46 進化の応援
入り口の部屋が1A。
つぎの部屋が1A-1、いま居るのは1A-2だ。
また安置なので皆が休憩ムードでいるうちに済ませておこう。
リッチに多量ドロップさせた『洗礼の御霊』を1つ手に持ち、
「無限アップデート」。
スキルはこの仲間に隠す必要はないから、堂々と。
皆からの熱い視線を感じる。
どう化けるのかが気になるようだ。
とくに冒険者盗賊の3人はアイテムの進化に興味が湧いているみたい。
「そのレアドロップを進化させるのか? 俺たちにも分けてくれ」
「どうなるかは僕も未体験ですから。すこし待ってください」
急ぎの調査なのに足を止めてくれるのは本当にありがたい。
ただ、分けてくれというのは無理だと知っている。
『洗礼の御霊をアップデートしました。
洗礼は浄化。御霊は格上を意味する。
非業の死を遂げたリッチ等のアンデッド系の不死を無効化する。
また低レベルは寄せ付けず、同レベルは行動遅延をもたらせる。
「お清め」という神聖魔法を取得。
お祓い、浄化(浄化は除菌も含む)、解呪。
リッチ級の格上の浄化効果を獲得しました。
浄化と回復のコラボで病も治癒する』
皆に得た効能を伝えた。
アプデしたアイテムは進化して本人の一部になり、譲渡が不可であることも。
「……そうか。ラルクが強化されただけでも心強いじゃないか」
「そうだな。俺たちに何か協力はできないか?」
「これから生死を共にするんだ、知りたいことはないか」
3人は熱心に、好意的に接してくれる。
それなら気になっていたことがひとつあって、
「イヒさん、転移台はどうやって行き来したのですか?」
イヒは移動してきた転移台を一瞥した。
「なるほどね。魔法を使えないからね。魔導石を使ったんだよ。皆が腰に付けてるのがライト。つまり光属性。魔法ランクは1だが、いろいろ携帯してるよ」
ドハも答えてくれる。
「盗賊稼業は探索や採取の仕事がメインだ。魔導石は日常で使用するのですべて常備してるぜ。火や水で炊飯調理やその消火、手洗いや水浴びにも便利だ。
火、水、光、氷、雷、風、土。水と土は畑仕事にも役に立つ。家でも重宝する。
ラルクの家でもあっただろ?」
「そ、そうですね。魔導石は高価らしいのであまり見かけませんでした」
3人は収納から手持ちの魔導石を一通り出して見せてくれる。
「予備に持ってるものなら、分けてやるよ」
「いいのですか? 魔導石を頂けるなんて夢の様です」
「いいんだ。あんな珍しいレアドロをたくさんゲットできたんだ、安いもんだ」
金で買えるし、予備だし、大金があれば、もっと上級のものも調達できるからと。
そういって、各属性の魔導石をもらえることになった。
ここにないのは闇属性ぐらいだ。
アビリオンたちも腕組みをして微笑みながら、見守ってくれる。
早速全部アプデする。
結果、火、水、光、氷、雷、風、土の魔法1を習得した。
いまは魔力もたっぷりあるからきっと使いこなせるぞ。
「うわーお! 生活の必需品である魔導石の効果を全部スキル化しちゃえた!」
感謝カンゲキ雨嵐だ。
アビリオンたちも感動しているといってくれる。
「おめでとう、すげぇ頼もしい奴だな。おめぇが歩く魔導石じゃねぇか」
「どうやらこの先、サクサク進めて行けそうだぞ。リッチレベルなら逃げていくわけだからな! やったな、ラルク」
王立の超エリート錬金術チームに属していたシオンも知恵をくれた。
「この転移台も古代の魔導石らしいので反応するんだが。転移自体には時間の超越が必須となり、その手の魔物も妖精も、魔道具さえも、まだ未確認とのことだ」
「それじゃ、これを持ち帰れたとしても、モノにできないということですね?」
シオンは「……うむ」と肯いた。
それを受けて、ファルも別の知恵を授けてくれる。
「……ラルク。ずっと思っていたんだけど、きみ回復魔法をスキル化してたよね?」
「え……まあ」
「範囲化も本来は魔力を練り込んでイメージで習得するものだ。どうやら時間短縮のスキルも含んでいそうだね。それなら、オイラのバフも吸収できないかな?」
「へっ、どういうことですか?」
バフ効果を吸収?
