14 見張り役①
「お優しい坊ちゃまのことですから、お許しになられるのでしょうね」
考えあぐねている僕の耳にマチルダの声がはいる。
それは反対意見か?
ドキッと胸が高鳴る。
むろん、ルディのことだろ。
マチルダの顔をそっと見るが、返す言葉が浮かばない。
考えを読まれたか。
僕の顔にそう書いてあったか。
マチルダは召使い歴が長い。
多くの者から信頼を得るため磨いた観察眼がある。
そのため他者の思考を読み解く能力に優れているという説が。
勝手に僕の脳裏に浮かぶ。
ルディは目を伏せ、ただ沈黙を決めている。
その沈黙を破ったのはマチルダだ。
「ルディさんが坊ちゃまのお部屋にまだいた理由は知りませんが」
「いや待って。それは反省のためです」
こうなったら僕が働くしかない。
ルディは反省のためと訓練のために引き止めた。
一応、納得して置いてほしくて抵抗した。
誤解があるままでは顔を合わせる度、不安が募る。
「食事は早急に済ませて出かけることにした。だから部屋で待機させたんだ」
「ええ。そうなのでしょうね」
気に入らぬ物言いだ。
「他意はない。君が料理を運んで来たとき条件反射で隠れてしまっただけだ。
あんなに叱られた後だからな、年齢も考慮にいれてやってほしい」
マチルダはルディを一瞥した。
話を合わせようとルディも首を縦に振る。
だが待てよ。
マチルダはなぜ、ルディを「許す」のだろう、というのか。
謝罪をするため居残ったことは承知のはずだ。
僕の指示でそうしたなら室内に堂々といて、そのあとのことも、
マチルダに説明するだけで良かったはずだと、別の意図を勘ぐっている。
きっとその点への疑問点がマチルダの表情を曇らせているのだ。
しかし、最初からその予定ではなかった。
僕が交渉の場を間違えてしまったか。
予定通り、食後に訓練へ行き、その場でルディに持ち掛けるべきだった。
成り行きで、秘密の共有とか調子に乗ってしまって。
焦って詰めすぎた、そのツケがこれだ。
「ルディの姿が見えなかったことを怒っているのか?」
マチルダはルディに対して厳しい。
記憶が戻ってからの僕は他者への採点が甘くなっている。
細かいことには目を瞑るつもりでいる。
じれったい気持ちが込み上げる。
素直な気持ちを、不安な胸の内を、ぶつけるしかない。
「いえ私はただ……」
「召使い同士の躾とかには口を挟むつもりはないよ。
ただ僕の成長のために二人がいるのならスケジュールを遂行させてくれ」
そうだ。
僕の成長のために雇われた者たちなのを忘れがちになる。
どうしても、年上のマチルダに許可や同意を求めてしまう。
ビビり過ぎだ、しっかりしろラルク。
「あの、坊ちゃまの行く手をさえぎるつもりはありません」
「ん? でも時間がなくなるから、帰ったあとにしてほしいんだ」
今の僕は強引だけど、早く外へ行きたい。
ルディへの教育は返ってからするようにと伝えた。
それよりマチルダに、
「なにか忘れ物? 支度金はどうなりましたか?」
何をしに引き返して来たのかをさりげなく訊く。
僕は彼女の怒鳴り声を聞いていたのに、スルーしようとしている。
「お部屋の前で大声を出して申し訳ありません。ですが──」
なぜ反省をするのだ。
僕のためなのに。
「気にしないで下さい」
「……坊ちゃま。その言葉使いも、これまで通りになさってください」
いくら召使いでも、年上にタメ口はどうかと直してみたのだが。
なぜ。
「この際ですから、坊ちゃまに申し上げたいことがあります」
「なんですか、改まって」
「私は、旦那様に仕える身です──」
知っているけど。
「ですが──今回の坊ちゃまの追放に関しては、動向を見張るようにと」
「えっ?」




