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39 隠しダンジョン


遺跡の入口らしき場所まで来た。

付近までやって来ると、禍々しい瘴気が満ちている。

僕らの身長の十倍はあろう高さの門がある。

唯一の入口である大とびらの中央に渦巻き状の赤き刻印が見えた。


見上げながら呟いた。



「あれは、封印の紋ですかね?」


「そうだ。だが心配はいらない。どうやら先客がいるようだ」



僕の問いに答えるように口を開くのは魔法使いのデルタン。

彼だけがとびらに近づき、とびらに両手をかざした。

目を凝らせば、とびらは少し開いている。でも封印の紋が侵入者を拒んでいる。

さらに封印の紋を庇うように建物をぐるぐると鉄鎖が締め付けていた。



「ラルク! ヒールの準備だ。遺跡から洩れる瘴気に触れると体力が削られる。

 よろしく頼むぞ!」


「は、はい!」



速攻でといわれた意味がようやく分かった。

遺跡の中は常時ヒールが必要なのだ。この瘴気のせいで、すぐそばに野営地を構えることもできなかったのだ。説明ばかりしていては進まないから、現場で必要事項だけ告げられるってわけか。


僕は全力で期待に応えるべく、「水、草、根」の回復スキルを全開にする。

といっても、僕はスプリンクラーのようなものだ。皆のMPも回復して解毒も念のため展開しておく。痛くもなければ疲れもない。そうして皆の後ろについていくだけ。スキルに目覚めた今の僕には楽な依頼だ。


