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隠す必要なんてない


昼休み。


また軽い冗談が飛ぶ。


「最近ほんと一緒にいますよね。」


悪意はない。

ただの雑談。


彼は笑う。

彼女も笑う。


話題はそのまま流れる。


何も起こらない。


でも、その“何も起こらなさ”が

二人に小さな問いを残す。



帰り道。


並んで歩く。


沈黙のあと、彼が口を開く。


「俺たちって、どうします?」


曖昧な聞き方。

彼らしい。


彼女はすぐ理解する。


「どう、って?」


少しだけ意地悪に聞き返す。


彼は小さく息を吐く。


「隠します?

 ちゃんと言います?」


公にするのは、まだ少し怖い。


でも、隠すのも違う気がする。


彼女は立ち止まる。


彼の目を見る。


「私は、隠したくないです。」


強い声ではない。


静かな確信。


「でも、わざわざ言いふらしたくもない。」


彼は頷く。


同じだ、と思う。


「普通でいたいですね。」


「特別扱いもされなくていいし、

 隠れてる感じも嫌です。」


彼女は微笑む。


「じゃあ、普通にしましょう。」


「聞かれたら否定しない。」


「でも、自分たちからは言わない。」


ルールはそれだけ。




翌日。


また視線を感じる。


でも彼は、半歩引かない。


自然に隣に立つ。

彼女の歩幅に合わせる。


見せつけるわけでもない。


ただ、


一緒にいる。




その夜。


彼は思う。


昔の自分なら、

曖昧にして距離を取っていた。


でも今は違う。


曖昧さに逃げないでいられる。


それは彼女のおかげでもある。


でも同時に、

自分で選んだ結果でもある。


愛は、刺激ではない。


隠れるものでもない。


静かに、続けるものだ。


彼女へ就寝のメッセージを送り、

自分も布団に入る。


明日の不安が顔を覗かせても、

彼女に会いたい気持ちが消えることはない。


こんなにも落ち着いている。


逃げない選択をしてきたこと。


それだけで、

胸の中に過去とは違う自分の輪郭ができつつあった。

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