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休みの日の朝ー彼視点

目が覚めた瞬間、

最初に浮かんだのは今日の約束だった。


数秒、天井を見つめる。


それからゆっくりと、

胸の奥に実感が降りてくる。


今日、会える。


逃げたいとは思わなかった。


代わりにあるのは、

静かな緊張と――

少しだけ、浮ついた気持ち。


嬉しい。


その感情を、

まだうまく扱えないだけだ。


布団の中で、小さく息を吐く。


以前なら、


体調を理由に延期する。

仕事を思い出して時間を短くする。

さりげなく温度を下げる。


そんな逃げ道を探していた。


でも今日は違う。


思いついても、選ばない。


それだけで心拍が少し上がる。


怖さがなくなったわけじゃない。


ただ――

会いたい気持ちのほうが、

少しだけ強い。



洗面台の前に立つ。


鏡の中の自分は、

特別頼もしくもない。


彼女の隣に立つには、

まだ足りない気がする。


それでも今日は、


「それでもいいか」


と、素直に思えた。


完璧じゃなくていい。

不安があってもいい。


彼女が笑ってくれるなら、

その隣に立っていたい。


それだけだ。



服を選ぶ手が止まる。


かっこよく見られたい。


その気持ちを、

今日は否定しない。


背伸びはしない。

でも、少しだけ整える。


シャツの皺を伸ばし、

髪をもう一度直す。


こんなふうに

誰かの目を意識するのは、

いつ以来だろう。


胸の奥が、少しだけ温かい。



玄関で靴を履く。


一瞬だけ未来の不安が顔を出す。


うまく話せなかったら。

また距離を取ってしまったら。


それでも、ドアノブに手をかける。


今日は逃げない。


それ以上に――

会いたい。


その気持ちが、

足を前に出させる。




待ち合わせ場所。


少し早く着いたことに気づいて、

苦笑する。


落ち着かないのは、

緊張だけじゃない。


早く会いたかった。


スマホを見るふりをしながら、

視線は何度も人の流れを追う。


胸が静かに高鳴っている。


人混みの向こうに、

見慣れた姿が現れる。


彼女も彼に気づく。


一瞬。


時間がゆるむ。


彼女の足が、ほんのわずかに止まる。


その小さな間に気づいた瞬間、

彼の胸のざわつきがやわらぐ。


――同じだ。


同じだけ、緊張してる。


同じだけ、大事にしている。


目が合う。


逸らさない。


彼女も逸らさない。


それだけで、

ここまでの全部が報われる。


彼は、ほんの少しだけ笑った。


以前より自然な笑み。


「おはよう。」


声は、思ったより柔らかい。


彼女が微笑む。


「おはよう。」


その返事を聞いた瞬間、

胸の奥がふっとほどける。


ああ、来てよかった。


それが、最初に浮かんだ本音だった。


告白でもない。

触れ合いもない。


それでも――


逃げなかった二人が、

同じ場所に立っている。


その事実が、

今日いちばん温かかった。


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