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謝罪と覚悟

翌朝。


彼女は先にシャワーを浴びている。


彼はベッドに座ったまま、ぼんやりしている。


昨夜の会話が、ゆっくり戻ってくる。


「俺、前に一回だけ…」


あの瞬間の空気。


彼女の呼吸が、ほんの少し浅くなったこと。


あの静かな間。


今になって、鮮明に思い出す。



安心していたのは、自分だけだった。


甘さに酔っていたんだと思う。


素直でいることが誠実さだと、

どこかで思っていた。


でも違う。


誠実さには、

相手の心を想像する力がいる。


彼は顔を覆う。


「タイミング最悪だろ…」


小さく呟く。


逃げたくはならない。


でも、自分の未熟さは痛いほど分かる。



前の恋は、突然終わった。


だから“共有”できなかった。


不安も、迷いも、怖さも。


全部ひとりで抱えた。


だから今、


安心できた瞬間に

全部出してしまった。


順番も、配慮もなく。



シャワーの音が止まる。


胸の奥が、少しだけ強く鳴る。


彼は深呼吸する。


逃げない。


ごまかさない。


でも、大げさに謝るのも違う。



彼女が戻ってくる。


いつも通りの顔。


それが、かえって胸に刺さる。


彼は立ち上がる。


「昨日のこと、少しだけ。」


彼女が視線を向ける。


彼は続ける。


「安心してたんです。」


言い訳に聞こえないよう、ゆっくり。


「だから、考えずに話しました。」


「でも……あなたの立場、考えてなかった。」



彼女は驚かない。


静かに聞いている。


責める気配もない。


その余裕が、彼をさらに誠実にする。


「比べてないって言ったの、本当です。」


「でも、言う順番は違った。」


はじめて、


“タイミング”という感覚を

自分の言葉にする。



彼女は少し微笑む。


「気づいてくれたなら、それで十分です。」


その一言で、彼は分かる。


彼女は大人だ。


でも、甘えきっていい存在ではない。




彼は初めて思う。


この人を傷つけたくない、ではなく。


この人を

大事に扱いたい。


守るでもなく、縛るでもなく、

大切にしたい。


彼の心の中で、


逃げない選択をする覚悟が

少しずつ形になっていった。

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