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24 無効宣言禁止令


「これはラルクさま!」


宿の受付に顔を出すと、コンシュルジュが慌てて奥へ駆け込む。

なんだ? 

通報でもするつもりかと一瞬思ったことだ。

だが奥から血相を変えて出てきたのは宿屋の主だった。


「数ある街の宿の中で当宿を選び、わざわざお立ち寄り下さるなんて光栄の極みにございます!」


その声には聞き覚えがあったようにも感じる。


この宿も幼いころに母と立ち寄ったのだ。

母は滅多に買い物などに出なかったが。

怖い夢に取りつかれた僕が寝付けない夜を過ごすあまりに。

噂を聞きつけた母に手を引かれて例の商品を求めに来たのがここだった。


「あの時のご主人ですか?」

「さようでございます。ラルクさま、大変お久しゅうございます」


深々と頭を下げるとともに柔らかい笑みで出迎えてくれる。

他の店とは明らかに接客態度がちがう。


「当宿のその後の繁栄があったのもアッシュルーズ家の若奥様が足を止めて下さったことが評判になったお陰なのです、坊ちゃま」


そういうと宿の主はじんと感動に胸を打たれて目を潤ませていた。

母の人望の賜物だな。

それなら話が早い。

僕は用件を伝える。


「立ち寄ったのは他でもない。あの時とおなじ商品が欲しくて来たんです」


王様の外戚におられた戦姫の子守歌が伝承にあって。

戦場で傷つき倒れた兵士らを美声で癒し、再び鼓舞させ華麗なる逆転劇を歴史に刻んだのだという。

そんな伝説の姫に夢で会えたら、眠るのが楽しくなるだろうと。


「あの日とおなじ物が、いまは福引の景品になり人気を博しているとか」

「おお、これはまた奇遇ですな」

「あの……ふしぎなぼうし。いまは姫様ではなく母に会いたい気持ちなんです」

「おお、そうでございましたか。心中お察しいたします」


効能を知る宿屋の主人は感慨深いまなざしで理解を示してくれた。

だが主人の表情がすこし曇り気味だ。


「どうかしたのですか? なんだか顔色が優れないみたいです」

「いえ心配には及びません。どうぞ、奥の部屋へご案内いたします」


なんでもないといい、福引をするための水晶玉のある部屋へと案内された。

母はとくに人間性の美徳を具えていると評判だった。

それにより繁栄を極めたのに、その美徳とは裏腹に豪華絢爛な客室だった。

宿屋のもてなしってこっちの路線なんだな。


煌びやかな装飾品で部屋は隅々まで飾られていた。

メルヘンな内装に見とれるようにルディが、ボーっとしている。


「ラルクさま。ひとつ前置きをさせて頂きたいのですが」

「どうぞ。遠慮なさらずに」

「お望みの景品ですが、人気商品に付き、おひとり様1個限りとなります」

「ああ。そのようなことですか。引けるかどうかもわからないので──」


べつに構わないと伝えた。

人気商品だもんな。

貴族が立ち寄れば店の者はルールを厳守したいのにさせてもらえない場合が。

引けるだけ引かせろと無理難題をせがむ輩もいるだろう。


「心配はご無用です。では85枚でお願いします」

「そ、そんなに。ラルクさま、どうか3回でご勘弁願えないでしょうか?」

「え?」


3回だって?!

いったいどうしてなのだ。


「在庫がないのですか?」

「ええ。極めて品薄状態なのです。引き当ててもこの場で景品の引き渡しができない可能性がございます」


品切れによる引き渡しは、確か、翌月の入荷日以降だ。


「ご主人。いま引き渡せる在庫はいくつあるのですか?」

「みみずきんに関しましては、ない状況です」

「ない……のですか?」

「大変申し訳ございません」


どういうことだ。

ないなら、『3等無効宣言』を景品の早見表に記載すればいいだけのことだ。


「それなら、どうして『無効宣言』の記載をしないのですか? 

 国の法が施設の援助と味方を約束してくれているはずですが……」


福引は冒険者支援の一環だ。

発案者及び事業主は領主だ。責任者もおなじだ。

それによって店側が損益を被る仕組みではない。

それゆえに安心して客に奉仕できる制度なのだ。


客からの信頼を損ねないように、申し開きの手間を省くシステムが予め準備されている。

それが『景品の無効宣言』なのだ。


「ご主人? なぜそのように暗い顔をされるのですか?

 領主様が自ら発令なさったことでしょう。

 在庫切れならば『景品無効』の記載をされるだけで解消できるはず──」

「ラルクさま、まだご存じないのですか?」

「ん?」


「先ごろ、『無効宣言禁止令』なるものが発令されまして」

「はあ!? そ、そうなのか? ルディ知っていたか?」


部屋の装飾にうっとりしていたルディが「何でございましょうか?」と。


「話、聞いてなかったか?」

「……ラルク様、あたしに口を出すなと仰いませんでしたか?」


確かに買い物に口出しをするなといった。

君がうわの空でいても何ら差支えはないな。


「……いや。それはすまん。それで禁止令ってのは知っていたのか?」

「あたし。この数日でしたらお屋敷に上がるための試験を受けていて、

 外部の情報は耳に出来ませんでしたから。わかんないです」

「そうか。そういう状況にいたか。僕も停学謹慎で外の情報は拾えてないんだ」



ていうか、それを禁止する意味があるのか。

在庫がないのだろ?

冒険者ギルドの魔物戦利品の買取や売却の場合。

入荷次第とかで待たされることが日常的にあるらしいけど。

福引にそれを導入するメリットがわからない。


本来無効にできるものを

これじゃ店屋はその対応に追われて従業員の負荷にしかならない。

ご主人が浮かない顔を見せるわけだ。



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