36 臓物遺跡
「こんな小さな森に遺跡ですか?」
「小さい? ラルクはもっと広い森を見たことがあるのか?」
いけない。
生前を思い出して発言してしまった。
日本には780万ヘクタール越えの森林がある。
レイナルーズ領は発展のために切り崩したため森の面積が小さくなった。
僕は、レイナルーズ領の周辺の地図を目にしただけだったから。
「いえ単なる想像です。全世界の地図をまだ見たことがなくて」
「そうだな。世界は広くて未知なる地が多い。だからこそ調査が重要なのだ」
ユリオルのおかげで、彼らの話にやっと付き合える。
ルディとの因縁で心が塞がりがちになっていた。
彼女は、そのつもりだっただろうけど。
僕の方こそ、彼女の強さに甘えていたのだ。
ルディは嫌がる僕を置き去りにした。
その真実の理由を知るのが何より怖かった。
この心が引き裂かれないようにずっと目を背けていた。
身内はだれも信用できないと知りつつ、
突き付けられた現実にまぶたを腫らすなんて。
ユリオルの問いで気持ちに踏ん切りが付けられた。
共にアスバルド領へ行くのだ。
彼らの目的も知っておかねばならない。
数日前にヤナコドムの森に大きな異変があったらしい。
この森から大量の魔力を感知したと。
「マナ師からの報告では、臓物遺跡である可能性もあるとのこと」
「その……臓物遺跡って、なんですか?」
「あら、冒険者なのに詳しくないのかい? マナ師の説明も要るかい?」
「いえ、それくらいは知っていますので、臓物遺跡のほうをお願いします」
マナ師というジョブがある。
正式名称がマナ・スカウターで、それには上級魔法使いが多い。
マナは魔力と同意語。
魔力には闇や光という様々な属性色がある。
魔導のシステムを用い、各地の魔力量を観測したり検出する仕事。
魔力含有量を多く含む土地は危険区域に指定されることもある。
その場合、民間人の出入りは禁止となる。
「臓物は人の身体にあるものと同じだ。その遺跡には魔物の臓器が多く眠っている。
だから、そう呼ぶんだ」
「なんだか薄気味悪いところですね?」
そんな遺跡があるんだな。
「そのとおり。遺跡にはダンジョンよりも凶悪な魔物がはびこっている。
宝を目的として冒険者や盗賊も出入りしている。
そのために荒らされてしまうのが最奥の祭壇だ」
「祭壇……? 遺跡の奥は地下に降りていく感じですか?」
ユリオルは「そうだよ」ダンジョンと似ているといった。
ダンジョンは自然物、遺跡は人工物。
「中でも臓物遺跡と位置付けるものは、魔王の復活のための祭壇があることだ」
「……ひッ!」
魔王の復活を目論む悪しき連中がいる。
かつて、戦姫がいた時代に賢者や聖女たちが打ち滅ぼした。
現在は魔王がいない時代だ。
「魔王の復活には条件があるんだよ」
「条件?」
「上級の魔族が人間の心臓を生贄として祭壇に捧げているんだ。
魔王を滅ぼしたのは勇者PTだから、強者の心臓が好ましいようだ」
「人間の心臓で復活できるのですか?」
「魔王は死の直前に、自分に向けられた勇者たちの魔力に同調し、
魔力自体と盟約を結べる存在なのだ」
魔力の属性のことだ。
闇が悪、光が善だとしてもその波長の本質は魔力だから。
魔王は魔力を有する者が消耗時に波長を合わせて取り込もうとする。
もし取り込まれたら勇者でも賢者でも、魔王の肉体の一部になる。
「魔王の復活には魔王の心臓が欠かせない。何しろ、魔王の心臓は討伐時に勇者側に砕かれているからね」
「復活に必要なものが強大な魔力を内包している心臓だけなのですか?」
「そうだ、あとは魔力を集めるだけだ。そっちは配下だった魔族がいくらでも提供するはずだからね」
「なんて恐ろしいモノが森の中にあるんだ……」
「大木が精霊を宿すため、清らかなマナが集まりやすいのが森林地帯だからね」
生唾をゴクリと呑む。
長寿の大木が言葉を話すらしいと本で読んだ覚えがある。
精霊が宿り、マナの象徴である妖精が密かに暮らしているのが森。
魔物が棲みつくくらいだ、他になにがいても不思議じゃない。
ユリオルは調査の重要性を訴える。
「本当に恐ろしいのは、そのために財宝を散りばめて強い人間をおびき寄せていることだよ」
「えっ! 宝は罠なんですか?」
「臓物遺跡は、魔王が死の直前に契約した復活のための予備の心臓を収集するための実験場だ。放置すれば多くの人命が犠牲にされてしまう」
「発見したら、国はどう対処するのですか?」
「調査ののちに財宝は回収し、即刻封鎖しなければなるまい」
それがユリオルたちの仕事だったのか。
調査をし、国へ報告。
国が封鎖命令を出すと、もう誰も侵入不可となる。
そんなものが、レイナルーズ領にも出現したのか。
話を聞き終えたころ、馬車隊と遭遇した。
僕は同乗し、彼らの街まで安全に送られるようだ。
ユリオル小隊は、その道中で遺跡に向かうため、途中でお別れする。
そういう段取りであると告げられた。
僕などが危険な遺跡に入れるわけもない。
でも調査だけなら同行して、何かの戦利品を分けて欲しい。
そんな願望が脳裏をかすめるのだ。




