第17話
「おはようございます、リュシアン先生。」
「ええ、おはようございます、セレナさん。」
応接室で待っていたのはリュシアン先生。
マナーの講師だ。
一応、マナーは一通りマスターしてるんだけどねぇ。
私の一言で、もう一度習うことになったのだ。
・・・マナーがよろしくないわけじゃないからね?
「ねえ、お父様、なんでこの作法が必要なのですか?」
「おや、そこに目をつけるのか。それなら、詳しい者を講師につけよう。」
と、まあ、こんな感じで。
その詳しい者っていうのがリュシアン先生だ。
元王宮礼法官補佐らしい。
「それでは、今日はお茶会をしましょうか。」
「はい、よろしくお願いします。」
私たちは用意が整っている茶室へと向かった。
私が紅茶の入ったカップを差し出すと、リュシアン先生はカップを受け取り、微笑む。
「完璧ですね。それでは、もう一度。」
「もう一度?」
完璧と言われたのに、なんでもう一回?
私は心の中で首を傾げながら、カップやポットを一度片付ける。
「そうです。次は、相手がセレナさんのことを嫌っていると思ってください。」
・・・なんでだろ?
疑問を残しながらも、私は先ほどと全く同じ動きを繰り返した。
だって、いっつもリュシアン先生はこの後ちゃんと説明してくれるからね!
「違いは?」
「・・・何も、変えていません。」
「ええ。だから、合格。」
?
私は再び首を傾げた。
だって、誰に対しても、同じようにしなきゃいけないって言われてきたんだもん。
そんな当たり前のことをなんで確認したんだろ?
「セレナさん、マナーとは、礼儀作法とは、敵意を隠す技術です。だから、相手によって対応を変えてはなりません。それは分かりますね?」
「はい。」
私はうなずきながらそう答えた。
これはリュシアン先生がよく言っている言葉だから。
「では、問題です。対応を変えない相手は敵意を持っているか否か。あなたは判断できますか?」
「・・・できない、です。」
私の答えを聞いて、リュシアン先生は笑みを深めながら続ける。
「そうですね。それでいいのです。」
「なぜですか?敵か否かを判断できなければ、自分に不利になる状況が生まれる可能性があります。」
「そうですね。それでは、もう1つ問題です。立場が低い者は、敵に嫌われます。それでは、立場が高い者は?」
「敵に、好かれます。」
「その通りです。なぜですか?」
・・・なんでなんだろ。
低ければ嫌われて、高ければ好かれる・・・。
私は少しの間悩んで、答えを口にした。
「利用価値があるから、ですか。」
「そうです。だから、セレナさん。侯爵令嬢であるあなたは、直接敵意を向けられることは少ないでしょう。だから・・・」
リュシアン先生はそこで言葉を区切り、1拍置く。
「敵か、味方か。それを見るのではなく、『相手が何を得るのか』それを見るのです。」
部屋に沈黙が下りる。
リュシアン先生は紅茶を一口含み、ため息をこぼした。
・・・つまり、今の自分に話しかけてどんな利益があるかを見ろってことかな?
「少し難しかったでしょうか。」
私が考え込んでいるのをみたリュシアン先生はその様子を見て、目を細めた。
「それでは、最後にこれだけ。」
リュシアン先生は立ち上がり、私をまっすぐに見据えて口を開いた。
「マナーは、心を読む技術ではありません。『行動を見る技術』です。・・・それでは、本日はここまでです。」
「あ、ありがとうございました!」
今日も、色々教えてもらえたなぁ!
私は今日教わったことを心に刻み、お母様の訓練へと向かうのだった。
11歳に理解できるわけないこと教わってる・・・。




