学園祭(3/3)
「うわ……」
「これは……」
「オレここで死ぬっス……」
地下迷宮が『殲滅力』を問うステージだとしたら、こっちは『耐久力』が問われるステージだな。
もちろん『回避力』でも多少は何とかなるだろうが、それでも回避不可に近い攻撃が何度か入る時点で、ある程度の耐久力は必要だよな。
あのザンク・ロウはこれを三度もクリアしたってんだから、すごいよな……。
「こん中で、盾育ててる奴いるか?」
俺の質問に手を挙げたのは、俺とリボルバーだけだった。
「我の盾ではこの一斉掃射は1度防げるかどうかだな」
「俺のもそんなもんだ」
盾、なぁ……。
脳裏に浮かんだのは昨日のオネエだった。
名前は覚えてるし、ユーザー名で検索すればフレンド申請を送ることはできるだろう。
ただし、メッセージのやり取りができるのは、フレンド申請が承諾された場合だけだ。
いや、声かけるまでのハードルが高すぎんだろ。
そんで運よく声がかけられたとして、一緒に来てくれる可能性はどれほどあるんだ?
考えているうちに、動画が終了したのか3人が顔を上げた。
アサギが顎に指を当てて言う。
「確かに……まだ今の僕たちでは難しそうですね」
「移動速度は欲しいが……」
「うぅ~。見てるだけで目が回ったっス~」
ゼンの反応に俺は苦笑する。
「高速回転寿司ステージって呼ばれるくらいだからな」
「高速回転寿司……言い得て妙ですね」
「マジで高速回転寿司だったっス!」
ゼンはケラケラ笑っている。
「俺がもうちょい盾育てとくから、行けそうになったら皆で行こう」
「はい」
「ういっス」
「我も盾はもう少し育てておこう」
「来月のPvPまでにステッカーが取れるといいよな」
言いながら俺はスマホで盾の強化素材を確認した。
強化素材と言えば、ゼンは足りてるんだろうか?
「あ、ゼンが入ってる間は、ゼンの行きたいとこ言ってくれればどこでも付き合うからな」
俺の言葉に、ゼンのいつもぱっちり見開かれた瞳がじとりと半眼になる。
「やっぱりそうなんスね……?」
ん?
「なんか最近オレ向きのステージばっかだなーって思ってたんスよ!」
んん?
「オレに遠慮しなくていいっスから、先輩のプレイ時間は先輩のために使ってくださいっスよ!」
なんだ、そんなことか。
俺はゆっくりと、言い聞かせるように伝える。
「遠慮してるのはお前の方だろ。俺達は日中もプレイできるんだから、お前より自由が効くんだよ。もっと俺達を頼ればいいじゃないか」
ゼンは、戸惑うように瞳を揺らした。
「そうですよゼンさん。僕はゼンさんの助けになれるなら、嬉しいです」
アサギにも言われて、ゼンが小さく俯く。
「ぅ……でも、やっぱ悪いっスよ……」
「俺が自分で、大事な後輩に時間をかけたいと思ってやってる事だ。それをお前が悪いなんて思う必要はないだろ。お節介だなって迷惑がるくらいでいいんだよ」
俺の言葉にアサギがクスクス笑いながら突っ込む。
「迷惑がられるようじゃ困りますよ」
「大事な後輩……。それって、大事な友達ってことっスか?」
ゼンが、なにやら期待のこもった瞳で俺を見上げる。
「ぇ? お、おう」
俺はとりあえず頷いてみた。
「それって、親友ってことっスか!?」
「ぇ……? お……おう……?」
そういう……もんか??
「親友っ! オレに親友ができたっス!!」
やったーーーっと立ち上がって、ぴょんぴょん跳ねるゼンを、アサギが慌てて止める。
「ちょ、ちょっと待ってくださいゼンさんっ、クマさんのお返事全部後ろにハテナがついてましたよっ!? そんな強引に押し切ったら可哀想じゃないですかっ」
ん? なんだ? 可哀想ってのは俺か?
