51 それぞれの試練
オークの一団が目の前に立ち塞がる。少なくとも7~8匹。
「……あッ!」と驚いた。
僕にも敵の姿がやっと確認できたから。
他の者も同時に意表を突かれたといった声を漏らしていた。
敵の姿が見えたと同時に、その異様な光景に目を奪われる。
聞いていたオークは2メートルを超える巨躯。
小脇にうら若き巨乳の美女を抱えていたのだ。女は3人いた。
3人の美女は露出度の高い、水着姿のような感じで一体、何気分でこの遺跡に足を踏み入れたのか。
だがオークにしてみれば、人さらいの最中だろうか。
僕らと鉢合わせをしたといった感じで、鼻息を荒くしている。
その美女たちを奪い返されないかと案ずるように、怒りの表情を浮かべている。
何もしていない僕らはオークに睨まれている。
そういえば、遺跡には先客がいるとデルタンが言っていた。
「デルタン、あれが例の先客でしょうか?」
「いやそれは知らんが。見たところ、女盗賊のパーティーみたいだ」
「いや~ん、放してよ! 汚らしい、鼻息の荒い変態男っ!……」と、
言っているか、言いたいのかわからないけど。
なにしろ、猿ぐつわを嵌められていて、もごもごとうめいている。
細長い美脚をばたつかせて、嫌がっているのは確かだ。
「ぜったい嫌がってますよ、アビリオンもそう思うでしょ?」
こういうケースって、アビリオンに意見を求めるのが筋かと思い。
ナイスガイは絶対に助け出すと決めて放置するわけがないものだ。
そうなるとオークを討伐しなければならない。
アビリオンがオークの脇に締め付けられる女人を見て、
「たくましいマッチョに抱かれてお持ち帰り、ああ憧れでもあるわ~!」
「へっ? また変な口調になって……アビリオン!? どーしたの」
戸惑っていると横から「この際だから」と
デルタンが僕にバツが悪そうにいうのだ。
「隠しておくつもりだったが、こうなってしまっては困惑の元だから。
ラルクさま、アビリオンは女なのです」
「はあぁ??? で、で、でも……顔立ちといい、立ち姿と言い……」
「気持ちは分かるが事実なのです。男の娘の逆で、女忍ってやつです。
幼少に貴族に拾われて、旦那様の趣味でそういう風に育てられたんです。
賜ったスキルも一役買い、彼女もそれを強く望んでのことだった」
「お、お、おんなのこ? アビリオンが……(アビリオンちゃん?)」
確かに暇と金を持て余した貴族に変わり者はいる。
召使いなんかを着せ替え趣味で高く買い、寵愛するのだとか。
その人が納得して幸せなら愛の形は何者にも問われない。
「ひっ、人を見た目で判断してはいけない。
い……いけないんだ」もう僕はまともに彼を見れない。
下民は貴族に拾われれば貧しい路上生活から抜けられることもある。
あの、敵を殴れば経験値になるスキルが後押ししたんだな。
それなら納得するより他はない。
「だから男性とは縁がなく、憧れが募っていき、時々こうなる」
「それじゃ、オークをタコ殴りにできませんね?」
「だからといって魔物を斬れないような軟な戦士じゃないよ、アビは」
「ファル……そ、そうだよね」
僕はその時、閃いた。
提案がある、と。
「さっきもいったけど、オークの怪力で僕も全身をぶって欲しいんだ……」
「ラルクさまぁ! いい趣味をお持ちなのですね! アビぃ感激ですわ!」
「あ……ちがう、ちがう。変な趣味とかじゃない、誤解しないでくれ」
何とかアビリオンが大きな間違いをしないで済むように説得した。
まずは女盗賊たちを救出するべく働きかけようということになった。
レベル帯は65だと皆がいう。
オークには僕が襲い掛かる。
腕力ではない。
いかづちを範囲で浴びせてみた。
もちろん、美女を抱えていない個体を攻撃した。
「ぐぎゃっお!!」
僕のいまの魔力量からすれば、かなりのダメージのはず。
オークたちは敵意を感じたようだ。
