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49 ラルクお坊ちゃま!



物質系との戦闘に慣れて来た。

苦手だった敵だったのに、アビリオンにとって二層は狩場となった。

戦闘はデルタンとの連携でユリオルもいるし快進撃と。


ドハ、ガハ、イヒの3人が転移台探索に専念するため隊を離れた。

残り7人でゆっくりと二層のフロアを移動する。


魔道チップという聞きなれない希少アイテムを入手したくて無理を通した。

PT追放の条件まで突きつけられたがウォーターハンマー現象が敵にさく裂。

結果的には皆も大喜びだったが。


魔道チップを手に取り、見つめながら歩く。


効率のためといえファルには酷い言い方をした。悪役で生きた悪い思考が未だに残っていたか。別の機会に詫びるとする。


しかし、アビリオンの言葉通りなら、見栄えなく他者を攻撃する。

相手が絶命するまで殴り続ける殺戮マシンと化すなんて。

それでは悪役で生きた以上の本物の悪魔と化してしまう。


これのリスクについては計り知れない。

このチップをいま無限アプデするのは賢明とはいえない。

もう少し検証研究が必要だ。

安全を優先して無限の鞄の中に据え置きにしておくしかない。


それより、ファルの勧めとアドバイスは的確だった。

この身に受けたバフ恩恵を無限アプデしてスキル化に至るなど。

だが注意点もある。ダメージも含むので気を付けねばならぬとあった。


気になるのはそこだ。


いまの僕のスキルは防御や回復には適した効果ではある。

でもアタッカーには向かない。

ここじゃ敵のレベルが高すぎてまだソロで戦えない。


だがあの時、閃いたのだ。

自分の身に蓄積されたダメージ自体もスキル化できてしまうことに!