「いやまあ……。まあ、大丈夫だ。アサギもありがとうな」
俺はそこまで言って、何だかおかしくなって笑った。
なんでわざわざ、親友ができたって喜んでるゼンを止めてんだよ。
「大体、なんでそんな嬉しそうなんだ。ゼンなら親友だっていっぱいいるんじゃないか?」
「それが、いないんスよ! 全然っ!」
そんな力強く主張せんでも……。
「そうなのか?」
「意外ですね」
俺だけじゃなく、アサギも不思議そうだ。
「いやオレ知り合いとか友達はいっぱいいるんスけど、皆にとって、一番の友達ってオレじゃないんスよね……」
ゼンは困った顔で笑った。
ゼンは誰にでもニコニコ明るいし、俺と違って親友もいっぱいいるんだろう、なんて勝手に思い込んでいたが……。
もし今までゼンの近くにいた奴らが皆、俺みたいに思ってたんだとしたら、そりゃゼンに親友がいないのも当然だ。
「なんだ、そうだったのか。勝手に決めつけて悪かったな。じゃあ、これからは先輩としてだけじゃなく親友としても、よろしく頼むな」
俺が差し出した手に、ゼンはぴょんと飛びついて両手で握り返す。
「こちらこそ、よろしくお願いしますっス!」
「そこで、撫でる」
なぜかリボルバーから指示が出たので、俺は開いた方の手でゼンの頭を撫でてみる。
ゼンは「へへへ」と笑って嬉しそうに撫でられているが、これは親友とは違うんじゃないか? 飼い主と犬の間違いじゃないか?
「あっ、僕もゼンさんの親友になりますっ!」
アサギが慌てて輪に入ろうとするが、リボルバーに「1人いれば十分だ」と首根っこを掴まれている。
いや、親友は何人いたって良いだろ?
もしかしてアサギが時々ポンコツなのは、お前の教育のせいなんじゃないのかリボルバー?
「俺はいつまで撫でればいいんだ?」
尋ねれば、リボルバーが「その辺でいいだろう」と当然のように返した。
何なんだよお前達は。
……あんまり久しぶりで、忘れてたよ。
親しい友達がいるっていうのは、いいな。
くすぐったさに苦笑すると、不意に吹きつけた秋風が俺のキャップを飛ばした。
涼しい風が顔に当たる。
あー……、飛ばされちまったか。
帽子の行方を追った視線を戻して立ちあがった俺を、全員がポカンとした顔で見上げている。
「イケメン!!!!!!」
ゼンが叫んだ。
「え……。ええ……??」
アサギも動揺している。
どうやら、今ので顔を見られたらしい。
食事でマスクも外してたからな。
俺は、動揺している2人の方は見ないようにして、ひとまずキャップを拾ってくる。
キャップをしっかり、深く被り直して、俺は元の場所に座った。
……まだ2人から強烈な視線を感じるな……。
リボルバーはすでに興味を失ったのか、たこ焼きを食べ始めているが、……いやそれ3パック目だよな? 思ったより食うな。
「えっ、待ってくださいスよ? 先輩……、え……? なんで……そんなにイイ顔してて、わざわざ顔隠してるんスか?」
「まさか……。クマさんが女性が苦手なのって、過去にモテ過ぎて……って事なんですか……?」
尋ねるアサギの声は震えている。
「あー……いや、何つーか……な……」
なんて言えばいいんだろうな。
まあ……。
思い返せば嫌な事ばかりが浮かんで、俺は答えるのを諦めた。
「否定しないんですね!?」
アサギがさらに衝撃を受けている。
「えっ、つーか先輩って女の人苦手なんスか!?」
「ああ。ちょっとな……。触ると蕁麻疹が出る」
「そんなに!? 全然ちょっとじゃないっスよ!! オレ全く気づかなかったっス! リボルバーの姉御とも仲良さそうに見えたっスよ!」
おいゼン、余計なことを言うな。
「我は、性別などという些細なものを越えたところに在るからな」
おいアサギ、リボルバーが人間辞めてるぞ!?
アサギはガクリとその場に手をついた。
「僕でも、顔だけなら……勝てるかと思ってたのに……」
ゼンが「顔だけでいいんスか?」と首を傾げる。
俺は「アサギの方が俺より頭いいはずなんだけどな……」と呟いた。




