47 苦戦のアビリオン
臓物遺跡の第二層へたどり着いた。
僕は皆のおかげで未だ無傷。
そして多くの有益なスキルを得ることができた。
これまでの人生とは逆行するようにうまく事が運ぶ。
果たしてファルの生い立ちだけの理由なのかと不安にも駆られた。
横目に彼を見ると、ファルは道端の採取物を腰を低くして物色していた。
仲間が強くなれば頼もしいけど。
僕は悪役転生を受けた存在。
いつ誰に妬みを買っても不思議ではない。
内心で抱える不安を隠すように舌がまわりだす。
「第二層も、よそで経験済みなんですよね?」
「まあな。俺の経験からすれば二層はカチカチの我楽多が出現する……」
眉間にしわを寄せながらそう答えるのはアビリオン。
「ガラクタ……ですか?」
もちろん魔物の話なのだろうけど。
アビリオンの発言に補足を加えるのはデルタン。
「物質系の魔物だよ。その手の奴はいつもアビリオンがハンマーで粉々に粉砕するから、全部ガラクタに変わっちまうのさ」
なるほど。
しかし、アビリオンは自分のせいではないと弁明を入れる。
「破壊するしか倒しようがないのだ。剣ではぶった斬れない。愛用の剣が刃こぼれしたら困るんで、ハンマーで叩き壊すしか手がないんだよ」
第二層は物質系の魔物か。
代表的なのは、ゴーレムや土偶で割と巨大な異形が連想される。
遺跡の調査の仕方は、呑み込めたから。休息せず歩を進めている。
「デルタン、物質系も浄化対象に入りますか?」
「物質系は体内に魔導チップが埋め込まれた兵器だから──」
デルタンの言い方からすると望みの回答ではないようだ。
「魔導チップ……?」
「敵対者と見なした輩を葬るまで攻撃の手を弛めない命令が施された人工魔石さ」
「それって、魔導石に似ていますね」
「うむ。それを研究して我々は魔導石を開発したわけだ。我々のはその模造品だ」
命令が書き込まれている魔石をもとに、魔法付与を成功させたのが魔導石だ。
ものまねに過ぎない魔導石より本家は手強いってわけだ。
「命令文を書き込んだ方法はどこまで解明されたのですか?」
「まだ遠く及ばないが、奴らの体内から取り出す魔石が魔力に呼応しているのは確かなのだ。そこで属性魔力を注入すると相性によっては上書きできると判明してるよ」
「上書きをすればいいの?」
「そうだが、より強力な魔力であることと、相性がだいじだ」
魔法属性の相性のことか。
「魔法属性のことですよね? 火と水、風と土、光と闇という」
「そうだ。だが物質系のそれは排除命令だ。どの属性もそれに該当しないのだ」
これが解明されたら、頑丈な物質系を味方に変えられる。
命令なのだから何者かの意思ということ。
「魔物は魔王の眷属だから、魔王が操ってるんじゃないですか?」
「おい坊や。そいつは無知が過ぎるぜ!」
デルタンと話してたのに、アビリオンが説教臭く窘めてきた。
「いまは魔王のいない時代だ。何者かの意思は魔導チップの命令だけだ。それさえ破壊すりゃ止まるし、攻撃もパターンがあって見極めれば案外単調だ」
「さすが脳筋、壊せば停止っすよね?」
「なんだと? ひとこと余計だぞっ!」
魔王はいないから、やはりプログラムされたチップの成せる業だと。
「そのチップを壊さずに入手できたらなぁ」
「馬鹿はやめとけ! あれを取り込んだら死ぬまで人を攻撃するんだぞ」
アビリオンなりに身を案じてくれていた。
そうこうしているうちにステータスウインドウにアラート反応があった。
「……あっ!」
「皆、用心しろ。来るぞっ!」
そうか、ファルがくれた防御魔法が知らせてくれたんだ。
気配察知を含んでいるなんて、優秀だなファルのスキルは。
