10 ごり押し
意味深に言葉選びをして切り出す。
「どこに出掛けるわけでもない。なら急いで食べる必要はないから」
「……あ、学園をクビになったからですね」
「(まだクビにはなっとらん。停学中だよ)」
彼女の疑問符を無視して、
視線を外して急に独り言をいう。
17年間。
魔法習得が無理ゲーだったのに褒美に期待とか。
そんな悠長に待っていられない。
僕が沈黙したので「余計な事いってしまって」と少し気まずそうにした。
「気にするな」といいまた僕から切り出す。
「食べ残した分をルディに分けてあげてもいいよ?
ほっかほかのパンケーキを」
「えっ!?」
「バター、はちみつたっぷりの。赤の実ジャムも付けちゃおうかな」
思わせぶりに。
「う、嬉しいけど。そんなこと……許されるわけ……ないです」
さすがに驚いたか。
許されないと弁えつつも、ヒクついた小鼻が夢を見ているぞ。
頬張っている自分の姿を想像でもしたか。
「そうかな? マチルダはただの料理人。分量の指示を出すのは僕だ」
「知っていますが!? ラルク様こそ、それはどういう意味ですか?」
召使いの食事の内容くらい、僕の命令で上書きできるということだ。
少し強張らせているかな。
許されないこと?
ここには僕と君の二人しかいないというのに。
先程のマチルダからの叱責がまだ身に染みているようだ。
「ルディの食事量はどうしたら増やしてもらえるの?」
「それは、その……」
言葉をのどに詰まらせたように理由をためらうルディ。
どうして言葉を止めたのかを問う。
「なにか条件でも提示されていたりするのか?」
言いづらそうにするのだから、親父に条件を付けられていると踏む。
ルディはグラスの水にはなかなか口を付けず、「それなら」といって、
「ラルク様が魔法を覚えて成長してくれれば、旦那様に認められて上がります」
と、話してくれた。
やっぱりそうか。
「習得は17年かけても無理だった。ルディは一生、硬めのパンだけになるよ」
僕は無理なモノは無理といい、現実を突きつけた。
「そんなの嫌です!」
「だったら、僕の知りたいことと交換しようよ!」
ルディの眼が、期待感に満ちたように輝く。
これが僕からの交渉だと解ってくれたみたいだ。
「でも、どうやって……マチルダさん手強いですから」
あの火花を散らすような戦いっぷりは見事だった。
食い気が優先するなら、ここはそういう駆け引きでいける。
「ルディ、そんなのナイショに決まってるじゃないか!」
相手に「どういう意味か?」といわせるための会話テクニック。
内緒に持っていくための会話テクなのだ。自分でそう信じるしかない。
少々の強引さも主従関係だからこそ成立する。
僕はテーブルに身を乗り出し、彼女を近くに見据える。
ルディも頬を紅潮させて、声を潜めて。
「な、ナイショ……ですか」と身を机上にせり出し、ルディの瞳も輝きを増す。
「ボクとルディの秘密にするんだよ!」そこで、ひそひそ話。
「……ひみつ、ですか?」
そう、秘密。
「マチルダにバレないようにナイショでやるんだ。ルディの協力があればできる!」
輝く瞳は僕をじっと見続ける。
マチルダの叱責を逆手に取ってみる。
彼女は今後も同様の件でルディを叱ることだ。
禁止や制限をされることでかえって行動や関心を高めてしまう心理現象がある。
だめだといわれたら余計に手を出したくなる。
秘密を共有することで心理的距離が縮まり親密さが増すと聞いたことがある。
小さな秘密がいいのだ。
「どの道、これは僕の食料なのだから」と説得しながらヒソヒソと続ける。
「僕も勉強したんだ。運が上がれば習得だってできると知ったんだ」
「う、運を上げるのですか?」
そうだ、その通りだと、彼女の瞳に強く訴えかけた。
「そしたら、ルディだってもっと早くいい思いができるよ。だから協力してください! お願いします!」
両手を頭上でこすり合わせて、お願いのポーズをして頼んでみた。
ここで一気に畳みかけるんだ。
意外と小うるさいマチルダの姿が見えない今のうちに。
令息の誇りとか今の僕にはない。
「わっ、ラルク様っ! 頭を上げてください!」
人目を気にするように、ルディ困った顔を見せる。
もう一押しだ。
「たのむ! 運を良くしたいんだ! 頼れるのはルディだけです!!」
ごり押しだ。ごり押すんだ。
引き続き、お願いのポーズでごり押しちゃえ、ラルク!