防御結界で身を守るのは常人。

新スキル特性を最大限に活かすなら、結界を外し、ダメージを一身に浴びる。


『吸収覚醒』スキル。

それを伸ばすならこの臓物遺跡の場面を於いて他にはない。

僕の体力はまだ小さい。

いま物質系をも積極的に狩るようになったので。



レベルが41に上がった。



HP体力  500

MP魔力  123 +500(仙人の杖


こうげき  41

ぼうぎょ  41+15000(旅服



☆「黄金体験期」を40年分獲得。


☆仙人の旅人から『究極の旅人』10年目に突入した。


☆『究極の旅人』:防御+15000

 仙人恩恵:空を飛ぶ 

 究極恩恵:聖地歩行(時空を超えた心の旅






「うおぉ! 旅スキルがえぐいことになってる……」



ユリオルの体力3000と比較しても防御力だけでその即死ダメージを5倍上回っていることになる。


この遺跡の現時点でのレベル帯の敵ダメージが彼らに即死ダメージを与えていないのは戦いぶりからすでに判明している。それには防御力が関係しているはずだ。


「うおおぉ興奮が止まらない!」


ここは防御結界を敢えて外して、自身により多くの被ダメージを浴びてみたい。

「絶対、そうすべきなんだ!」


さっきまでは体力が低いことに危惧があり、試みる勇気が湧かずにいたが。

「防御力がここまであるなら、いける!」


この身にダメージ蓄積をしてこそ『吸収覚醒』の本領を発揮させられる。


僕が瀕死になる頃に、「受け続けた総数ダメージ」の無限アプデを試みるのだ。

そうなれば……この世でもっとも理に適った攻撃法が誕生する。





それに今回は究極仙人の『聖地歩行』なんてものもある。



「聖地歩行を鑑定!」



【聖地歩行】:心眼が時空を超え、体験上の場所を自在に行き来する



「これは……! 転移スキルのことじゃないか!」



やった! 転移スキルを手に入れたぞ。

転移台の持ち帰りなんて目じゃない。


明確にたどった場所なら転移が可能だということだ。

それなら外にも自在に出れるし、家にも一瞬で戻ることも可能なはず。


いやしかし、まずは誰にも屈することのない火力を有するのが先決だ。

いまはこの試練を頑張るしかない。

聖地歩行のことはしばらく皆には伏せておこう。


不意にアビリオンの声がした。



「やけに大人しいじゃねぇか、坊や?」


「回復契約だから攻撃に参加できないのが、きっと、もどかしいんだよ」



ファルが気持ちを察してフォローをしてくれる。

あれだけ敵の撃退法に私情を挟んだものだから。



「お前のこたぁ認めてやる。またなにか妙案でも思いついたら皆で検討してやるから意見をすることは許してやる」


「すごいなラルクは。雇われのヒーラーが戦闘に指示入れるPTなんて稀なんだよ」



アビリオンも認めてくれてファルも感動の声を寄せている。

さらに学者肌のシオンも言葉を添えてくれた。



「配管の中で時々起こる厄介な現象を逆手にとるなど、奇抜なアイデアだった」


「そんなに勉強ができるなら将来は賢者にでもなるか坊や?」


「僕が……賢者? 冗談は顔だけにしてよ、デマン」


「本気で褒めてるんだぞ? その歳でまだ成りたいものがないのか?」


「ラルクはどうして魔法が苦手なの? そんな知識に恵まれているのに」



どうしてといったファルの顔を見て言葉を喉に詰まらせてしまう。

悪役転生の話ができないこと、運が0の呪われたスキル付与に振り回されたしょっぱい青春だったこと。苦い思い出が一気に頭の中を駆け巡った。


心苦しさしか思い当らなくて困っていると。


ユリオルが助け舟を出してくれた。



「たしか魔法指南を受けていたな。幼少にくじけたといってたが……?

 その教育を受ける理由は何なのだ? 実家は商家なのだろ?」


「そういやそうだよな。お金持ちの坊やなのに。冒険なんて死と隣り合わせの世界にわざわざ身を置くための稽古なんぞして。護身術にしても道楽が過ぎるってもんよ」



アビリオンの疑問点も尤もだ。

僕自身も家系の呪いだと思ってきたほどだ。



「家系の呪いのようなものです」


「呪い? なんだそりゃ」


「僕の家は、アッシュルーズ家というのですが……」


「うむ……たしかそんなこと言ってたな。あの野盗どもも」


「代々「賢者の系譜」ってのに当たるんだそうです……」


「……なッ! ラルク……」


「おい坊や、いまなんて言った!?」



うん?

ユリオルとアビリオンの声が上ずったように聞こえたのは気のせいか。

話しかけたことを途中でやめるのはストレスなのでそのまま話し切ることにした。



「2人の兄はそこそこの魔力に目覚めていて素質有りですが、僕だけはからっきし魔法の才能に目覚めなくて──それで魔法指南役を付けられたってわけです」


「ラルク……まさかとは思うけど、君ん家はレイナルーズ領主となにか関りがあったりしないよね?」



突如ファルがうちの領主を気にしたのだ。関りも何も……、



「どうしたの、ファルさま? 領主様は父親の兄上で、僕の叔父上なのですが……」



皆の顔が一変した…………目を見開き、歩みを止め、僕を囲んで息を呑むように会話の流れがピタリと止まった。

また例のフリーズですか。いったいどうして。



「領主様の甥っ子?……なのですか? ほんとに、ほんとに、ほんとに?」


「なんで……お貴族様が、冒険者なんかをなさっておられるのですか??」



デルタンや護衛部隊のデマンとワキも、しつこく訊き返すのだ。


あんなに上から目線のアビリオンが足を止め、僕の目の前でそっと跪くのだ。

ファルもシオンも同様の姿勢をとった。

そして面を上げぬまま、口を開くとこういった。



「ラルクさまっ! どうかこれまでの非礼をお許しください!

 知らなかったのです! あなた様がレイナルーズ公爵様の甥御だなどとは」


「ちょっとアビリオン、またなんのジョーダンですか? 様付けなんて気色の悪いことはやめて……」


「奴隷商に売り飛ばすのだけはご勘弁を!」


「……はあ?」


ナイスガイのアビリオンがなんて情けない声を出してるんだ。

いつかスラム街で見た、まるで物乞いのそれと同じだった。


するとファルとシオンまでも同様の言葉使いで。

僕の足元にメイドの様にひれ伏した。蚊の鳴くような細々とした声で。



「ラルク坊ちゃまっ! 

どうか危機をお救いした功に免じて不敬の数々をお見逃しください!」


「ちょ、ちょっと……ファル……」愛しのファルまで態度が急変し、他人行儀に。



祈るように組んだ両手をふるふると震わせている。涙目になって。



まさか、貴族に対してここまで律儀に振舞う人たちだったとは。

10歳のスキル付与まで僕だって街の人々からそれはもう大事にされていたよ。

まるで王族であるかのような扱いを受けていたけど。

それ以降は父親からも厳しくされ、兄弟からも蔑まれて害毒であるかのようだった。


すっかり忘れていた。


この世を統べているのは貴族だということを。

素性は隠して置くべきだったのだが、もうどうにもならないや。



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