フレンド申請
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ポケットに入れていたスマホが震えたような気がして、俺はスマホを取り出した。
そこにはロボワのアプリから見慣れない通知が届いていた。
[申請が届いています]
「ん? 何だっけな、これ……」
首を傾げる俺の横からゼンがぴょこっと顔を出す。
スマホの画面が見たいのか、と画面を傾けるとゼンは「あ、これフレンド申請っスよ」と言った。
「そうなのか」
俺はロボワの管理アプリを開く。
「先輩ロボワのフレンド何人いるんスか?」
「お前も入れて3人。今日集まった奴らだけだよ」
「じゃあその人が4人目っスか?」
「どうだろうな」
俺の名前を覚えてそうなやつといえば、オジョウとザンク・ロウくらいだが……、まあ俺と対戦した時にボイスオフでも俺のことを覚えてるやつがいないとは限らない、か……?
首を傾げながら開いたフレンド申請メッセージの送り主はタテだった。
なんでだ……? と思う部分はあるが、これはありがたい申請だ。
[承諾]のボタンを押すと[タテとフレンドになりました]というメッセージウインドウが出る。
「あ、OKなんスね。知ってる人だったっスか?」
「ああ。前に一度戦った相手だ」
「あー。オレも前に試合でマッチングした人とめっちゃ話があって即フレンドになった事あるっス!」
「お前もボイスオン派か……」
「先輩はオフなんスか?」
「基本的にはな」
俺は早速フレンドリストを開いた。
タテさんは今……レベル50。現在の上限レベルか。
「わ、レベル高い人なんスねっ」
まあゴールドがレベル40台だとすれば、そこから上はレベル50が当たり前なんだろう。
この先もレベルは毎月10ずつ上限解放されていくはずだからな。
「この人は、めちゃくちゃ硬いタンカーだ」
「そうなんスか!? そんな強い人からフレンド申請が来るなんて、先輩すごいっス!」
いや、そこなんだよな。なんでタテさんは俺にフレンド申請を……。
と思っている間に、メッセージ通知がきた。
タテさんだ。
『ちょっともうっ、こないだはよくも引っ掛けてくれたわねぇ? プラズマキャノンの有効時間って15秒固定なんじゃないのっっ!』
「……なんか怒ってるっスね」
「そうだな」
続いて『プンプン』というスタンプが届く。
「課金スタンプっスね」
「そうなのか」
「先輩なんかしたんスか」
「まあちょっと……ブラフをかけた……」
「わぁ……。それでわざわざ文句を言うために、この人フレンド申請してきたんスか?」
「そう……みたいだな」
「先輩、返事するんスか?」
「う。それは……。まあ、謝るしかないな……」
「ひゃー。先輩律儀っスねー。オレだったらこんなのスルーしちゃうっスよ」
俺もスルーしたいのは山々だが、この人さえいれば、お前達をすぐにでもあの高速回転寿司ステージに連れてってやれるんだよ。
俺はしばし考えてからスマホを引き寄せる。
ゼンは慌てて車窓に視線を投げた。
気を遣ってくれたんだな。まあ、謝罪文なんて、人に見られたくはないもんな。
『あの時は悪かった。ブラフでもかけないと勝てそうになかったんだ。気に障ったなら謝罪する』
俺は正直な気持ちをそのまま文字にして送った。
どうだろうな。これでダメなら諦めるしかないわけだが……。
悩むほどの間も無く、返事はすぐに返ってきた。
『あらぁ、文句が言いたかっただけなのに、謝ってくれちゃうなんてっ。何だかこっちこそ大人気なくてごめんなさいねぇ』
どうやら、会話の余地はありそうだな。
続けて『ごめんねっ』というスタンプが届く。
「そういやお前は今ロボワのフレンドって何人くらいいるんだ?」
「んーと……」
ゼンは自分のスマホを見て、「17人っスね」と答えた。
「……多いな」
フレンドリストも上限があったよな……?
俺はもう一度フレンドリストの画面を開く。
『4/100』そうか。友達は100人作っていいのか……。
俺にはきっと、この半分も埋められる日は来ないだろうけどな。
俺は、タテさんを『空の迷宮ステージ』に誘ってみた。
移動速度2%アップの迷宮ステッカーの話をしたら、タテさんは前のめり気味に誘いを受けてくれた。
思わず口端が上がる。
まあ、マスクで隠れてるし、ちょっとくらいニヤケたっていいよな。
だって、俺の知る限り最強の盾と、一緒に戦う約束ができたんだからな。
「お前、帰ったら時間あるか?」
「あるっスけど……先輩もう帰っちゃうんスか?」
「まだどっか寄る気だったのか?」
「せっかく先輩と遊びに出たんスから、これからゲーセンとかどうっスか!」
「誘いはありがたいが、俺はもう外出は十分だ。それより、帰ったら俺と『空の迷宮ステージ』の練習をしないか」
「えっ」
驚いたゼンが、「あ」という顔になる。
「もしかして、さっきの人っスか!?」
「ああ」
俺は頷いて、タテさんがノリノリで『空の迷宮ステージ』に行くと答えているメッセージ画面をゼンに見せた。
行くのは、学園祭の終わった翌日月曜日。21時からだ。
タテさんは木曜と日曜が休みらしいので、木曜ならリボルバーとも一緒に行けそうだな。
「21時までに帰れそうか?」
俺が聞くと、ゼンは「絶対帰るっス!」と握り拳を作って答えた。
***
そんな土日を過ごして、迎えた月曜の朝。
「おはようございます、長尾さん」
ピアリスの声が、耳元でふわりと柔らかく聞こえる。
「ん……」
睡眠計測をするようになってから、ピアリスの端末を枕元に置いてるせいで、起床アラームの声かけがやたらと近い。
出会った頃はもっとずっと無機質な話し方をしていたはずのピアリスは、ここ数年でみるみる人間らしい感情の込められた声で喋るようになっていた。
ピアリスに声をかけられた側の耳に、ぞわりと鳥肌が立つのを感じて、俺は胸中でため息をつきながら起き上がる。
「おはよう、今日もありがとうな」
俺が、自分の人恋しさを紛らわそうと、こうやってピアリスにリマインダーやら食事やら付き合わせてるくせにな。
いざピアリスが人に近づいてきたら嫌悪感を抱くなんて、そんなの自分勝手にも程がある。
こんな感情、ピアリスには絶対悟られたくない。
あいつは毎日、良かれと思って俺に優しく接してるんだからな。
とりあえず、睡眠計測はもうこれで1週間だ。
問題がなければ、終わりにしてもらってもいいだろう。
1週間といえば……。