僕に向かって怒りを露わにする。
手に持っているこん棒は、まるで石の電柱と変わらない。
振りかぶって、ぶんっとフルスイングをする。
それを狙っていた。
防御結界もなしで、ファルを少し遠ざけて、敢えてガードもせず腹部に受ける。
果たして、15000の防御力がどのぐらいなのか。
防御力が高いのでビクともしないかと思いきや。
なんなく弾き飛ばされた。
体重58キロのスリムボディは軽々と持ち上げられ、遺跡の壁に激突した。
腹部に横殴りでバットがダイレクトに直撃した。
その衝撃はいつか体験したそれに近い。
トラックにはねられたときの衝撃と恐怖が身体に走る。
痛みは電光石火だ。
「衝撃はあった。だがこの程度なら。HPは減らない。回復はいらない。
もう一度だ。喰らえ、裁きのいかづちっ!!!」
僕はスクッと立ち上がると、オークに近づき、また雷攻撃を吹っ掛けた。
オークは僕にだけ怒りの炎を燃やして、今度は複数で袋叩きにしてきた。
「効かないな。4匹が渾身のちからで殴り掛かっても、一発で4000程度のダメージにしかなってないのを感じる。まだまだ、殴らせなきゃ」
心配する皆に、手を向けて大丈夫だと合図する。
同じ動作を約2000回ほど繰り返させようとしたのだが。
どうやらオ-クの方が根負けしたみたいで白旗を振ったのだ。
HP500を削り切るにはそのぐらいのダメージを体感しなければと。
「まあ、ざっと750万のダメージを喰らわせてもらった。これでよしとするか」
皆は口をあんぐりと開けて、状況を見守っている。
オークたちは美女たちを手放した。
ぐったりとして、力尽きたみたいでその場に横たわっている。
「それでは受けたダメージを無限アップデートします!」
『750万の「ダメージスキル」を獲得しました。
スキルは無限消費です。
このダメージは命中させさえすれば、無効化することは出来ない』
ラルクの攻撃スキル:「750万固定ダメージスキル」
「──というものを獲得できました。やっと僕もまともに敵を撃破できるようになりました! たまに攻撃に回させてください。お願いします!」
「「いや……なにそれ!」」
一同が声をそろえる。
いつかの僕のセリフみたい。
「これまでに遭ったどんな魔物でもHP50000が限度だったぞ」
「いや我々、Sランク護衛部隊は魔人クラスと対峙したこともある。
まあそれでも、200万までだったな……」
オークどもは戦意を失くしたように無抵抗で女盗賊たちは救出できた。
女たちは、僕に駆け寄り、礼をいうとうっとりしていた。
「アビちゃん、ごめんな。憧れのマッチョオークを全部喪失させちゃって。こいつら体力が精力もろとも尽きたみたいで」
「何言ってんのよ、ラルクちゃん。どこも怪我はなーい? ずいぶんとタフになったわね。あたいは顔ブサのオークなんてどーでもいいのよ。
よく彼女たちを助けたね、えらいわ」
「そりゃよかったよ」
僕は、床に這いつくばるオークに近づいた。
こちらが指一本でも触れた訳じゃないから、へとへとになってるだけみたい。
彼らに両手をかざした。
「全回復魔法!」
「ちょっと、なんで魔物なんか回復するのよ!」
そう言ったのは囚われていた女どもだ。
「もう楯突くこともないだろう。肉体が崩壊寸前まで攻撃を止めれない体か。
魔道チップも暴走してショートしたんだろうな」
甦り、元気になったオークは敵意を向けては来なかった。
オークから見て僕らは、もう敵対者ではなくなったようだ。
「すごい……ラルクちゃん、男前ね!」
アビリオンが羨望の眼差しで僕を見つめている。
ま、気のせいだろう。
皆、似たようなものだし。
オークたちは、この情報を仲間に伝えにいってくれた。
走り去っていった。
これでこの層もクリアだな。
女盗賊たちは、僕の転移スキルで外の森へと出してやった。
つぎは第四層へ向かう。




