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59 僕の刺客



「ユリオルさま! 大丈夫ですか?」


「ああ、だいじない。ファルよ感謝する」


「みんなも無事でなにより。恐怖を抱えないで、オイラがついてるから」



ユリオルは片膝をついて仲間を見つめる。

低い姿勢で踏ん張ってこそ鉄壁の防御が発揮できる。

だが、その防御も魔力次第だ。

技である以上は一定時間で一度途切れてしまう。


その一瞬途切れの隙間に獄炎を浴びたのだ。

それだけで体力は限りなくゼロに近づいた。 

ファルに心より礼を言う。


さすが治癒士のスキル持ち。

ファルがなんなく傷付いた皆を全回復させてしまう。


だが喜ぶのはまだ早い。



氷結大槍ブリザードランス!』



シワ枯れで野太い、キルバーンの声が彼らの胸の鼓動を打つ。

びくりと身構えるが成す術がない。

5人の盗賊の頭上には、同じ攻撃が早くも再開していた。


(キルバーンめ、解っているいるな。打ちのめせと命じた言葉の意味が)


攻撃対象者はファルの回復スキルで事なきを得ているようなもの。

グッジョブの仕草や笑顔の合図を送り合うとか。


「フンっ、能天気なやつらめ!」キルバーンが口元で呟くのが聞こえた。


苦痛の表情を浮かべていないなら、浮かべるまで処刑を継続するだけ。

解らせてやるために。


ユリオルには再度『獄炎妖精イフリート!』を向けた。

次は盗賊らと片方ずつではなく、同時攻撃だ。



「もう少し、熱くて長めのシャワーが心地よかろう」



敵対者に浴びせる言葉にも容赦がない。

キルバーンは何の表情をも浮かべず命令に徹する。


5人盗賊の負傷があからさまに酷い。

今度は阿鼻叫喚する暇もなく高速で凍結させられた。


この速度で全身を氷漬けにされると非常に危険な状態に陥る。

解けたときに体力も高速で消耗する可能性が大きい。

さらに脳内への恐怖ダメージがどこまで回復するかもある。


ファルが5人を気遣って声を上げる。



「速すぎる。だけど防御結界には回復も仕込んであるから即死はないよ!」



あの防御結界にはそんな効力もあった。

即死がないなら、それはそれで結構なことだ。


ファルは5人のほうに回復のためのエーテル弾を飛ばした。

火の粉の様にチリチリと光る緑色の光の粉が全員の身体にまとわりついた。

それに触れていれば急速の回復が見込めるようだ。



「ユリオルさまは、ご自身で回復も頑張れますから、すこし堪えてください」


「大丈夫だ……!! 鉄壁ガードに大魔力を注ぎ、長期戦に備えたんだが!?」



ユリオルのガードスキルは一定時間ダメージを無効化する。

先程のことも踏まえて大幅に魔力を消費したと。

技は大幅に長持ちするはずだが。

そこはキルバーンも先回りして火力を増大しているから相殺。


結果的にガードが早々に崩れてしまい、手痛い火傷を負っていく。

ファルの回復エーテル弾を受けなければ、とても全回復に至らない。

ユリオルの表情に変化が現れる。

ギリギリと歯ぎしりが聞こえそうな程に歯を食いしばっている。


再度、鉄壁ガードを使用すれば回復も受け付けない状態になりかねない。

彼はそれを警戒してガードを発動できないでいる。


身体に一度、炎でダメージを受けてしまうとガードをしても中は燃え続ける。

更なるダメージを外から受けないというだけの技に過ぎない。



「弱者への氷漬けと、強者への火あぶり。双方の同時救命措置はキツイわね」


「こんな強敵は見たことがない。一体どこから湧いて来たんだ?」



アビリオンが冷静に形勢を見守った。

そして、デルタンは謎めいた言葉を口にする。


(どこから湧いて来たとは、なんだ? そこは、5階層の敵でいいだろ)


それはまるでこの階層には敵が出現しないことを前提としているように。


攻撃をまだ受けていない彼らが口を開いたせいか、キルバーンは彼らを一瞥する。

デルタンがそれに気づいて、こういった。



「おい、ジジイ! こっちにも自慢の魔法を打ち込んで来いや! バトルステージに上がってんのは、お前ェだけじゃねぇんだよ。客を退屈させんじゃねえよ!」


「あら~、デルタン! いつになく男らしいじゃないの! 

 いつ覚えたのよ、ソレ?」


「な、なにがだよ?」


「コ・ト・バ、の惚れ薬に決まってるでしょ。惚れ直しちゃったわ。お爺さん、あたしにも一発強烈なのくださるかしら? お熱いから冷たい物をお願い、ね?」



(こいつら、キルバーンを挑発してやがる。馬鹿か? ファルの身にもなってやれ)


挑発に乗ったのか、キルバーンが二人にも攻撃魔法を向けた。

デルタンには『獄炎精霊イフリート』を。

アビリオンには『氷結大槍ブリザードランス』を。


だが、デルタンは飄々としていた。



「魔法使いに魔法を飛ばしてくるとは所詮、操り人形だな」



デルタンは握りしめた杖から波紋状の結界を展開した。


(そうか、マジックバリアか……)


しかも吸収型だ。

受けたものが半分は自分の魔力として吸収されてしまう。

べつに馬鹿ではなかった。


だが、アビリオンはどう出るつもりなのだ。

マジックバリアのバフをすでにもらっているのか。


(いや、それはないか。あるならユリオルたちに掛けていないのが不自然だ)


何を考えての挑発なのか知らないが。

僕の刺客を甘く見ていると今に火傷することになる。



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