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いつもと違う横顔


書店を出たとき、

紙袋の中にはそれぞれ一冊ずつ本が入っていた。


選ぶ時間は思っていたより自然で、

隣にいることも、いつの間にか当たり前のようだった。


「近くに公園、ありますよ。」


彼女が言う。


彼は頷く。


歩き出す。



昼下がりの公園は、穏やかだった。


ベンチに並んで座る。


触れない距離。

でも、さっきより近い。


彼は気づいていた。


今日の彼女が、仕事のときとは少し違うことに。


柔らかい色の服。

風に揺れる髪。

光の中で笑う横顔。


あまりにも自然で。


あまりにも、綺麗で。


視線を外すのに、一瞬遅れる。


「どうしました?」


彼女が気づく。


「いえ……」


誤魔化そうとして、やめる。


今日は、逃げない。


「いつもと雰囲気が違うなって。」


素直に言うと、胸が跳ねる。


彼女は少しだけ首を傾げる。


「そうですか?」


「はい。」


言葉が続かない。


でも、視線が離れない。


思っているより、ずっと。


彼女が小さく笑う。


その笑顔を見た瞬間、

胸の奥で何かが溶ける。


可愛い。


思った瞬間には、もう口に出ていた。


「……可愛いですね。」


言ってから、固まる。


自分で言ったのに、信じられない顔。


彼女の時間も、一瞬止まる。


風の音だけが聞こえる。


「……急ですね。」


そう言いながら、耳が赤い。


でも、嫌そうではない。


むしろ、少し困っている。


その様子がまた、彼の鼓動を速くする。


「すみません。」


「どうして謝るんですか。」


同じやり取り。


でも今度は、彼女の声が少しだけ甘い。


「仕事のときも素敵ですけど」


彼は続ける。


「今日は……なんというか」


言葉を探す。


「柔らかい」


やっと出た言葉。


彼女は視線を落とし、

小さく息を吐く。


「今日は、少しだけ気を抜いているからかもしれません。」


「そのほうが、好きです。」


また言ってしまう。


彼は自分で自分に驚く。


止められない。


嬉しくて。

隣にいられて。

ちゃんとここにいることが、まだ信じられなくて。


彼女はそっと彼を見る。


真っ直ぐで、少し必死で、

でも逃げない目。


その眼差しが、いつもより甘い。


「……今日のあなたも、違います。」


彼女が言う。


今度は彼が止まる。


「どこが」


「ちゃんと見てくれるところ。」


静かな声。


「かっこいいです。」


小さく、でもはっきり。


今度は彼が固まる番だった。


かっこいい。


その言葉が、胸の奥に落ちる。


こんなふうに言われたのは、いつぶりだろう。


「……本気ですか。」


「本気です。」


彼女は笑う。


今度は、隠さない笑顔。


その笑顔を見つめる彼の目は、

もう隠しきれていない。


優しくて、甘い。


「そんな顔で見ないでください。」


彼女が小さく抗議する。


「どんな顔ですか。」


「……すごく、好きみたいな顔。」


言ってから、彼女は自分で恥ずかしくなる。


でももう遅い。


彼は少しだけ目を伏せ、

それからまた彼女を見る。


逃げない。


「たぶん、そうです。」


はっきりとは言わない。


でも、十分伝わる。




ベンチの上。


指先が、少しだけ近づく。


触れない。


でも、もう怖くない。


公園の空気はやわらかくて、

時間はゆっくり流れている。


仕事の顔でも、

強いふりでもない。


ただの二人。


ただ、隣にいる。


それだけなのに――


胸がいっぱいになる午後だった。


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