31 絶体絶命
「百騎長! 追いつかれてしまいました。もはや戦う他はないようです!」
後方を援護していた若者が突然の報告をした。
ユリオルは覚悟を決めたのか、おもむろに歩みを止める。
僕の身柄もその場にそっと降ろされた。
ピュシピュシと小銃の様な音が足元を脅かした。
「魔法弾を撃ってきた! 遠くに数人だけ確認できてたが──」
「みな、盾を構えろ!」
魔法弾はファイアボール。
小さな弾だが魔力量がものをいい、身体に受ければ大きく負傷する。
「百騎長。もう剣を抜いて応戦しましょう」
「わかった。だが殺してはならぬ」
「むずかしいですが、援軍が来るまでお守りします」
え、命は取らないであげるの?
そうか、調査隊だったね。きっと殺生はしないんだ。
「円陣を組め。何としても彼を守るのだ!」
「え、守るって。僕のこと……?」
「君も、何かできないか?」
「え、はい。小回復ならできます。回復薬も沢山あります」
ユリオルは頷き、「それでいい」といい、背中を向けた。
僕には回復の役目が回って来た。
幸いにも、あの魔法の杖は本物だった。
魔力を補給しながら、ヒールを唱えつづけていく。
僕のことは彼らが盾となり、守ってくれる。
僕は彼らの傷の回復に専念できるということだ。
たった10人で数百の訓練された兵を相手に応戦し始めた。
だけど時間とともに、ひとり、またひとりと地に膝を付く。
「……もう無理」
回復がまったく追いつかない。
努力を惜しんでレベリングをさぼってきた。
何もかも、僕の魔力が乏しいせいだ。
「ラルク……回復をもっと頑張ってくれ。……魔力が低いようだがいくらだ?」
「まだレベル1で魔力は……3……です」
ユリオルの返事がない。
あれ、もしかしてフリーズってやつ?
「3……?」
『『『……3、だってェ?!!』』』
負傷して黙り込んでいた人たちまで振り返り、驚いた。
そんなに声をそろえて言わなくても!
超恥ずかしい。
「今朝、冒険登録して、あの娘とここへインプ狩りに……」
「……そうか。頼みの綱のお嬢ちゃんと、はぐれちまったワケだ」
「ユリオルさん! うしろっ!」
この人たちが相手の剣士の半数を峰打ちで気絶させたが。
背後にいる魔術師の強力な気付け魔法で即時回復されてしまう。
相手はゾンビのような状態だ。
ユリオルの足元にも転がっていた。
ユリオルが倒した敵兵が意識を回復した途端に襲ってきた。
ユリオルの油断は僕が話しかけたせいだ。
背後を取られ斬られてしまった。
仲間の回復は当然追いつかず、すでに負傷し、戦えないでいた。
「僕が、僕がいったい何をした? このまま……、こんなところで……
せっかくの異世界転生なのに、悪役令息のまま終わってたまりますかっ!!」
知り合ったばかりの人の好さに甘えてばかりで。
このままでは全滅だ。
先に盾となり、見えなくなったルディのためにも。
終わってたまるか。
でも、でも、いまの僕にできることなんて。
入手したものをアプデすることだけだ。
「今日、なにを手に入れた? まず杖だろ、そんでこの旅人の服。
あとは宿でもらった、ゴールド福引券。それと回復薬に……
あとは魔物の素材だけ……ロクな物がない。……あわわわ!」
「おい、ラルク! 混乱しているのか? しっかりするんだ!」
死の際だというのに落ち着けだなんて。
なぜそんなにタフなんですか。
「アプデだ。全部、無限アップデートしてくれ!」
「おい……ラルク。最後まで……あきらめ……るんじゃ……」
かすれた声が途絶えて、
ユリオルがうつ伏せに倒れ込む。
「ユリオルさんっ! しっかりして!」
僕の言葉は彼を気遣っている。
けど結局、自分の心配をしているだけだ。
わからない。
僕にだって他者を思いやる気持ちはあるんだ。
でも役立たずのまま、消されてしまうのが怖いんだ。
いやだ。
早く、なんか来い。
来てくれ、たのむ!
『魔法の杖をアップデートしました。杖の効能が無限に使用可能』
それは魔道具だから最初からなの!
『旅人の服をアップデートしました。スキル旅人を覚えました』
いや何それ!? 戦えないヤツやん!!
あの世に行きそうなのに。
旅人をしている場合じゃない。
『回復ポーション、Mポーションをアップデートしました。
スキルで無限にHP,MPの小回復が可能になりました』
いやいや、この杖があるから。
もう重複スキルじゃん!
『ゴールド福引券をアップデートしました。
福引券は「福引権」に昇格しました。だいじなものへ移動……』
え、福引が無限に使用可能ってだけでしょ?
嬉しくなくないけど。
家に帰れないと意味ないから。
『スライムゼリー、きれいな貝殻をアップデートしました。
ドロップ率からドロップ等級に昇格しました』
なに。ドロップ率が上がったのか?
魔物素材も嬉しくなくないけど。
いまは役に立つとは思えない。
「もう、いいよ」
それらを鑑定している暇もないし。
「もういい。なんでもいいから全部発動してくれ!
変化のあったのを全部発動しといてくれ!」
やれることはやった。
使えなくても。役に立たなくても。
「あとは……ユリオルたちを回復しつづけるだけだ。
このちから尽きるまで。僕のためにこんなになるまで……」
ちからは尽きなくなったみたい。
過酷な状況とは裏腹に、やつらはあっという間に進軍してきて。
僕たちをぐるりと取り囲む。切っ先鋭い刃を頭上に掲げて。
不敵に笑う。
絶体絶命だ。
「お前が、ラルクだな? もう観念しろ!」
僕に向けられた黒い声が聞こえたが。
刺客の男たちなどに見向きをするのが馬鹿らしい。
最後の時まで、僕はユリオルたちに向き合い、回復をしつづける。
「……いまさら命乞いなんて無意味だ。
どこにでも連れていけ! だがこの人たちは無関係だから……」




