50 賢者の系譜
急に彼らが真面目にひれ伏し続けるので、「僕は先を急ごう」といい、無視して歩き出した。まるで家の中と変わらないのが嫌で。
悪役に生まれてなくとも貴族は庶民との格差を唱える傲慢な生き物だった。
せっかく仲良くなれると思っていたファルたちが忠誠心を抱いた。
友として信頼をなくして、ルディの二の舞になればまた孤独に晒される。
たとえ馴れ合いは無理だとしても。
冒険者PTとしての付き合いは続行したい。
ふと振り返り、
「ファル……。どうして領主のことを僕に聞いたの?」
「け、賢者の系譜を口にする家柄は貴族しかいないからです」
「系譜のことは僕が決めたことじゃないから。僕だってその悲運からこうして逃げて来たわけだし」
ファルと話していたのに、ユリオルが割って入ってきた。
「ラルク。賢者の系譜には興味はないのか?」
「え? 僕はそれが嫌で挫折したんですよ?」
「それなら無理になろうとせずともよい。候補は世にいくらでもいるのだから」
「候補が世の中に……いるのですか? どうして? うちの家系のことなのに」
ユリオルが意味深に目を細めた。
そして妙な質問をするのだ。
「ラルク。君は賢者の系譜が何かを知らないのではないか?」
「し、知らないだって? ユリオルの旦那、いくら坊ちゃまでもそりゃないでしょ」
アビリオンが血相を変えて否定する。
僕が「先祖代々に伝わる……云々と」語ったら、一斉に振り返った皆の目が点になっていた。
またフリーズさせたみたいだ。
ユリオルがそっと、手ほどきをするように。
「ラルク、賢者の系譜とはそういう一子相伝みたいなことではないのだ」
「え? じゃあ何だというのですか?」
「魔王在世のとき、その討伐に当たった6人の勇者がいたね」
「……はい」
「その勇者たちのPT名が「賢者の系譜」というのだよ」
「いっ! かつての勇者のパーティー名ですか!?」
「そう、再び魔王が復活した際に備えるために強き者を輩出するため王族と貴族が総力を挙げて支援してるのが冒険者ギルドだ」
これは完全に知らなかった。
なにも教わって来なかった? 教わったかも知れないがよく覚えてない。
少なくともラルクの中身の僕は知らなかった。
「もちろん、知らない者もいるだろう。魔王なき時代が長すぎて……」
「勇者たちの記録によれば、6人の勇者たちは皆、貴族の出だったわけだ」
「だから歴史の中でとくに貴族は「賢者の系譜」の有力な候補として持ち上げられる風潮があって、その手の評判が街の者から絶えなかったりする」
「戦闘を好まない町民はその手の英雄を貴族たちに押し付けがちになるのさ」
「ただ、候補を自ら名乗ると王族から寵愛の対象になることも周知されている」
だからか。兄たちは家督を継ぐだけじゃ不服で、僕を亡き者にする計画を。
「賢者の系譜なんかより、強さを手に入れるのが先決です。僕なんて皆さんの足元にも及びません。ここで少しでも強くなっておきたいんです!」
僕はその言葉をファルに向けて強調した。
ファルに抱きしめられたとき、初めて人の愛を感じた。
この人とずっと一緒に暮らしていきたいと、強く願った。
ルディやマチルダが床にひれ伏すのは家の使用人だから仕方ないけど。
ファルとはその関係になりたくはない。
もっとラフでフレンドリーに。
「ファル……これからも、友でいてください! ひざまずくなんてこと止めて欲しいんだ、お願いだよ、ファル」
「ずいぶんと気に入られたようだなファル。兄弟ともども宜しくして頂けるなら喜ばしい限りです。ラルクさま」
「シオンさん……ありがとう」
「いいの? オイラたちの家には家系図などはないよ。どこの馬の骨ともわからない下民だよ?」
「僕も貴族の生き方に嫌気がさして逃げて来たんだ……だから友達がほしいんだ」
シオンの助言があってファルも心を再び寄せてくれるようだ。
僕はファルの手をぎゅっと握って連れ歩くように。スキップをした。
そうこうしてると、ガハ、ドハ、イヒの3人が斥候から戻って来た。
「三層への階段部屋を見つけておきましたぜ!」
「よっしゃあ!」
二層は親玉を呼ばれずに突破できたみたいだ。
無事に三層に降りていく。
僕はファルの手をぎゅっと握りしめ、絶対に放しはしないと決める。
「ラルク……痛いよ……」
「いいの、君とはぐれないようにしたいの。ファルは僕が守るんだから」
盗賊の案内で三層に降りてきた。
「アビリオン? つぎは何がいるんですか?」
「そうだな……三層目はたしか、オークという野蛮な亜人が出ます」
オーク。
筋肉隆々の大男か。
上下の歯も嚙み合わない醜い顔が特徴のほぼ全裸の不潔そうな輩か。
だが怪力の持ち主なのは好都合だ。
「手にこん棒とか持って力任せにぶん回していそうなアレか?」
「たぶんそれです」
「よし、そいつの相手は僕が引き受ける。襲ってきたら僕が囮になるのでみんなは転移台探しに行ってください」
「引き受けるって。途轍もない怪力ですよ。このレベル帯だとオークキング並みといっても過言ではないですよ」
「いいんだ。でかいダメージをこの身に浴びたいんだ。協力して、きっと良いことがあるから」
「また何か思いついたようですね。危険を感じたらファルが即座に回復するんだぞ! いいな!」
そうと決まれば、ずんずんと歩き進む。
そしてオークらしき一団と遭遇する。




