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25 ラッキー会員



福引の景品になる物の中には今回のような魔物の道具もある。

宿屋はとくに魔物の落とす変わり種の戦利品ぞろいだ。


レイナルーズ領は草原に囲まれた資源豊かな領土。

その草原地帯をドーナツ状にぐるりと囲むように森が広がる。

北に行けば、ヤナコドムの森。南方を覆っているのは、ドムドラの森。

二種の森林地帯が輪となり、繋がりを持ちながら深々と茂っている。

森を隔てたその向こうに、また別の領土があった。


「ご主人。あのぼうしの入手先って確か……ドーナツ妖精でしたね?」

「左様ですが。近ごろは森の向こうのアスバルド領の方々も狩りをなさるようになって、こちらの冒険者の戦利品目が減少傾向にあるようです」


レイナルーズ領の民はふたつの森をドーナツ森と呼称し、

その森全体に出現する小悪魔妖精や、弱き魔物のことをドーナツ妖精と呼ぶ。

みみずきんを落とすのはインプという小妖精だ。


「アスバルド領の冒険者ですか?」

「そうなのです。禁止令を伝えてきた冒険者ギルドの監視官によれば、近年、冒険者同士の間で戦利品の横取りが起きているとのことでした」

「えっ、領土越えの狩りは禁止事項のはずですが……?」


宿主の口から驚くべき事案が伝えられた。


現在そのことについては、

宿の主人はもとより、兵士、冒険者たちも憤りを禁じ得ないと話していたそうだ。


「アスバルドといえば、たしか森を北側に抜けた先の領土でしたよね?」

「はい、ラルクさま。森を越えて別の領土の街へ足を運び商売をする商人の他には、各領土との文化交流が容認されているのは冒険者だけですから」


冒険者たちの間でも焦りと動揺が広がっているという。


「あの……奪い合いをしているのは戦利品だけですか? それとも魔物ですか?」


いま話を聞かせてもらったのだが、耳を疑う内容だったのでもう一度確認したくなったのだ。

これは相手冒険者の行き過ぎた狩りの問題なのか、

それとも領土問題に発展しているのかが問われる事案だから。


「ラルク様、お気持ちはよく分かります。

 しかし冒険者同士の小競り合いにとどまる案件でしたら、

 領主様が我々にこのような厳しい選択を強いられましょうか」


宿主よ。

なんとも身の毛のよだつような語りをするのだな。

主人は武者震いを見せ、戦々恐々としている。


森の中での狩場を荒らす行為はすでに領土問題に触れる事案だ。

再確認をした僕が悪かった。


「……それでは相手領主の許可で狩の現場を拡充した、領土侵害によるものか」


レイナルーズ領の領主がこの禁止令を発令したということは断固抵抗する。

そういう意味だ。

これが理由での戦利品の減少。

従来通りに景品無効を当たり前のように行使すればその横暴の容認につながり

領土民からの信頼が揺らぎ兼ねない。


ともすれば、冒険者同士で殴り合いが始まってしまう。

異世界の憧れの冒険者にすでに亀裂が生じ始めている。

こんなところで福引をしている場合ではなくなった。


「ご主人。僕の福引は道具屋でも全滅してきたので、全部末等でもいいんです」

「ラルクさま……お気遣いをさせて申し訳ありません」


申し訳なさそうに85枚分の福引の末等景品を差し出した。

その上、銀の皿に乗せて何かを持ってきた。


「末等のスライムゼリーなら在庫も豊富です。袋に詰めておきます。

 それと、こちらは私どもの気持ちです。どうぞお納めください」


そういって、さらに手渡してくれたのは見慣れぬ景品だった。

手にしたものは、神々しく金色に輝くプレートだった。

何か高価な貢ぎ物ではないかと僕はそれを不思議に眺める。


「ご主人? これは何ですか?」

「そちらは『ゴールド福引券』でございます」

「ゴールドといえば。長年買い物をして長年店を利用した者に送られる、あの?」


ゴールド会員みたいなアレだ。

黄金のプレートには「福引券」とは記されていない。

この宿で使用できる特別な物のようだ。


「貴族ゆかりのお客様は福引といえども決して手を抜いては下さいません。此度のような禁止令が出たなら尚更です。領主の意向に従えぬのか、と。それはもう冒険者の権利をそっちのけで景品の予約を奪いに来られます」

「あ、僕はそんなつもりでは…。なんなら福引なんてしないで帰ります」


悪役に生まれなくてもいるんだな、そういう奴らが。

同類と見なされたくないので、このまま帰ろうかと思ったのだが。

主人は否定し、僕を繋ぎとめた。


「いえいえ、ラルクさまがそうでないことは重々承知しております。ですからお礼がしたいのです! 一度きりのご使用ですが、意中の景品がお好みのタイミングで手に入ります。みみずきんでしたら、いまはございませんのでまた出直して頂ければ」


なんということだ。

まるで本当に運が開けたようだ。

嬉しさのあまり、ルディを抱き寄せて、


「ルディ、いまの聞いたか?」

「すごいっ! ラッキー会員ですね、ラルク様!」


注意深く聞いていたようだ。


「おお。ご主人。ありがたく頂戴します!」


目当てのものは入荷次第、もらいに来よう。

これで宿屋での用事は済んだ。


「またのお越しをお待ちしております!」


宿の主人に挨拶をして外に出た。

この後は、魔法の杖の検証のため、浅瀬の洞窟へと向かう。



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