胸と瞳はときめきに満ちているけど、首を傾げるしかなくて。
「瘴気だって吸い込むから毒になる。息を止めても無駄なのは体内に浸透するからであって、周囲にただあるだけなら無害だろ? 太陽の日差しも身体に浸透するから熱になるのと同じだ。魔力も浸透してるんだよ。収納は体内より微妙にズレてるけど、バフの効果を身に受けてるなら取り込めるはず。一度ためしてみて!」
「聞いたか、説明本。僕の身にかかっている防御魔法をアプデしてくれ!」
『受けている強レベルの防御魔法を無限アップデートしました!
ランク4の防御魔法および状態異常回避をスキル化しました。
魔法攻撃、物理攻撃、状態攻撃の防御がランク4のまま無限に使用可能になった。
はじめての魔法吸収により、受けた魔法の「吸収覚醒」に目覚めました。
魔法の吸収はレベルの低いものを選んでください。
「吸収覚醒」によるスキル習得は受けたダメージも含まれるから注意が必要』
「で、できた! ファルさま、できました! でも──」
「よかったなラルク、おめでとう!」
「僕をこんなに強化してくださって良いのですか?」
戸惑いを隠せない僕にシオンが答えた。
「私もだが、ファルには3つ離れた弟がいたんだ。だが村ごと呑まれたため、あっさりとこの世を去った。ファルは君に最愛の弟を重ねているんだ」
「オイラだけじゃないよ、臓物遺跡を憎んでいるのは。でもあの子に瘴気から自分を守れるだけの術があったなら、いまも笑って隣にいてくれただろうと。
勝手に君と弟の面影を重ねてしまって、ごめん」
ファル、そうだったのか。だからアビリオンは僕にファルの傍に居ろと。
その陽気な笑顔の裏に失くした家族の痛みが。
「そんな謝らないでください。良かったよ、ファルたちに会えたこと……」
「ラルク?」
昨日までの僕が頭に浮かんだ。
冷たい雨にも風にも慣れてしまっていた崩壊しかない愚かな自分の姿が。
「僕一人じゃなかったんだって。生まれてずっと世界の闇を一身に受けてきたと、呪われた人生だとすべてを諦めて……うぐっ……苦しみから、家から逃げ出して……」
堪えていたものが込み上げてくる。
せっかく生まれたのに温かい家庭があっという間に消えた悲しみ。
寂しいだけじゃない。
これからも戻れぬ時間と後悔を胸に抱えて、ひとり生きて行く。
「そんな……孤独を埋めてくれる人が現れるなんて……思っても……ぐすんっ……見なかったから」
ファルが「もう、なにも言わなくていい」と崩れそうになる僕を正面からすくい上げるように抱きかかえてくれた。抱擁してくれた。
温かい胸だ。意外とたくましい腕だ。
ぎゅっと抱きしめられた感覚は幼少以来だった。
得られたスキルよりも、出会いたかった気持ちだった。失くしたくない感動だった。
うれしくて、とても泣かずにはいられなかった。
どうやらアビリオンは湿っぽいのが苦手らしくて。
「ゆっくり歩いていこうぜ! 敵とエンカウントしないんなら第二層に向かいながら身の上を聞かせてくれりゃいい。ラルクん家は親も召使いもいるのに、なんであんなに揉めてんだか、なあ?」
「……は、はい。……すみません」
皆がぼちぼちと歩き出した。
僕のスキルの恩恵で魔物戦が楽勝となり、二層へ降りる階段部屋へたどり着いた。




