ……僕のこと?)



盾で弾かれないように軌道をズラした攻撃だった。

だが、それに合わせて素早く移動し、盾で見事にパリィをした。

盾で跳ね返ってきた特大のファイアーボールは僕のところへまっすぐ飛んで来る。


(いや、だけど。なんで僕を狙ってくるのか!)


確かにアビリオンの言う通り、僕はボーっとしていた。

ワンテンポ遅れて気づいてしまった。


僕は今、旅人スキルでモブ化していたのだった。


「……あ!」


不意を突かれた形になったが。

そのダメージはいかほどであろうか。

この身で受けて、防御スキルとするのも悪くはない、そう思ったが。



「おのれェ! ラルク様には指一本触れさせるものかっ!」


「ええっ!? お爺さん?」


「いま、あのジジイはなんと言ったんだ?」


「そういえば、ラルクちゃんが見当たらないわね」


「妙な敵が突如、5体も現れた……シオン、マジでこいつら一体何者だ?」



キルバーンが僕の前に立ちはだかった。

身を挺して守ってくれたのだ。

僕のガードはしなくても良いと付け加えるのを忘れていた。


デルタンもやはり、5人現れたといった。


(そりゃ、そうだな。モブでも襲撃してきたら敵の仲間だと思うよな)



モブ化していた僕も頭数に入っていた。

状況はよく飲み込めた。


果たしてシオンはその鑑定眼でモブ化の壁を貫いて見透かしているのか。



「生身の人間でないことは確かだが……」


(おい、それはこっちのセリフだよ!)



僕のモブ化まで見抜いているわけではなかった。

だが、キルバーンが漏らしてしまった。

これは、ファルにはバレてしまったに違いない。


案の定だ。ファルが僕の傍へ近づいて来た。

そして、僕の腕を掴みとって皆にいった。



「みんな聞いて。ここにいるのはラルクだよ!」


「えええっ、うそォ! ラルクちゃんなの?」


「それって、もしかして。ラルクの旅人スキルの……?」


「……あ、いやその」



顏もおそらく違って見えて、声もおそらく違って聞こえているはず。

でも、ファルがそういうのだから皆はこちらを見て僕だと疑いはじめる。


そして、ユリオルが声を低くして僕に噛みつくように迫って来た。



「君はラルクなんだな? スキルを解除して説明してもらおうか?」


「ラルク様、こ奴らは何を言っておるのですか? 引き続き痛めつけましょうか?」


「いや、それは後でいい」



僕は観念して、要求通りにモブ化を解いた。



「ボンちゃんが僕の味方じゃないなんて信じられないから、僕はこうするしかなかっただけだ……」



酷い仕打ちをしたことは知っている。

それは彼らが邪悪な魔物でなかったらの話である。


「さあ、こちらも真実を聞かせてもらうとしますか。百騎長どの……」



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