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2 ずるい


体がどうかしたか。

顔色を見るにむしろ輝いている。

具合が悪そうには見えない。

ルディが何やら主張を始めた。


「あたしも傍で仕えるように旦那様から仰せつかったので……」

「なんなの? 仕える場面をはき違えていますよ!」


体も至って元気そうだ。

僕が口を出す場面か判断に迷う。ここはマチルダに任せよう。


「だから、ここに居させてください!」

「ルディさん、人の話を聞きなさい!」


マチルダは持ち場がちがうだろうと憤慨する。

人の意見に耳を貸さないルディ。奴隷は教育を受けていないのか。

図々しい奴は好きじゃない。


こんなこと、今までになかった。

その身勝手な意見にマチルダの鼻息が荒くなり、口論になっていく。


「なんでもいいから、はやく引き取りなさいっ!」

「あたしも何か手伝います!」


なぜ引き下がろうとしないのだ。

食事の邪魔だから出て行ってほしい。

そして、その前に僕に挨拶をしろ。

マチルダはルディに指摘する。


「ちょっと、あなたは魔法指南役でしょう!」


僕もそう聞いている。


「今ここにあなたの出番はないの! まったく図々しい子ね……」 

「そ、そんなに怖い顔しないでくださいっ!」

「なにいってるの!」

「なにって、あたしはラルク様の成長には欠かせない指南役ですよ!」

「お食事のお世話だって成長には欠かせません。野暮はやめて、お行きなさい!」


怖い顔は置いといて、なぜか反抗を始めた。

魔法の特訓の時間はいつも食後のはずだ。

追っ払え!マチルダ。

僕は世界で一番、魔法の訓練が嫌いなのだ。


魔力に恵まれず魔法スキルを一向に習得できない。

やっと覚えた魔法も出来がいいとは言えない。

マチルダ、頑張れ。


「食事中にあなたの出番はないんだから余計な出しゃばりをやめて早く出てお行きなさいっ!!」


マチルダは、ものすごい剣幕でルディを追い返そうとする。

いいぞ。

だがルディも食い下がるようにまだ言い返す。


「あたし毒見ができます! 解毒の魔法もあるので役に立ちます……」

「私の作った料理に毒など入るものですか! 人聞きの悪いことを言わないで!」


解毒ができて役に立つか。上級魔法使いなら出来て当たり前の初歩魔法。

その言い方で傷ついたのはこの場、マチルダだけじゃないと知る由もないだろ。


僕は周囲の期待通りの自分に成長できなかった。

生活に恵まれる一方で周囲と比べられる苦しみにあえいできた。

誰にも理解されず英才教育の荒波だけが押し寄せ、魔法訓練に嫌気が差した。

落ちこぼれの役立たずさ。


それに毒を盛るなどと長年勤めたマチルダに限ってそれはないと思う。

フン。酷い言い草だ。

彼女は子持ちだ、食い扶持を失うことは彼女にとって損失でしかない。


「それに毒見は私が済ませています! 聞き分けないと黒服を呼びますよ!」


確かに毒見は厨房で行う。部屋に運ぶ前に済ませているはずだ。

黒服の存在をちらつかせるとルディの顏が青くなった。

マチルダがめずらしく手こずっている。


黒服で脅しをかけられたルディは、子供のようにぷうっとほっぺを膨らます。

そして駄々をこねるように吐き出した。


「そんなのずるーーいっ! あたしの朝食は硬めのパンと麦の汁だけだった」


はあ!?

仮にもアッシュルーズ家のお抱えだろ?

マチルダも呆れて物も言えないのだろうか言葉が途切れた。

間髪入れずにルディが出しゃばる。


「匂いぐらい嗅いだっていいじゃない、減るもんでもないのにっ!」


召使いのセリフとは思えない。

そんな目的で飛び込んできたとは。まったく、はしたない娘だ。


こんな食い意地の張った奴が傍で見ていると落ち着いて食事ができない。

奴隷の身でそこまで食い下がる根性にはマチルダじゃなくても閉口する。


マチルダは両手を広げて立ちはだかる。食卓には一歩も近づかせない覚悟だ。

ルディは身体を左右に躱しながら料理を覗き見ようとする。

匂いを集めるように鼻がピクピクと反応している。


だけど少女の顔は畑から飛び出すモグラのようにちょっぴり可愛く揺れた。

そして、マチルダはこぶしを握ると小刻みに打ち震えながら再び声を上げる。

 

「あなた、なんて恐れ多いことをいうの! 身分を弁えて部屋を出なさいっ!!」


ビシッと指先を扉の方に向けて、マチルダはそう言い放つ。


「あ……あたしは任務でここへ来たのよ──」

「お黙りなさいっ! あなたも屋敷に仕える身なら、いいかげんラルク坊ちゃまのスケジュールを順守してくださいっ!!」


任務にかこつけているのは、すでに明白。

マチルダは毅然とした態度で切り返した。


若い娘盛りを過ぎた年増の叱責は、それなりに迫力があった。

きっとマチルダは今、鬼のような形相を見せているにちがいない。

そのまま、こっちを向くのは無しだぞ。



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