32 人違い……
あれだけの人数の追手との攻防戦の末。
こうして地に伏せ、倒れてしまったユリオル調査隊。
彼の意識は辛うじてあって、その吐息を僕がじかに感じ取っている。
手当をする僕の両手は彼の体にピタリと当てているからわかるんだ。
彼の声で最後に聞けたのは、「あきらめるな」だった。
だから僕は、自分にできる回復魔法を施しつづけるしかない。
最初は小回復だった。
そして、3度使用すれば杖から1秒ごとに魔力1を補給する。
3秒後にまた小回復、計150体力の回復。
彼らの体力は、ユリオルで3000はあるため、治癒には時間がかかった。
だけどポーションのアプデをしてから、その魔力補給がスキル化されて。
魔力が枯渇してから注ぎ足す感覚でないとわかった。
常時回復している。しかも回復速度はインターバルなし。
ゆえに相手に触れているだけでヒール効力がそのまま流れ込んでいく。
小回復だが魔力が尽きないおかげで、ヒールを延々と流し込めている。
おまけに治癒速度に歯止めする抵抗がすべてショートカットされている。
「……なにこれ!」
疲れをまったく感じなくなった。
自分が為している作業だとは思えず、もはや作業というより機能だ。
例えていうなら、畑に自動で水撒きをするスプリンクラーに自分がなったみたい。
「おいっ! そこのお前だっ! こっちを向きやがれってんだ!」
背後まで近づいていた野蛮人のひとりが僕の腕と肩を掴まえて。
ちからずくで強引に自分たちの方に振り向かせた。
僕は首筋に寝違えた時のような痛みを感じた。
「痛ってぇな! なにをするんですか? 治療中なのに──」
僕は恐怖心を押し殺して、とぼけたセリフで奴らと対峙した。
振り向くと、まるで野外ライブの観客に包まれたような気分になった。
血眼になった熱量が灼熱のごとくに伝播する。
あのとき感じた狂気の歓声は憎悪とはまた別の感情だと知った。
なぜ、名を訊ねるんだ?
有無を言わさず殺傷したりせずに。
そのあたりに憎しみとはちがう感情を持っていると感じたのだ。
「ラルク……お前には直接の恨みは……ない……が??」
「な、なんですか? 初対面の人間に向かって。し、失礼ですよ」
続けてしらばっくれた返事をするのだが。
まだ恐怖心は拭いきれず、その場に座り込んだままだった。
それは振り向きざまの一瞬だった。
不思議な感覚が両者の間に紛れ込んだのだ。
僕を掴んでいた相手の手のちからが自然と緩んでいくのを感じ取った。
「おい、どうしたんだよ?」
「そんなガキ1人、早いとこ始末してとっとと遺体を……袋に詰めちまって……」
「……ち、ちがうんだ! こ、こんな奴じゃ……ないよ」
「は? なに言ってんだよ。手配書をよく見ろよ、ほら?……あれれ?」
こいつら、いったい何を戸惑っているんだ。
もしかしたら、もしかするかも。
この会話の様子から、察すると。
僕も恐るおそる、聞き返してみる。
「あのー、もしかして、人違いだったりしますか?」
「あ……その、なんだ? いや他人の空似っていうか……はははは」
僕の首根っこを掴まえたやつが、目をそらし、顔をポリポリと指先で掻く。
ごまかす様に苦笑いや、作り笑顔を見せている。
ほかの男たちも同様に口をそろえ出す。
「おいおい、マジかよ? マジで人違いじゃねーかよ!」
「おれたち、また罪状を増やすとこだったぞ。気ィつけろや、ボケが!」
その他の刺客だった連中も次々と入れ替わり立ち代わり、僕の顔を覗き確認した。
それでも尚、
「ちがうな……まちがいなく、ちがう奴だぜ!」
「ああ。まちがいなく赤の他人だよ。いやあ……わりィ、わりィ」
急にヘラヘラしだした。
謎すぎて怖いんですけど。




