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29 襲撃


目の前で、ルディが勇敢にも仁王立ちをしている。


僕はいま、ルディの背に隠れながら、この胸の高鳴りをどのように鎮めるか。

気持ちが一杯いっぱいで汗だくになり、同時に血の気が引いていた。

それと頭の中も真っ白になりかけている。

ルディは振り向けないまま、地にへたり込む僕を気遣ってくれる。


「ラルク様! 立ってください! そして、出来る限り街から遠ざかって!」

「や、やっぱりダメか? きょ、今日は家に帰れそうにないのか?」


ルディは繰り返す、「家に帰るというより、土にかえることになる」と。


「このまま此処にいては、二人とも処刑されてしまうでしょう……」

「立ってと言われても……震えてまともに足が立たないんだ……」


僕は腰を抜かしていた。

複数の男たちに奇襲されたようだ。

男たちは皆、手に剣や槍などを持ち、いきなり斬りつけてきたのだ。

理由を答えることはなく、ただ「命を頂く」と言われて。


やつらが何者かはまだ把握できていない。

ルディの指導で逃げて逃げて、いまこの状況が生まれている。


その時、情けない僕の言動に愛想をつかすように、ルディは決断した。


「ラルク様、あたしが囮になります! 全滅させられるよう努力してみます」


内包していた魔力を絞り出すような気迫が伝わって来た。

囮になって引きつけながら応戦する。

僕を庇いながら戦うことはできないみたい。


「待って! ルディ、僕から離れないでっ! 

 僕一人で森の奥に行ってもどうにもならないよ!」


「それでも、お逃げください! ラルク様、ご武運を祈っています!」


「あ……! ルディ! ルディーーっ!!」


僕を守るために、騎兵のような衣を着た猛者どもの中へ走り出した。

ルディは片腕を頭上に掲げた。

手からは、あっという間にメラメラと燃え盛る火炎が渦を上げるように立ち昇る。

その特大の火柱を茂みに潜む連中に向けて解き放つ。


地を這う大蛇のように蛇行しながら、草に覆われた地面と木々に燃え広がる。

僕らも生死を問われる状況だけど、このままでは山火事が起きてしまう。

領土を隔てる森林を破壊すれば大罪に問われてしまう。


「……ルディ」


ヤナコドム森の中を爆音とともに火柱がほとばしっていく。

男たちは妙な悲鳴を上げて一部、逃げまどっている。

森のエルフがなんてことを。

少なくとも数十本の樹木が炭に変わるだろう。


「おい、てめェ! 俺たちを焼き殺す気か!」


はあ!?

ルディが答える。


「アンタたちが、あたしたちを殺すつもりだったくせに何いってんのよっ!

 いま、煮え湯を飲ませてあげるわ。喰っらいなさーーいっ!!」


魔力が尽きてしまわぬか心配になるぐらい。

ルディは肩で息をして火球を連発し続けた。

その意気で全員片付けてくれたら家に帰れる、片づけたら火消しを忘れないで。

そう思ったのは束の間だった。


「……アレは! また敵か?」


アスバルド領の方角からもガヤガヤと誰かが駆け付けてくる。

編成された小隊のようだ。


「火の手が上がったのはこの辺りだ! おい、お前たち何をしているんだ!」


そっちはどうやら冒険者のようだ。

どちら側の人間だ?


いまはどちらでもいい。味方になってくれないかな。

先頭にリーダーシップをとる白髪の戦士のような筋肉隆々の男がいて。

地を這いつくばっていた僕を見つけて、


「なぜ争っているのだ?」

「奇襲を受けています、どうか助けてください!」

「そりゃ、いったいどういうこった?」

「見ず知らずの者たちが突然「命を頂く」といって襲ってきたんです」


白髪の男は戦況を見定めるように爆炎の出所を見つめた。

男は僕にいった。


「だれの命を奪うと? あのお嬢ちゃんか?」

「る、ルディは上級魔術師です。おいそれとはヤられない……えっ?」


白髪の男はあきれ顔で指摘をする。


「そりゃ、坊やが狙われたってことだねェ」

「……あ」


ぼ、僕ってことは、まさか。

長兄カミルの仕業なのか。


「顔に心当たりがあります、って書いてあるねェ」


白髪の男は陽気な口調でいった。

誰ともわからないまま思わず助けを求めたけど。

敵対者ではなさそうだ。

一安心してホッとしたら、その男がいった。


「君たち、殴り合いにしても度を越えているぞ?」


そういう白髪の男たちは傷だらけの肉体をしていた。

古傷も見て取れるが目新しい傷もある。

そのへんで「殴り合い」でも済ませてきたようにいう。


「殴り合いって。……まさか領土侵害の冒険者じゃないよね?」


でもいまは、それどころじゃない。

ふと、ルディの戦いの行方に目をやると、ルディの姿は──

もう消えてしまっていた。


「おい、坊や!」

「はい?」

「立つんだ、逃げるぞっ!」


白髪の男は僕の腕を掴み、引きずるようにその場を離れだした。

僕は驚きの声を上げた。


「どうして? ルディを置いてなんか行けないっ、放してください!」

「援軍だ! 君が命を狙われているんだろ?」

「で……でもっ」

「彼女は何のために戦っているんだ? 君を逃がすためじゃないのか?」


僕は、ようやく気付いた。

身体の震えは止まったけど、洪水のように溢れて視界を滲ませる塩辛いものに

気付かされた。


僕はルディと二人で森に遊びに来ていたんだ。

そう、遊び感覚だったのだ。

冒険という言葉の意味を深く考えることなく、ここまで来てしまった。

ギルドに気軽に立ち寄り、ゲーム感覚で冒険者になったのだ。


ルディがいなければ何もできない。

戦闘力のかけらもない僕が、こんなところまで。


「おい、坊や。悲嘆に暮れている暇はなさそうだ。追手の数が激ヤバだぞ!」

「……へっ?」


傍について来た仲間がそういった。

レイナルーズ領の方角から数十、いや数百人の強面の人影が。

狂気に満ちた盛大な歓声とともに押し寄せてくる。


「百騎長、我が領土まで出るしかなさそうです!」

「は? ちょっと……ぼ、僕は……」


白髪の男は百騎長と呼ばれた。

なにかの軍隊か。

その百騎長が僕の体をひょいと抱きかかえて速足で踵を返した。

このまま北へ森を抜けるつもりらしい。


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