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34 ハイエロファント・ロッド その2



殺意に満ちたあいつらは、すっかりその場から去って行った。

ヤナコドムの森の一角にポツンと取り残された。

出会ったばかりの小隊、ユリオルと9人と僕。

テッポウという男が伝令の役を担い、姿を消したから部下は8人。


ユリオルが僕に尋ねる。


「こまめな回復手当をしてくれたこと。まずは礼を言う。

 ラルク、君はさっきの奴らと面識もない様子だったが、なぜ

 和解できたんだ?」


和解という解釈は不名誉だ。

すこし語弊があるようだ。


「和解なんてしてません。直接対面したら僕のことを人違いだといい、

 間違いで襲ってしまった、だけどこちらの負傷の程度が軽傷のようだからと

 好き勝手に去って行っただけです」


ユリオルは外傷が完全に癒えたようで、身体を起こそうと。

剣を大地に突き立てて、それを杖代わりに体重をのせ立ち上がる。



「なんとも、自己中心的な輩たちだ」


「でも、ユリオルさんが刺激を与えない様にと言ってくれたおかげで

 僕も感情的にならずに済みました。憤りがないわけではないですから」


「まあ命あっての物種だ。逃げ延びることが最優先事項だしな」



多勢に無勢という形勢が抑止力となり、

怒りの感情に任せて暴走することは避けられた。


と、いうより。



「ラルク……。俺もこいつらも意識はあったから聞こえていたんだが。

 君の名は、奴らが明示していたな。名が同一のものなら、人違いでは

 ないのではないか?」



聞こえていたのなら、

そこは気にするだろう。

ユリオルの瞳は満天の星のような輝きで、日常の悩みを忘れてしまいそうだ。

そのロマンに満ちた優雅な目は仲間に向けられて、



「もっとも、答えたくないのなら無理には聞かないが」



僕の視線も自然とほかの8人に行き着く。


ユリオルはまったく別の目的で森へ侵入してきた人たちだ。

ルディが大火炎で森の一角を焦がし、炎上してくれたおかげだ。

周囲に足を運んでいた彼らが騒ぎを聞きつけて、この出会いができた。


冒険者も引き連れているから法を侵してはいないし。

迷惑をかけて、窮地を救ってくれた恩人にこれ以上ごまかしは失礼か。



「あいつらは僕の暗殺を依頼されて、手配書を持っていたので。

 その対象者が僕自身なのは間違いではないのです」


「……ほう」


「しかしこれは僕自身も驚いているのですが、彼らが僕の顔を確認して尚、

 人違いだといったとき、僕自身にも本当に意味がわかりませんでした」


「ああ。俺たちもそこが不可解である」


「手配書に不備があったのかとも考えましたが、違うようだと気づきました」



ユリオルは僕の目を食い入るように見つめて。



「なにに気づいたんだ?」


「ユリオルさんたちの回復に集中していたとき、僕はもうお終いだと投げやりに

 なっていたのです」


「あのときか! 混乱したのかと思ったが。それで──?」


「そのとき、僕の命の中に開花していたスキルがあったのですが、自分でも奴らの意外な反応に出会わなければ気づけなかったでしょう」


「スキル……とな?」


「なんといいましょうか、窮地に立たされると発揮される火事場の馬鹿力のような」


「ほうほう!」



伝わっている?