デルタンが封印を解くため何やら詠唱し、魔力を注いでいく。



「滅びの呪いに縛られし闇の従者よ……光の声を」



彼の魔法は歌声を発している。それには即効性が見られ、

とびらに絡みつく鉄鎖が震えだし苦しむようにも見えた。



「……静かに聞け。そして浄化、開錠を受け入れるのだ!」



昔、指南役に教わった記憶がよみがえる。これは「疎通魔法」だ。意思を持つものと言葉を交わし要求を呑ませる。術士の精神力がとわれる。

その呪縛は要求をあっさりと受け入れ、とびらが大きく口を開く。


ユリオルから僕に向けて、一言。



「回復だけに集中して、戦いは俺たちに任せてね」


「おまかせください」



僕を誘った本当の理由はここで初めて明かされた。

瘴気が体力を削る遺跡。なら常に回復などしていれば、MPの消費が続き、薬剤の減りも早くなる。そうなれば息継ぎのため遺跡から一旦退却する必要がある。

さらに遭遇した魔物はなるべく倒して行かねば、また同じ地点で折り返す羽目になる。結果的に調査は難航する。

僕のようなヒーラーは安くてすむ。金貨の一枚でも貰えればボロい。


アビリオンが僕に簡単な段取りを聞かせてくれる。



「最下層を目指して、何度か出入りを繰り返す予定だ」


「最下層まで何層ですか?」


「ぜんぶで6層のはずだが」



これまでの経験からすると、ということだな。



「内部はとても広いんだ。部屋がいくつも枝分かれしている上に、べつの部屋へ行くには正しいルートの見極めが必須だ。そいつが一番厄介なんだ」


「部屋の移動が厄介なのですか?」



彼は前を向き、歩を進める。皆も動き出す。

僕の疑問を無視したわけではなかった。



「いくぞ! ついて来れば分かる」



ならば、ついていくだけだ。


一歩、遺跡内に足を踏み入れた途端、外よりもズンと気圧が低下したように片頭痛を覚える。とびらは自動的に閉じた。一瞬、真っ暗闇になった。中に灯りはない。

すぐに僕の手元から杖のライトが発動し、周囲の闇を晴らした。

これで闇に震えなくて済む。

皆の腰にも、ライト効果の魔導石がぶらさがっている。


だけど──ほっとしたのも束の間。



「うわ! なんだ……頭が痛い。それに急に息がしづらくなった……」



何に襲われたのかと頭を抱えて困惑していると、シオンの声が聞こえた。

隊は歩みを止めない。



「ファル、面倒を見てやってくれ」


「あいよ! ラルク、気分が優れないのは外より瘴気が濃いせいだ。これは下層に行くほど倍々に濃くなるけど。いま防御結界を張ってあげるから、すぐ楽になるよ」


「……うおっ」



前衛よりも5歩出遅れた。

なんというヤバイ場所に連れて来られたものか。

とてもじゃないが、ソロで近づける場所ではない。それゆえの調査隊だな。

遺跡と聞いたから古代生活が窺える跡なのかと思いきや、まるで地下聖堂跡。


ファルのおかげで気分が晴れた。軽くなった足取りで皆に追いつく。

入口より20歩は踏み入った。部屋というより幅広い廊下のようにまっすぐに突き進んでいく。



「ファルさま、もっとヒーラーも魔法使いも来たほうがいいのではないですか?」



この状況下で戦闘に入れば、苦戦を強いられる。

見たところ回復役はファルひとりだけ。彼が負傷し再起できなければ他者は回復薬を頼らざるを得ない。



「術士がいると魔力量がふえる。わずかだけど術士は魔力も吸い取られるんだ。取られた魔力はこの空間の瘴気の餌になるようだから、最小限に抑えなきゃとても最下層までは持たないんだよ」


「ええっ。それだと僕……ヤバくないですか?」


「君は魔力が低いみたいだから、うってつけなのさ」


「そ、それは?」


「この遺跡の瘴気には意思があるらしい。強者のマナを奪いたいようなんだ。

 だけど相手を殺さないようにしているみたい」



空間内は瘴気が満ちていて。それに触れている身体からは体力が奪われる。

魔力を持つ術士は、魔力も吸い取られる。魔力の場合は瘴気に変わり、下層の瘴気がさらに濃くなるのだという。


だから術士を多く入れることは、攻略法としては不向き。



「ここは殺さずの館ですか? じゃあ逆に楽勝だったりしませんか」



なんだそのホラーダンジョンみたいなのは。

敵意があるかないか、いま一つ解らない。思わず「殺さずの館」と名付けてしまった。

その場所は奴隷商の通名だ。人命を鎖につなぎ、もてあそぶように己の利益にしていき、上物ほど長くむしゃぶりつかれる。物のように雑に扱い、残飯で回復させながらも、その館に標本のごとくにコレクトされていく。


非常に悪趣味な館である。



「森の中には純粋なマナが豊富にあるよね。それが瘴気として蓄積された場所……

 というよりかは瘴気を生産する謎の隠しダンジョンのようだね」



世界の瘴気を生み出している製造所へと来てしまった。

冒険に出会いはつきもの。

とはいえ、

いきなり隠しダンジョンという文言に遭遇するとは思ってもみなかった。


前を歩くアビリオンが振り返ることなく意見する。



「宝につられて入ってきても魔物がそれを守っている。しかも屈強過ぎて剣だけでは撃破しきれず、命を落とす。そして、更なる強者を連れてこいと言わんばかりに瘴気は魔力を吸いつくさず加減していやがるんだ」


「……お、おぞましい」



怖すぎてもはや、あてがう言葉が出て来ない。


でも僕のような弱者は助かることがあるのか。

入口より30歩は奥に来た。

僕の表情筋が緩んだのがバレたのか、アビリオンがすかさず指摘する。



「ふっ、魔物は別だぜ。手加減しちゃくれないからな」


「そ、それじゃ、遭遇したら確実に殺されますね?」


「ああ。その前に全力で息の根を止めなきゃならん! 俺達でも最高難度の依頼はまだ2度目だ。護衛部の旦那たちはSランクだし、まあ何とかなるだろ」


「なんとかせねばなるまい。最下層の護り手を撃破しなければ封鎖はできないのだ」



アビリオンに次いで、ユリオルが決意を語って3歩、アビリオンが叫んだ。



「なにか来るぞっ!」



そういって剣を携える者たちは、抜刀の構えを見せる。


なにかって、なんですか。

前衛なら見えるでしょうに弱虫の僕の為に怖い言い回しで演出して下さらなくても

結構ですから。


でも奇声のひとつも聞こえず、足音も聞こえない。

彼らが戦いの陣形を取り始めた。

どうやら気配察知ができないのは僕だけのようだ。



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