27 ハイエロファント・ロッド
浅瀬の洞窟に着いた。
「夕刻になると湖が満潮になるから、昼過ぎにはここを出る予定でいる」
「不思議な現象ですね。いつも思うけど……水の量が増えたり減ったり」
魔法使いのルディでも、それが月の引力の働きだと知らないのか。
空の上には何があるのか誰も語らない。
魔力ある者を恐れ、神様を信じ、信仰の対象がある異世界だ。
科学者のような存在もどこかには居るのかな。
「大自然の営みは神様だけが知っているって学園の先生がいってたよ」
「うん。あたしも親にそう教えられて育った……」
「そっか。ルディの親は元気でいるのか? 故郷はどこだっけ」
余計なことを聞いたかな。
ルディは沈黙する。
僕を何故か冷ややかな目で見て、
「エルフの領地はレイナルーズより遥か西の国です」
「遥か西の国か。どんなに美しいところなの?」
「なぜ、美しいと思うのですか?」
「だってエルフは美形ぞろいだから」
褒め言葉のつもりでいった。
彼女は僕から視線をそらした。
ルディの一瞬見せた瞳がどこか寂しそうに感じられた。
「エルフの国には悪い魔族が横行していて、屈強の冒険者も住み着いてます」
「へえ。冒険者はその魔物退治のために逗留してるの?」
ルディは静かにうん、といい頷いてくれた。
「頻繁にギルドに討伐依頼をしてるから、その要請に応じて来てくれるんです」
「エルフの国は昔と違って人間との交流を許しているんだな」
「魔族を退けてくれるから。あたしだって、こちらにいますから人間寄りです」
水に囲まれた幻想的な緑の島国だと本で読んだ。
エルフは魔族と人間を一番嫌っていてなかなか信用を置いてくれない。
心を閉ざして領海の扉を長年閉ざしていた種族だ。
宿敵が人間とおなじ魔物で、人間とは協力関係にあるようだ。
美麗な容姿のせいで誘拐され、奴隷商に売られることもあると聞く。
ルディも奴隷から脱却した身だったな。
奴隷にされた理由を知ることは固く禁じられている。
その権利があるのは「奴隷解放の主」だけなのだ。
辛い境遇から這い上がるには強くなるしかなく、その逆境がバネとなっている。
人さらいは大抵、悪い人間の仕業だし。
故郷の話をしたのはマズかったか。
嫌いな魔物を退治するために魔法使いを志願する傾向にある。
境遇は気の毒だが、こうして僕の師匠として出会っている。
感謝を忘れず、大切にしたい存在だ。
「ラルク様、貝殻の採取をお手伝いしましょうか?」
「いや自分でする。これは僕が受けた任務だから」
本当に優しい娘だ。
本当の主は親父だが、僕が大切にしてあげたい。
「この洞窟内にいる魔物が採取の素なら、そいつに杖を試そう」
ルディの顔つきが変わる。
全身から闘気の様なものが漲っている。
「低級の魔物ですが複数生息しています。どの魔物が対象なのか調べますか?」
「調べる方法なんてあったの?」
「いえ、片っ端からぶちのめして、ドロップ物を特定するだけです」
「ぶっ、ぶちのめす! って、ルディは脳筋か!」
強い口調とは裏腹な笑顔で、
「とっても手っ取り早くて、効率的ですよ。ラルク様!」
僕を励ましてくれる。
「……あっはは」顔が引きつった。
そのやり方が効率的といえるのは、強者のみだ。
しかし、僕は随分と過保護にされがちだな。
ルディの眼には軟弱そうに映っているのだろうな。
LV1じゃ無理もないな。
「そうしてくれるのはありがたいけど。
いずれ一人になった時に困るから、前もって調査してきたよ」
「えっ、ほんとですか? そんなのいつの間に調べたんですか?!」
先ほどの暗く沈んだ寂しげな瞳はパッと晴れたようで、少しホッとした。
「受付嬢のカヤに聞いてきた。対象は、水辺の魔物カラスガニ。
綺麗なものを飲み込んで成長をする習性がある。体内で宝石の成分が結合し、
虹色の核が生成されるそうだよ」
「ラルク様って抜け目がないですね、感心しました」
もちろん、受付嬢がそんなことまで教えてくれていない。
僕が勝手に腕輪を鑑定して、素材のサーチをして在りかを特定した。
カラスガニという魔物のドロップ物だと判明しただけだ。
甲殻類で堅そうだが。
杖がこん棒がわりになるし、周囲が水場なので雷系と相性がいい地形だ。
「いかずちに期待してる。見つけたら声掛けするから、
ルディは後ろからついてきて」
早速洞窟へ入り、歩を進めていく。
魔法の杖を握りしめ、気合をいれた。
「あ、あいつだ! ルディはギリギリまで援護しないでね。
回復も自分でするから。見ているといいよ」
僕はなるべく杖の柄の先を両手で握り、魔物と距離を取る。
「裁きのいかずちっ!」と大声で唱えてみた。
すると手元からエネルギーが漲ってきて、柄を伝い杖の上部にビリビリと光るものがまとわりつく。
「おお……これは!!」
感動が全身を駆け抜けた。
「えっー!? うそー!?」
僕は杖にスナップを加えるように敵に向けて振るった。
杖の先から、稲光がほとばしった。
一匹のカラスガニにダイレクトに命中した。
カラスガニは痺れながら、プスプスと身体を焼かれて口から煙をだし動かなくなり、パタッとその場に倒れた。
「ルディ! 魔法の杖は本物だったようだぞ!」
「う、うそでしょ? 魔道具? それも掘り出し物だったのかしら?」
確かに、こっちも掘り出し物という可能性もある。
あの武器屋の店主、ぼったくりでもなかったようだな。
前言撤回だな、ルディは。
☆
カラスガニ1匹、5exp
ドロップ きれいな貝殻1個。
☆
ギルドカードが銀色に光った。記録されたのか。
僕のステータスウインドウも同時に開き、情報が追加された。
本物と判明したなら、カニを採取の貝殻の枚数分採れるまで倒していく。
殻は体の部位だ、倒せば必ず落ちる。
10匹を打ち倒した。
「ラルク様、やりましたね! カニ10匹ですと50exp、
つぎのレベルまでは500は必要ですから。ここであと90匹乱獲しますか?」
乱獲とか、戦闘にこなれてきた奴がいうセリフだよ。
だがポーションも未消費で済んだ。
雷の杖のおかげだ。
乱獲も有りと言えばありだな。
ハイエロファント・ロッド。
その名は伊達じゃなかった。