僕の浄化スキルを無視して噂の物質系が3体ほど出現した。
防御結界に影が映し出されている。
天井付近からゆっくりと下降してくるようだ。
まだ魔物とのレベル差が大きいようで、僕には視認出来ていなかった。
「結界に反応があるけど、まだ見えないみたいです」
「しょーがねぇよ。坊やは基本回復でヨロシク! なんなら目を瞑ってな」
僕だって強い魔物を見たい。アビリオンも一言多いんだよ。
「アビリオンおじさん、戦闘がんばって!」
「おじ……って、見えるようになっても小便ちびるのがオチだから。ここはオトナの戦士に任せておけ!」
アビリオンが剣を腰ベルトから外した。ハンマーに持ち替えるようだ。
装備を外した瞬間にそれはアイテムとして目に止まった。
僕は失礼ながら、無意識に「目視鑑定」に至る。
LV60 ギガントソード 両手剣
こうげき +120
付与魔 火炎+50
買値 500000G
持ち主 アビリオン・シャルバーヌ
作者 アスバルド領 武器ギルド アーガスタ親方
それを収納にしまって取り出したマンマー
LV60 アイスクラッシャー 両手
こうげき +105
付与魔 氷結+50
あとは同じか。
戦闘になったのでファルが隣に戻っていた。
ファルにそっと尋ねた。
戦士でも収納魔法を習得しているのかと。
ファルはちがうと答えた。
術士じゃない者たちは魔導石が収納の役割を担っている。
結界にズド──ンと衝撃が走った。
物質系の魔物がぶつかってきたのではなく、前衛のアビリオンが弾き飛ばされてきたみたいだ。
「はあー!?」
物質系は火炎も氷結も有効打になる。氷結で動きを固めたほうが有利。
しかし、勢いよくぶん回したハンマーを敵にぶつけてみたが相手が堅すぎて、自分の力で押し戻されて僕の防御結界に振動が伝わって来たのだ。
しばらくその繰り返し。
魔物の動きは遅延効果を得ているようで、デルタンも氷結を飛ばして加勢している。
いったい魔物は何だろう。
シオンに聞くと、
魔物はLV60帯の「悪魔のフラスコ」という瓶の形状をした奴だと。
同種のものに酒だるや徳利みたいのもいるのだとか。
敵の攻撃は体当たりと猛毒吐き、強力なまどろみだ。
それは酔いつぶれたオヤジと変わらん。毒は無効で眠りかけもファルが解除する。
体当たりによる外傷も打撲も僕がリカバリーしている、とくに問題はない。
「ハンマー攻撃と魔法攻撃が地道なのだ。効いてないのではなく、少しずつ削っていく感じだ。こいつらとはいつも持久戦だ」
敵の姿を目視できない僕にファルが実況してくれる。
どちらの攻撃もレベルが大きく上回っていれば、もっと楽にクリアできる。
「俺たちのレベル不足か。ちっ、ここは旦那たちに期待するか。ユリオルさま!」
ここに来てAランクの力不足を実感し出す。Sランクの護衛部隊を素直に頼る。
ユリオルたちならLV90帯だ。
しかし、生憎だが盗賊2人はパリィが精いっぱい。ダウンで動きを止め、時間稼ぎ。
ユリオルは槍を構えて、突き攻撃を繰り出していく。堅いものに尖った槍はとても相性がいい。敏捷性に優れた槍突きは軽快なフットワークを見せている。
「うっひょう、ユリオル様──っ! すてき過ぎますって! 今宵の抱かれたい男ナンバーワンに輝くでしょう!」
ユリオルには物質戦が優位のようで、すでに1体を撃破していた。
それなら、あと少し粘っていればいいか。
暇が高じて、僕が余計な声援を入れたからだろうか、アビリオンも戦士の意地を見せているようだ。
おとなしく防戦一方の姿勢をとって、剣を鞘にしまうような性格ではなさそうだ。




