48 ちいさな親切、大きな感謝
結界は体力のない術士の身を護るために張っているもの。
僕も戦えるなら攻撃側に行きたい気持ちはある。
行けば、回復は後衛にまかせて得意げに戦術を披露してしまうことだ。
戦士で生きて来たなら当然その気持ちは強いだろう。
魔法よりかは、打撃と突きが物質系には有効打となる。
アビリオンはちゃんと大人だ。
この場面でアタッカーの意地を見せたいところだが、戦況を見極めれば、
「俺が、俺が」と前に出るより強き者に頼り、突破を優先する。
ファルによると、敵の身長はゴーレム並みということだ。
190センチ。長身のアビリオンよりもでかいのか。
また僕の結界の障壁に転がってきて背中をぶつけるアビリオン。
「アビリオンっ! ハンマーで敵のどこを攻撃してるの?」
「あ? そんなもん、どてっぱらに決まってんだろが!」
「フラスコだから、ふっくらした部位を狙っているのか……」
アビリオンは僕に少し振り向いて、戦闘は俺たちに任せていろ、と。
なにもできないもどかしさで僕が口を挟むのだと感じたみたいだ。
彼は、僕に吐き捨ててまた魔物に立ち向かっていく。
すかさず、ファルに尋ねた。
「敵は背がどんなに高いの?」
「アビの肩にきみが乗っかったぐらいだよ」
「敵の吐く毒液はそいつの体内に入っていたりするの?」
「いや、液体なんか入ってなさそう。頭上の口元から出ているみたいだよ」
何もこちらに瓶の口を向けるために頭を垂れて、お辞儀をするわけではないと。
毒液を噴水のように敵対者に飛ばしてくるそうだ。
盗賊たちもそれはパリィせず、よけるみたい。
躱さなければ猛毒は強酸性があり、金属製の盾も溶かす恐れがあるようだ。
「それじゃ、蛇とおんなじか。口内に毒を造る器官があるのかも」
「え、なにそれ……」
「えへ。こっちのはなし」
身体はほぼ透明で、体内に液体が詰まっているわけではない。
本当にただの日用品の魔物だった。
その体のどこかに、例のチップが埋め込まれているのか。
解明されていないからこそ貴重なアイテムなのだ。
僕の気持ちは参戦して、いいところを見せたいのではない。
物質系の魔石を獲得したいだけだ。
高レベルのレアドロ。いまだからこそ。
戦いの作戦は前衛に権利がある。
それなら、ファルから伝えてもらえばいい。
ファルの心を揺り動かすときが早くも来るとは。
「ねえ、ファル……」
「どうしたの?」
「シオンさんを動かして、デルタンを味方につけて」
「ラルク……みんな味方だよ?」
「そうじゃなくて。お願い! この敵を粉みじんにしなくて済む倒し方なんだ」
でもファルは戦いは彼らに任せれば終わるのは時間の問題だという。
だろうな。
一筋縄では彼らのPTの方針は崩れない。
「ファル……僕のことを信じてくれないか? 一度だけでいいんだ」
とにかくしつこくする。
アビリオンはピリピリしている。一度、キリがついてからにして、とファル。
さらに、しつこくする。
するとファルも思案する。でもヒーラーは指示を出さないのがPTルールみたいだ。
僕に構ってあげたい気持ちは見せるようになる。
そこで、少し気が引けるけど兄弟の話を切り出す。
「僕は今日、実の兄弟に、ふたりの兄に殺される運命だった……」
「……ラルク! いまは、忘れるんだ。あとで聞いてあげるから」
「ファルが助けてくれた。ファルが本当の兄さんのように思えて涙まで見せて甘えてしまった。僕も、ファルに優しかったころの兄の姿を重ねてしまったから……」
「……ラルク」
ファルが目を見開いて僕に注目した。
「……ごめん。わかってる。僕に兄なんていない。ファルとは出会ったばかり。ファルにはシオンがいる。一緒に本気で生きてくれる……兄さんなんか、いないんだ」
そう口にすれば本当に悔し涙が滲んで来る。ああ勿論、演技だよ。
「……あ、いやその……まって、ラルク……」
「いいんだ、忘れるよ。助けてくれたこと感謝するけど……ごめんね。すっかり勘違いしてたよ。シオンさんはファルの兄さんだったね」
ファルから目をそらした虚ろな視線を、床に突き刺す。
滅茶苦茶に気が引けて来た。でもあと少し。
ファル、ごめん。本当にごめん。感情は最高潮に高まって来た。
「オイラが弟のように思ったのは本心だよ。わかったよラルク、やって見るよ。
きみを信じるから、もうそんなに思いつめないでくれよ」
ファルはそういって、なにを伝えればいいのかと相談に応じてくれた。
「……でね、デルタンに氷じゃなく、レインを使ってもらって。
魔物の口から腹の中に流し込む……」
「うんうん、それで」
「僕、空を飛べるから」
ファルからシオンへ。
シオンからデルタンへと伝令は速やかに流れた。
デルタンは、水魔法を上空から降らせた。
魔物の体内に入ったのを確認次第、僕がアビリオンの踏み台になり上昇した。
アビリオンは頭上にハンマーを振りかぶって、魔物の口を塞ぐように叩けばいい。
怒りの鉄拳がごとくにアビリオンの気合の奇声が轟く。
「れっど……うおりゃ────ぁぁっ!!!」
アビリオンは僕の背中を踏んだとき言ったんだ。
なにも成果が得られなかったらレッドカード1枚だと。
それが意味するものはPT追放だと。
感情がこもりすぎて、掛け声をとちったみたい。
どっかぁ────んっ!!!
まるでマグナム弾で打ち抜かれたように物質系の装甲に風穴を開けた。
魔物の身体の性質に守られて、他はヒビが入るにとどまった。
だが生命反応は消え、その個体は死に絶える。
魔物の腹の底だけが見事に破裂した。
いわゆる、ウォーターハンマーを作り出したのだ。
物質系のレアドロ、「魔道チップ」が大量ドロップした。
「やったぁ! でかしたラルク! まさかこんな必勝法があるなんてよっ!」
「僕も飛べるようになったから可能になったんです」
「よくわかんねぇけど、今日からこいつをウオーターハンマーと名付けるぜ!」
アビリオンはウォーターハンマーをものにした。
レインが使えなくても、水の魔導石で補えるから。
このレベル帯でPTを組まないのもあり得ないし、モノにしたと言えるはず。
ユリオルも中級のハンマーなら、扱えると喜びの表情を覗かせた。
「この層も楽勝になったのか!? 楽しいぜ!! まったくラルクってやつはよ」
皆が上機嫌になり、他の物質系も防御結界で包んで叩けば討伐完了だった。
つぎの第三層に行くまでの道中、僕のお家騒動についてじっくり耳を傾けてくれることとなった。
「家の財産で揉めるのいちばん最悪のやつだな」
「いや、それが暗殺の動機はまだよく判明していない」と伝えた。
悪役転生だとは明かすわけには行かないもの。




