12 発覚
「はぐはぐ……ごっくん。ああ美味かった!」
あっという間に平らげてみせる。
そして合掌。
ごちそうさまを告げる。
「えっ、ええ! 坊ちゃま?」その驚きは悲鳴を上げんばかりだ。
「な、なにもそんなに慌てて食べなくてもよろしいのに」
僕の爆食いにマチルダが残念そうにいった。
注いでいた紅茶を手前に差し出して。
「食べ物をのどに詰まらせたのでは」と案じて。
ゲホッと微妙にむせ返したのは事実だ。
「いや、いいんだ。外に出られるなら、早く食べて魔法訓練にいく」
「まあ! やる気は何よりです。ですが何事も、
焦らずゆっくり根を詰めずにが肝心ではないでしょうか」
「自分を変える第一歩だ」
本当はべつのやる気だけどな。
「お時間は夕方までですので、
ごゆっくり羽根を伸ばして来られるとよいでしょう」
気遣いの言葉で緊張がほぐれる。
マチルダの目を見て軽くうなずく。
「これからは食事の量が増えそうだ。精のつくものを宜しく頼む」
「ええ。お任せください」
クローゼットの中のルディが心配だ。
きっとしびれを切らせているにちがいない。
だからマチルダの退室を待つよりも、僕が訓練に出るのが早そうだ。
「朝食はこれくらいでいい。僕はルディと街へ出る支度をするよ」
「街にまで行かれるのですか?」
「そうだ。
これまで避けてきた訓練に本気で取り組むのだから、装備も必要だ」
「なるほど。坊ちゃま、お買い物は久しぶりですね」
「うん!」
マチルダは自分のことのように微笑む。
買い物で発散できるほうが喜ばしいみたいだ。
彼女も買い物が好きなのだな。
「知っての通り、僕は魔力が乏しいからな」
「坊ちゃまの長年の悩みの種でしたわね。どうなさるのですか?」
「ポーション類の調達も兼ねて商店街にも行くんだよ。そこで──」
僕のやる気を買ってくれている。
確認事項がひとつある。
「父上は魔法訓練のための軍資金を削ったりしてないか?」
「ええ、ご心配には及びません。坊ちゃまがその気になった時のために、
たっぷり準備をさせるようにと仰せつかっておりますから」
たっぷりと使わせてくれるのは意外だ。
「そ、そうなのか?」
親父が僕の応援を?
なぜだ。
問題児と見なしてこんなところに追放したくせに。
ああ、なるほど。
きっと世間体を気にしてのことだ。
「あら、旦那様は坊ちゃまのことをとてもご心配されておられました」
「え、だって追放されたから見放したんじゃないかって」
マチルダは僕の名を小さく呼んでから、語気を強めた。
「まさか、ご自分は見放されたなんて思っておいでではないですよね?」
「いや。もう我慢の限界なんじゃないかと考えていた。
僕のような問題児はアッシュルーズ家にとって害毒か恥でしかない。
だから遠ざけた今頃は兄さまたちと清々してるのかと…」
「ラルク坊ちゃま……」と漏らし、悲しそうな顔をする。
だからといって僕は今更グダグウダというつもりはない。
マチルダにその旨を伝えて。
「もちろん、マチルダが慰めのために適当なことを並べているなんて
思っていない。
心配しないで。僕もちゃんと認められるために前向きに頑張りたいんだよ」
この気持ちは本心だから伝えておく。
マチルダは安堵の表情を浮かべた。
「今は時間が惜しいから、出かける準備を頼むよ」
「かしこまりました。では膳はお下げ致します……」
むせた僕のために飲み水を残して置くと告げる。
「僕の準備はこれといってないから、支度金だけを持ってきてくれたらいい」
マチルダはしっかりと肯くと部屋を後にした。




