第13話
男の子に案内してもらい、ようやく図書館から出られた。
その場でお礼を言うと、
「・・・別に、俺も出るとこだったから。」
ムスッとした表情で男の子は女性たちが話している方とは逆へと足早に去っていった。
・・・ツンデレかなぁ?
彼を見送っていると、不意に、後ろから声をかけられる。
「もう孤児院の方へ向かわれますか?」
さっき案内してくれた女性だ。
私は頷き、「これを借りたいんだけど。」と言って抱えていた本を渡した。
「承知しました。」
彼女は本の題名を懐から取り出した紙にメモして本を抱える。
「それでは、こちらへどうぞ。」
私達は男の子が帰っていったほう――来た道を歩き始めた。
数分歩くと、遠目に赤い屋根の建物が見えてきた。
そこは白い塀に囲まれ、中から子供特有の甲高い声が響く。
更に近づくと、「おねーちゃん!」という聞き覚えのある声が聞こえた。
門が開かれると同時に、赤い髪の少女が胸に飛び込んできた。
「もー、遅いよぉ。」
そう言いながら頬をふくらませるエリナ。
私は脳内で身悶えながら、「ごめんね。」と謝る。
そして、エリナを抱き上げた。
それだけでご機嫌は回復だ。
プクッと膨れていた頬はしぼみ、歓声を上げる。
私はエリナを抱き上げたまま門をくぐった。
中に入ると、孤児院の広さがよくわかる。
2階建の赤い屋根の建物。
そして何より、青々とした芝生が生えた庭ではたくさんの子どもたちが遊んでいた。
その内の1つの集団がエリナのことをじっと見つめている。
「エリナ、お友達が待ってるよ。遊びに行っておいで。」
「うん!」
私がエリナを下ろすと同時に、駆け出していく。
別れるときとの反応の違いに若干寂しさを感じながら見送ったのだった。
私は庭がよく見える場所に用意されていたテーブルに案内された。
そのテーブルについていたのは、おっとりとした50代くらいの女性だ。
他の女性と同じく、修道服を身にまとっている。
「お初にお目にかかります、セレナ様。私はアガットと申します。」
「ご丁寧にありがとうございます。アルヴェイン公爵が娘、セレナ・アルヴェインです。」
挨拶を交わし、席につく。
そして、軽く話をしていると、彼女が「そういえば、」と何かを思い出したように手をぽんと叩いた。
「これからも書庫をご利用になるのなら、そこに詳しいものを案内役におつけしましょう!」
「いえ、そんな。申し訳ないですよ。」
私が困ったように眉を寄せても、アガットさんの言葉は続く。
「でも、必要な本を探すのは大変でしょう?セレナ様なら、ぜひ案内したいというのではないかしら。・・・ちょっとやんちゃな子なんですけどねぇ。」
そう言いながら、院長さんは少し遠くに控えている女性に目配せすると、彼女は心得た、というふうに頷き、どこかへ歩いて言ってしまった。
いいって言ってるんだけどなぁ。
迷惑かけちゃうかもだし、相手の子も時間が合わなかったら可愛そうだよね。
やっぱり、ちゃんと断ろ!
・・・それにしても、この院長さん、子供大好きだよねぇ。
さっきから子供の話しか出てこないや。
そのまま会話を続けて数分。
あの女性が帰ってきた。
彼女が連れてきたのは、見覚えのある――と、いうか、さっきあったばかりの、あの男の子だ。
「なんで俺が貴族の令嬢の相手なんかしなきゃならねぇんだよ。」
ムスッとした顔のまま、アガットさんを睨む男の子。
アガットさんはその言葉をさらっと受け流し、「挨拶なさいな。」と言った。
なんか、話と違うんですけど?
私にどうしろと?
そんなことを思いながら、笑顔で立ち上がる。
「セレナ・アルヴェインです。よろしくね。」
私の声にビクリと肩を震わせた男の子はちらりとこちらに視線をよこす。
「おまえ、貴族のご令嬢だったのかよ!」
挨拶もせずにそう口走った男の子は院長さんのチョップを食らって涙目になったのだった。
・・・てか、この世界にチョップなんてあったんだねぇ。
乙女ゲームの世界にチョップ!!




