23 八王子
「いやいやいや……これはもうポーションを狙ってらっしゃるとしか」
「これで99回目ですね、ラルク様……」
「……むうう……むうう」
僕は両手を目の前に広げ、「来いっ!」と念じながら唸り声をあげていた。
店主とルディが息を呑んで見守る。
抽選機はガラガラ回すやつではない。
卓上に置かれている水晶玉に手をかざすと発色する。
今のところ全て白色だ。
予想はしていたのだ、予想は。
ルディがマメに福引回数を数えている。
99枚を使用するところだ。
98回目までは全部、末等だった。
予想通りの惨敗だ。
しかし運がゼロでも福引だから、商品のポーションはゲットしている。
「半分しか挑戦しないはずだったんだけどな……」
「外れが続いても、やっぱり熱くなりますか? ラルク様……」
「いや、ルディ。ポーションもらえるし、外れ判定じゃなくねえか?」
10枚、20枚の時点では、後方から「ファイト、ファイト!」と声援を
投げてくれていたルディも続投に疑問を感じてきたか。
熱くなっているというよりムキになっているが正解。
店主もポーション狙いなどと応援ムードを演出して盛り上げてくるから
ついつい長引かせられている。
店は僕が残念賞を引けば引くほど、損失を出さずに済むが。
福引自体は領土が冒険者を支援する目的でバックアップしているものだ。
実質店側が損をするということはなく、得をする仕組みでもある。
「あ、あと一回で終わりにします」
水晶玉に手をかざすのも疲れてきた。
結局100枚も引いたのに全部スカでした。
福引の等数は8段階だ。
これじゃ、あだ名が八王子様になってしまう。
「お疲れさまでした。末等の景品ポーション100個のお受け取りを!」
「あ、ありがとう」
水晶玉から離れた。
魔力を消費するわけではないが、どっと疲労感に見舞われた。
景品のポーション100個を無限の鞄に突っ込んでいく。
「ラルク様、残金を使って宿で休憩されてはいかがですか?」
何を言い出すんだ。
労わりのつもりか冗談か分かりづらい笑みを浮かべるルディ。
「そんな休憩するほど歳を取ってない、大袈裟だよ」
「でも次は宿屋なんでしょ?」
「そうだ。宿の福引は以前から欲しい物があってな」
「それを狙いにいくんですか?」
「そうだよ」
「それはどのようなものですか?」
好奇心旺盛か。
「ルディには用のないものだよ」
ルディは首を傾げ、きょとんとする。
それを聞いて道具屋の店主が話に入って来た。
「坊ちゃんのお目当ては「みみずきん」でございますか?」
「……おじさん! しってるの?」
「ええまあ。……わたくしも妻に先立たれていましてね」
「あ、そうだったんですね」
自分だけ会話に混ざれないルディがふくれっ面をした。
店主がそっと「お嬢さんはエルフさんですので仕方ありません」と。
「ルディ。あれはね人間が頭に被ると一度だけ想い人の声が聴ける、
そういう不思議な効果を得る、夢見のぼうしなんだよ。
宿屋にあるのは一応寝具だからだよ」
「人間だけですか?」
「そう、人間を夢に誘い込んで誘惑して二度と目覚めさせなくする
使い魔の妖術が込められているんだ」
「ひえっ! なんか怖いです。想い人って、亡くなったひとですか?」
「そうじゃよ。坊ちゃんは先妻の母君が恋しいのですね」
「……えへへ」
「ラルク様! そんな薄気味悪いもの、引き当てないでくださいよ!」
「なんで?」
確かに気味がよいとは言えないが。
「引ければ運が上がるかもしれないのに」
「でも、それでラルク様が目覚めなくなったら……あたし困りますぅ」
魔法を指導できなくなるからだな。
「いや一夜限りで魔法は解けると判明しているから危険はないよ」
「そ、それを早く言ってください! 心配しましたよ」
「きっと飯の心配だな。大丈夫だ、訓練はまじめに頑張るから」
「ち、ちがいます! ほんとに心配したんですよ。
旦那様から聞いていたほどラルク様は乱暴な方ではなかったですし。
あたし……朝食のときからずっと」
うん?
また腹でも空いていたのか。
「ずっと、なんだ?」
「あ……な、なんでもありません」
それとも、
召使いの立場を忘れるほど、馴染んでくれたのかな。
まさかな。
「そうか。それならこのまま宿屋へ行くぞ!」
「ラルク坊ちゃん、またいらしてください。ご機嫌よろしゅう」
道具屋の店主に挨拶をして店を出る。
次は宿屋だ。
外に出ると、すかさずルディが質問を向ける。
「ラルク様。その、ぼうしは何等賞ですか?」
「3等賞だよ」
「ハードル高っ! あ……あの、ごめんなさい!」
「ルディは正直だな。思ったことがすぐ口に出るのな」
「も、申し訳ありません、ラルク様!」
ほぼ90度のお辞儀を見せている。
そんなの対マチルダ戦でも見せなかったぞ。
マチルダのほうが心の距離が近いのだな。
その畏まった姿勢は謙虚であるが、同時に親近感は薄れる。
「ほんとのことだ、気にするな。この分じゃ残りも全滅しそうだな」
「ラルク様、ファイトですよ! ラルク様は変わられました、次こそはです」
「お、おう!」
僕の応援団など母と死別して以来だ。
このふわっとした温かい気持ちを信じて頑張ってみるか。




