表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/43

40 こんにちは



迫りくる敵の姿が見えぬまま、バトルに突入したようだ。

僕は何をすればいいのだ。

いや、回復しかできない。それが僕に課せられた任務なのは承知だ。だけど敵の特徴が判れば注意しようもあるというものだ。

僕は戦闘要員じゃないので最後尾にいる。


だれに声を掛けようかな。このとき、ずっと気になっていたことがあった。


6人の冒険者のうち、3人は名を名乗って言葉も交わした。

ヒーラーのファル、鑑定士のシオン、戦士のアビリオン。あとの3名は自己紹介がなかった。そして護衛部隊の方は、テッポウが抜けて3人。このうち名乗っているのは百騎長ユリオルだけだ。あとの2人は前に出て話した人と、そうでない人。


名前だけでも聞いていいかな。いまは回復がしづらい訳でもないけど。動き回られると位置の確認がしづらいのだ。回復範囲が広いとはいえ視認しなければならないわけだ。

バトルで動き出すその前に。



「あの、冒険者の3人とそちらの2人のお名前がまだだったので、そろそろ伺ってもいいですか?」



質問は皆に届いたようだ。意表を突かれたように全員がビクンっと反応した。

驚かせてしまったか。

その瞬間、お叱りの声が上がるかとも思ったが。振り向かずに返事をしてくれたのがアビリオンだった。



「おい、坊や! すまんが話はあとだ。目の前に立ち向かうべき強敵がいる。おめェさんは回復に専念しててくれな」


「あ……はい。すみません」



なんで、坊やなんていうの? 怒ったのかな。バトル中にしゃべるな、は分かるよ。

いや、言い方はそれほどキツくはなかった。でも状況を知りたい。

僕はファルに視線を送る。同じ立場の彼なら会話をする余裕がありそうだ。


僕の視線がよほど熱かったのか、ファルが少し背後を気にする。

こういう気まずい雰囲気が苦手だ。それにしても、いったい何が現れたのだ。

彼らの腰の魔導石の灯りも合わせてPT全体と周辺はかなり照らし出されている。

人垣の隙間を縫って目を見張るが何者の姿も視認できない。


天井までの高さは身長の十倍近くある。天井付近は暗がりもあるけど、仮に闇の中から武器が飛んでこようものなら、目視鑑定で分析し、同時にサーチで持ち主を逆探知して特定してやるつもりでいる。僕の視界に映るものは自動的にそれらを捉える。


でもやはり何も見えない。

じれったくなってきた。



「ファルさま、ファルさま……」



小声で彼を呼んだ。

ファルが少し振り向いて、「そばにおいで」と手招きをする。

周囲に用心しながら、彼の傍へいく。



「まだですか? なにが来たのですか?」


「えっ? 君……目の前の敵が見えないの?」


「は? どんなやつなのですか? 敵の種類や名前はわかりますか?」



気配すら感じない。レベル差なのだろうか。僕にはなにも感知できない。

僕の前で魔力を放出するファル。

するとファルは防御結界を強化した「これでよしと」。

それからシオンに声掛けをすると今度はシオンが魔法使いのデルタンに何かを伝えていく。

デルタンがいった。



「疎通魔法を一時解除するか」


「また坊やか? 回復に専念してろっていったのによ……ったく」


「アルビオン、彼は初心者だ。大目に見てあげなきゃ」



フォローしてくれたのはシオンだ。

シオンの言葉のあと、皆が僕に寄ってきた。陣形は崩さず、じり貧で。

アルビオンが頭を掻きむしりながら、



「どうした坊や?」


「敵が見えないのですが、本当になにかいるんですか?」


「み、見えない!? 目の前にいるだろが、あいつら。若けぇのに目が悪いんか?」



アルビオンが何故か驚きの声をあげた。

そして皆も同じことを僕に向けた。



「ちょっと待て。様子が変だ」そういったのはユリオルだ。彼はそのままシオンに話を振った。


「シオン、君の鑑定はどうだ? こっちは戦歴があるのでわかっているが。もしや森のインプみたいに幻術でもかけられてないか、この子は?」


「ユリオルさま、そんなことは断じてありません。やつらの魔法にその類はございません」



シオンはユリオルにそうきっぱりと伝えると僕の方を向く。

シオンが神妙な面持ちで僕に伝えてきた。



「ラルク、いいかい? いま目の前に5体のリッチという魔物がいる。このレベル帯になると言葉を理解する魔物も多いんだ。さらに疎通魔法で拍車をかけている。いまそれを遮断するのはこちらの情報を持っていかれない為の措置だよ」



