第14話
「で、なんで俺なんだよ。」
チョップ事件の後、男の子に挨拶をさせてから、アガットさんは「2人で話してくださいね。」と言い残し、去っていった。
男の子の名前はカイ。
現在9歳だ。
「知らないわ。だって、院長さんが案内役につけるって言ったんだから。そもそも、私は断ろうとしたんだもの!」
「・・・書庫内で迷子になってたのにか?」
カイにあきれたような視線を向けられる。
むー。
私、君の1歳下なだけなんだけどなぁ。
中身は大人なんだけどなぁぁぁ?
そうやって張り合っている時点で同類だということに気付かないセレナであった。
「ねぇ、カイは孤児院のこと嫌いなの?」
私は、不意に思いついた質問を口にした。
カイが孤児院の院長さんに反発しているのが、さっきのやり取りでよくわかったからだ。
「・・・孤児院は嫌いじゃねぇよ。ただ、ルールで縛り付けて自由を奪ってくる奴らが嫌いなだけ。」
「ふーん。じゃあ、カイはルールが嫌いなの?」
「そう、かもしれないな。」
「じゃあさ、ルールがなかったらどうなると思う?私はね、ルール――規則とか、法律がなくなったら、人を殺しても、何かを盗んでも、何をしてもいい世の中になっちゃう。だからね、子供も、大人も、お年寄りもみーんな、すっごく生きにくいと思うんだ。」
カイは少し考えたあとに、わずかに頷いた。
私はそれを見てから、言葉を続ける。
「善人が行きにくい世の中にならないように、ルールはあると思ってる。それに何より・・・。」
私はそこで言葉を切り、カイの目の前に立ち、笑いながら続きを言った。
「ルールの中で、自分なりに目一杯自由に生きる。それが、誰にも迷惑をかけずに、楽しく生きられると思うんだ!」
自信満々に、そう言い切った次の瞬間、背中に衝撃が走った。
「わぁ!」
思いもしなかった衝撃にバランスを崩しかけた、んだけど、どうにか踏みとどまった。
振り向くと、特徴的な赤い髪にが目に入る。
セレナの後ろでは、カイがとっさに両手を出したが、不要だったため、どこかきまりが悪そうにその手をおろしていた。
「どうしたの、エリナ?」
「ぐすっ、転んじゃったの・・・。おねーちゃん、痛いよぉ。」
泣き続けるエリナをなだめながら、膝に目を向けると、軽く血が滲んでいた。
手当しなきゃだね。
「カイ、救急箱を借りてきてくれない?」
振り向き、カイを見上げると、どこか一点をぼんやりと見つめていた。
彼の視線の先は――エリナだった。
まあ、気になるよねぇ。
誰だよこの天使ってなるよねぇ。
でも、私はここから動けないし、カイに動いてもらわないと。
私は立ち上がり、カイの肩を掴んで揺すった。
「ちょっと、カイ!聞こえてる?」
その声を聞いて、ようやく気づいたようにこちらに視線を向ける。
「ほら、早く救急箱持ってきて!」
「あ、あぁ。」
まだどこかぼんやりしたままだったけれど、カイは建物の中へと駆け込んでいった。
天使が怪我しちゃいました・・・。




