54 しごできボンちゃん
五層に降りてくると、PT全体はいつかのようにシンと静まり返る。
「また例のだんまりタイムか。」
ここにはいかなる魔物がいるのか未だわからず。
だが彼らが口を閉じる理由はひとつだ。
こちらの情報が洩れると敵が仲間に伝令を送る。
そうすると親玉の出現確率があがると。
でも肝心の魔物情報がない。
戦闘経験がないわけじゃない。なのに、わからないなんてことがあるのか。
なぜだれも情報を持っていないのだ。
もちろん、敵を狩れるようになったからといって、出しゃばってばかりはいられないが。
そんなことを考えて、少し、うわの空になっていたかもしれない。
突然、頭上からアラートが鳴り響いた。
『緊急のお知らせです! その手を放せ! その繋いだ手を!』
「(ボンちゃんなの? その手といえば、ファルの手じゃないか。
やだよ、放すもんか! つーかなにその口の利き方……)」
『ラルクさま! 急ぎ手放すのです! その者の正体は魔物につき──』
「(は? なにいってんの? 四階で仲良くご飯をたべて笑ってた可愛い子だよ?
どうして急に魔物判定になるんだよ。説明をしてくれなきゃ納得できないよ)」
『申し訳ありません。ラルクさまは独白が多いようです。そういう方のために鑑定能力だけ説明本に備わっています……』
(いやちょっと待って。なんの話?)
『ですから、鑑定能力に関するスキルはオートで発動する機能がございます。ラルクさまを危機からいち早くお守りするためです。
それによって、この者たちを密かに鑑定しました。その結果、魔物であると判明いたしました。彼らは、「エンシェントボム」。人間などではありません。
ラルクさまは騙されておいでです。
手を放した後、素早くダメージスキルで……いいえ、もうそのままスキルを発動してダメージをじかに与えて、お逃げください! 疑いを持ったと勘づかれる前に!』
(そ、そんなことをしたら……)
(ファルが死んでしまいかねない。
ダメージは750万だぞ?)
『ラルクさま! いまは誰も信じてはなりません。彼らは出会いからしてすでに怪しかったのです』
(それ、どういうことなの。ボンちゃん。)
『彼らがラルクさまを野盗から救う手前、ルディが火の手を上げて駆け出した時のことです。ラルクさまをお守りすべく、周囲の草木の鑑定を開始しました。
地から生える草だけなら情報が軽いため、森を広範囲で鑑定可能でした。そのときはまだ存在していませんでした』
(なにが、存在してないって?)
『一見何の変哲もない森でしたが、彼らがラルクさまと接した途端にこの、
「臓物遺跡」と呼ぶものも一瞬にして出現しました。
人物や生き物をまだ直接鑑定できません。
生命反応のない物質だけです。
ですので、その後もオート機能でラルクさまをサポート致しておりました。
そして彼らと一緒に「ここ」へやって来ましたね。
ラルクさまが1階層の転移台に触れた時に、初めてまた出現したのです』
(なにが、出現したの?)
『2階層そのものです!』
(え、だってそれは転移台によって起動されたってこともあり得るよね?)
『いいえ、あり得ません。その後も様子を見ていました。3階層へ降りる前にラルクさまが転移台に触れた時に限って、3階層が出現したのです。
この5階層まですべておなじくです。
これはラルクさまを転移台に触れさせなければ出現しない空間であることが裏付けられています』
(もっと他に怪しむ点はないの? それだけではね、ちょっと弱い気が)
『彼らは、ラルクさまが強くなってもさほど驚きを見せない。当たり前のように受け入れていく。私の存在ですらすんなりと受け入れすぎですし。
初対面なのにおかしくありませんか? 彼らには恐怖心が見受けられない。
いつ、ラルクさまが敵になるかも知れぬのに』
(思い過ごしという判断はつけられないの? 敵意があるなら僕の強化を促すわけはなんなのさ)
『まず確かめて見て下さい。たとえ瀕死にしてしまってもラルクさまなら一瞬で全回復できるはずです。命を落としたいわけではないでしょう?』
(ボンちゃんのいうことが正解ならヤバい。わかった。確かめてみるよ。だけど相手は9人もいるんだよ。いっそのこと転移で脱出だけしたらどうかな?)
『いけません。兄さまたちの差し金の野盗もしつこい。この者たちにもきっと追いかけられます。ここで叩いておくしかないのです!』
(彼らの目的と正体を知らねばならない、ということか
一体どうすればいいのだ)
『ラルクさま、心配には及びません。旅人スキルでモブ化しましょう。
これまでは彼らを味方として見て来たため、ラルクさまを見失うことがなかったですが、敵意を持って見てください。彼らにも有効になりますから』
(なるほど。揺さぶりをかけてみるよ。それにしてもボンちゃんのしごできぶりには驚かされたよ)
『それは……褒め言葉でございましょうか?』
(そうだよ。仕事のできる人って意味だからね。こいつらを倒さなきゃいけないのは正直ショックだよ。せっかく仲間ができたと思っていたのに)
『森のインプは人間の思考に入り、楽しいこと、嬉しいこと、欲するもの、会いたいもの、好きなもの、望みのものを夢見のちからで見せて油断させます。
その上位種だとすれば、皆がラルクさまの好みに近くても頷けます』
(チャーム(魅了)だな? それなら魔物が幻覚だったかもしれないが、なぜレベルが上がったのかという疑問も残るけど
ユリオルは容姿も逞しくて顔立ちもよく、かっこいい。デルタンの魔法も豊富で頼もしい。アビリオンが女性だったのは、年上のおっさんばっかのPTだなと一瞬だけど思ったときがあるよ。シオンはやさ男だけど錬金術師で鑑定眼持ち、わくわくした。ファルはかわいいタイプの治癒士。僕はかっこかわいいが好きだからな)
『ええ。ですが、このまま最下層に降りてはならない。そこに守護者がいるというところに落とし穴があるように捉えますが、ラルクさまの意見をお聞かせください』
(ゲームだと嫌な展開になるパターンがある。僕を強くしておいて、僕にそいつを始末させるんだ。そしたら不吉な何かの封印が解けてしまい、世界にとってとんでもない災厄を解き放ってしまう、とかね)
『十分に考えられます。彼らは最初からラルクさまをここへいざなったのです。このまま6層への階段部屋が見つかれば、降りるしかありません。
ラルクさまが拒絶されれば、強引に連れて行くだけの何かを隠し持っているかもしれません。用がすめば、殺される可能性がございます。
なんとしてもこの階で目的を吐かせるか、できなければ逃げるしかありません』
(それにしても……)
『……はい?』
(ううん、なんでもない。ありがとう、ボンちゃん)




