55 困惑の果てに
僕は今、歩きながら非常に困惑していた。
頭の中は疑心暗鬼になり、いろんなことが錯綜していく。
仲間を悪い意味で意識下に置くようになってしまったのだ。
それは五階層に下りてすぐに、あの仲間たちを魔物だとか明かされたことに尽きる。彼らとは沢山話をしたうえ、食事もともにした。何度も笑顔を見せ合った。泣き笑いもした。短いが苦楽を共にした仲だ。
では逆に問いたい。
魔物がそこまでする意味はなんなのだ。
最下層に誘ったか。
いいや、そのずっと手前、ヤナコドムの森で彼らと接触した折に、この遺跡が出現したことを感知していたのなら、僕がPTに誘われた時点で注意を促すべきだ。
その仲間をこのようなタイミングで魔物呼ばわり。
それと説明本が僕に向けて放った言葉は一体どういう意味なのか。
独白とは声を出さない心のつぶやきではない。
人に聞かせない独りごとは、ほとんど口にはしていなかった。
心の声のやり取りなら、先ほど説明本と交わした通りで、恐らくその部分だけだ。
だが同時にそれは独白ではない。対話というものだ。
まず、その一点と。
鑑定能力がもともと説明本にあったのは事実。
そこから大事なものの枠へと移動したが。
説明本にもまだ鑑定能力をオートで使用する権限があったなどと。
その肝心な事案をなぜ僕に先に説明しておかないのだ。
説明があれば驚く必要もなく、反論もせず、心の準備ができていたはずである。
17年間の長すぎた更新で何かが、ズレ込んだのだろうか。
何だコイツは、という思いである。
今朝、巡り会った能力だ。
巡り会って間もないというのに、このようなピンボケがあっては大変に困るのだ。
だが、その機能性は防衛本能の一種でもあるようだ。
僕を窮地に立たせる確立を下げる働きをするために、無断で能力を施行する。
それにしても……。
緊急の報せとはなにか。なにが起きたのか。
繰り返しになるが、
なぜ急に報せるのか。もっと手前で、たとえば森にいた頃にそれとなく伝えれば僕の方も彼らを最初から用心できたものを。
僕自身も最初は警戒をしていたせいか。
しかし、僕はなにも漏らした覚えはなかった。
スキルも万能ではないのかもしれない。
──にしても彼らが魔物だと。
それより草木を鑑定したとも言った。
するなら、すると伝えておいて欲しかった。勝手にしてほしくはなかった。
はっきり言って傷ついた。
そして改めて気付いた。
これらは生き物という認識や概念から外れる仕様なのか。
それでは僕も同様に草木の鑑定ができることになる。
いやそれらはまだましだ。彼らを鑑定したと言わなかったか。
なぜ、どうやって?
人物と生き物はまだ鑑定できないのではなかったのか。
そのうえ、だれも信用するな、とな。
きみもなのか、と余程訊ねたかったがスキルと離れ離れになりそうで、怖くてとても問えなかった。
これらが現在僕を困惑させている理由だ。
説明本は僕に旅人スキルのモブ化を使用すればいいとアドバイスをくれた。
ならば僕の中にあるものを僕は信じなくてはならない。
もうすぐ、それを実行に移すところだ。
それには仲間に敵意を向けねばならない。
もちろん、僕も生き延びるためには何だって出来ねばならない。
この先の自分の命運が掛かっている。
危うくなるなら、転移で脱出するか。
それとも他になにか良い手立てがあるだろうか。
スキルの誤作動か否かは、彼らを欺かねば答えはでないと僕は考え始めている。
「スキル、モブ化……」
そして、ファルの手をそっと放した。
一歩下がって、僕は相変わらず最後尾を歩いていた。
これですべての仲間から赤の他人として扱われることだ。
まだ誰も振り向かない。
振り向いた時の彼らの反応ですべては判明する。