僕にだけ魔物が見えないこと、それが全員に理解されていなくてとても気色が悪い。

ズンっと防御結界に振動が走る。皆が前方を一瞥する。敵がいるのか、本当に。



「……え、僕の目には捉えられないけど、喋るんですか……リッチって、たしか、

 亡霊みたいなやつでしたっけ」



姿を消してやがるのか。情報はどこに持っていくというのだ。

アビリオンが少し不服そうにいう。



「戦うのは俺たちだ。それに、おめぇ見えてんじゃねぇか? 冒険初心者が出会いもできない魔物の特徴をなぜ知ってるんだよ?」



僕は絶対に見えてないといい、そのタイプの魔物は絵本で見たのだと言い直した。

ゲームの知識だからそういう他はない。

そしてバトルの邪魔などするはずもないと真剣に語り掛けた。



「どんな絵本を読んでんだよ、まったくよ。それならそれで、坊やは鑑定眼で見りゃいいだろが」


「うっ……ぼく、魔物は直接鑑定できませんから」


「できねえのか? シオンはできんぞ?」


「まあまあ。軽く説明してあげましょう。名乗りを上げない者は俊足だからです。

 敵を倒し、次の部屋へいくための装置までいく。部屋を渡るごとに装置の数は次第に数を増すのさ──」



装置……。単純に通路で繋がってはいないのか。何らかの謎解きギミックかと考えていたが。シオンが続ける。



「正解はひとつで、はずれ部屋へいくと当然もとの部屋へと出戻りをする。

 戻る羽目になると一度倒したフロアの魔物がすべて復活してしまうんだよ。俊足の者たちは装置の場所の特定に欠かせない。それを阻止する敵から狙われやすいのさ」



部屋の移動が厄介とはそういうことか。

その効率を図るためだったか。僕の見立てでも名乗らぬ者たちが斥候を兼ねた盗賊風だと分かっていた。


シオンはさらに続ける。アビリオンを意識して涼しい目をして。



「アビリオンを恨まないでやってくれ。君を守るために名を呼ばないだけだ。

 敵は、名と姿を覚え仲間の特徴を他の部屋にいる魔物へ情報伝達するのさ」


「……そんな! 知らずに、ごめんなさい」



出しゃばらずに任せておけば良かった。役目だけをただ遂行していれば。

知りたいことをずけずけと聞けば、状況が不利になり効率が悪くなってしまうとか。

ユリオルも僕に向けて一言。



「鑑定をしなくても見えるものだろ? やつら目の前にいるぞ。このまま、もたもたと同じ場所に留まると上級が現れるから歩みを止めないでやって来たんだが」


「……じょ、上級って?」また思わず聞いてしまった。

 シオンが上級の意味を語る。


「リッチの親玉みたいなやつさ。よその臓物遺跡でもそうだった。

 というより、魔王が討伐されてから400年もの間、出現し続けている遺跡だから、データは結構集まっているのさ。ただ……手強いからね、ここの連中は」



シオンが、敵が手強いといえば、アビリオンの表情は穏やかに変わる。

弱者を守護できるのは強者だけ、それは俺だと誇張するように。

アビリオンが並びの良い白い歯を見せてニカっと微笑む。



「回復はファルもいるから、遠くに散らばった仲間はいいから、そんときゃファルを守ってやってくれな、よろしく頼むぜ相棒!」


「ファルさまを……は、はい」



ヒーラーさえ安泰なら生きて出られる。

アビリオンがファルとシオンの兄弟に「もう、ついでだ。故郷の話でも聞かせてやれ」とつぶやいた。

それは何だろうと僕は二人を交互に見た。



「オイラが10歳のとき、スキル贈答の儀がやってきて。兄さんとスキルを受けに教会の支部聖堂へと出かけた。村に戻ってみたら実家も周辺もすべて跡形もなく飲み込まれていたんだ……この臓物遺跡の出現によってな」



故郷が村ごと……。

何もかも失くしたのか。10歳になるとスキル贈答の儀というのがある。僕も嫌な思い出しかないから分かる気がする。



「兄さんが鑑定士スキルだったから、ふたりで故郷を捨て、王都の錬金研究所へいった。やがて自分らも冒険者を目指した。魔王の復活なんて絶対阻止してやるんだと」


「……そうだったんだね。気の毒に」



同情の気持ちを添えるとファルが不意に質問を向ける。



「オイラは『賢者の孫の手』というスキルでいま治癒士ヒーラーさ。で、ラルクは何のスキルだったの? やっぱりその鑑定なの?」



そう問われて、思わず首を横に振った。



「あ……僕は。ちがうんだ。僕のはね、『無限アップデート』っていうの。入手アイテムを無限に進化させられるスキルでした」



『はあああぁぁ──!? な、な、なんだぁそりゃ…………!!!』



一同が叫んだあと絶句する。

ポーションを消費無限進化させたり、旅人スキルの獲得経緯をそれとなく明かす。

鑑定眼は付属の説明本の派生スキルだとも自慢げに話す。


なぜそうしたのか。10歳のときに受けたスキルを明かしたくないからだ。

僕を生き地獄へと突き落とした、あれの存在を知られるぐらいなら、こっちをと。


シオンが目を輝かせて僕に近づく。



「私とは異なる鑑定眼だ……。なんとも興味深い」


「魔物の鑑定ができない代わりにアイテムサーチで出所を特定できる。この杖のことも工房のこともそれでわかったんです」



ユリオルが「なるほど」と納得する。

すると再び、ズンっと衝撃が伝わってくる。先ほどよりも微妙に大きくなった。

皆の顔つきが引き締まっていく。


アビリオンが号令を出す。



「よし、作戦会議は終了だ。デルタン、バトル再開だ!」


「オッケー! 疎通魔法を再開するよ。うちらもやつらの情報を入手して有利に進めるためにな。生きて帰れたら名乗り合って祝杯を上げようぜ!」


「は、はい!」



そうだった。

疎通魔法の上級者になると情報を引き出し、弱点や企みなども看破できるんだった。

再び、バトルを再開した。

それにしてもアビリオンの腰の剣はどうして抜刀しないままなのだろう。


僕に魔物の姿が捉えられない謎を残しつつ。仲間との分断を回避し、斥候の人たちを失わないようにしなくては。


魔物のことは彼らに任せるけど。魔物の再生を回避する手立てはないものだろうか。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