「目覚めたスキルは【旅人】です──」



僕はかいつまんで旅人について説明を加えた。

モブで他者が自分を認知できない、そちらの意味の説明を。



「なんという効果のスキルだ! はじめて耳にするものだ。皆、知っておるか?」



ユリオルに問われた8人の男たちも首を傾げた。



「いいえ、見たことも聞いたこともございません」



口をそろえて、そう答えた。

ユリオルは興味深く、さらに訊ねてくる。



「ひとつ気になっていたのだが。君は、魔力が3しかないといったな?」


「は、はい。幼いころにくじけてしまい、努力をしなくなりレベリングをさぼって

 魔力の成長がないまま今日まできました。お恥ずかしい限りです……」



すると、ユリオルが口を開く前に8人の男たちの誰かが声を上げた。



「なにをいうか! 百騎長には及ばないが我らの体力も相当なものだぞ。

 いまではすっかり全快してくれている。出会う前も疲労していたがその分も

 すべて君が癒し切ってくれたおかげで、もう元気百倍だ!」


「あぁ、それ回復1の魔法を施しただけです」


「はあ? そんなはずないだろ? いくらなんでも謙遜しすぎだろ…」


「えっ、いえいえ。魔力は3しかないので初歩の、反復1,収納1、回復1を

 幼少時に習得しただけですけど……」



あれ? 返事がない。

また、フリーズしたのかな。

魔力がゴミすぎて、しゃべる気力が失せたのかもしれない。



「ごめんなさい。魔法の才能のない僕なんかのために有能な皆さんが犠牲になっては申し訳ないから、無我夢中で魔力回復とヒールを繰り返したんです」


「……あっいや……そ、そうか。そうだったか」


「そこはわびることではない。気にするな、若者よ」


「それじゃ、ずいぶんとMポーションを使用したことだろう。

 あとで代金を出してやってくれ」



ユリオルが部下にそう云いつけた。

僕が窮状を脱するのに貢献してくれた恩人から、お金を受け取るわけにはいかない

そう思い、すかさず答えた。



「いえ、在庫はありますがポーション回復ではありませんので、お気遣いなく」


「なんという健気な若者なのでございましょうか、百騎長!」


「ポーションで回復しないなら、なぜ君の魔力は尽きないんだ?」



装備中の魔法の杖を彼の目の前に晒す。



「この魔法の杖にMPの自動回復が付与されているからです。それに高価なものでもありませんし。気にしないでください」



あ、また皆、言葉を失くしてるのかな。

と思いきや、ユリオルが杖に興味を示す。



「ラルク、良ければその杖を見せてもらえないだろうか?」


「は、はい?」



見てもわかるものではないと思う。

減るものでもないことだし、手渡してみた。

アプデ済みなので譲渡不可だから失くすこともないので。


ユリオルが手に取ってまじまじと眺めた。

そして意外なことをつぶやくのだ。



「これは、なんとい奇遇なことか! 

 これは「ハイエロファント・ロッド」じゃないか? ラルクが今の持ち主か」


「えっ、ユリオルさん? この杖の名がわかるのですか?」


「君を見かけたときから妙に気になっていたのだが、やっぱりだ」



ユリオルの言葉の後押しを部下たちが続けた。



「百騎長はモノづくりの趣味が高じてな。若いころから家具のほか、武器の加工なんかも嗜んでおられるんだ」 


「おお、そのうちの一品でしたか!」



これ、ユリオルが作者なのか。



「えっ!? でも作者はレイナルーズ領の街の一般工房員のはずですが。

 ユリオルさんたちはアスバルド領の方々ですよね?」


「ラルク……ッ!? まさか、あの工房を訪ねたのか?」


「いいえ。杖は街の武器屋で購入したものです。工房までは行っていませんが」


「工房には行ってないのか……? 

 それなのに作り手が工房員だとどうして知ったのだ?」


「え、えっ? なに? 街にあるただの工房でしょ? それがどうしたんですか?」


「あ、いや……そうか。なんともふしぎな坊やだな。失礼、ラルクだったな」



急に突き出した言葉を引っ込めた。

そして杖を僕に返すと「君の手に抱かれて杖も喜んでいる」と言葉を添えた。

ユリオルさんと8人の冒険者たちは、不思議そうに顔を見合わせていた。

すると、彼らは急に話題を変えて、



「ラルク、街には戻るわけにはいかないだろ? 

 俺たちとアスバルド領に来ないか? 寝床ぐらいは世話するぜ」


「え、でもルディのことが心配ですから。様子を見に帰りたい。家で僕の帰りを待つひともいますし」



しかし彼はこう切り返して来た。



「よく考えるんだ。

君を亡き者にしようとする相手の執拗さは生半可なものじゃない。

いまはそのスキルで見つからないが、真っ先に待ち伏せするのは住居。


姿が見えずとも隠れた君に向けた脅迫は待っている者にも向けられ、蹂躙されれば、君はその優しさゆえに辛抱できずにスキルを止む無く解除して投降しなくてはいけなくなる。


ちがうか? 


彼らを討ち果たせるだけの強さを身に付けなければ、さきほど身を挺して切り込んでいったお嬢ちゃんさえも、窮地に立たせてしまう。


それがわからない君ではないだろう?」



ユリオル。

天上の星々に包まれるような奥深い目で彼は力強く語りかけてくる。


まったく彼の言う通りだ。

戻っても非力ゆえに何もできやしないんだ。

僕は、素直にうなずいて、彼らとともに行動するしかないようだと理解する。



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