学園祭(2/3)
「アサギくーん、そんな走るとこぼれるっスよー」
後ろからゼンがトトトと早足で追いかけてくる。
……いや、だから、俺と2人きりにしたくないなら置いて行くなよ。
まあ、アサギが行った後でゼンが追いかけてったからなぁ……。
人混みに入りたくない2人が留守番になったのは必然ではあったが。
「そんな慌てんでも、お前が心配するような会話は一切ないぞー」
俺はせめてもの気持ちで、早めに声をかけてやる。
そもそも、ここまでもずっと、俺達4人は基本ロボワの話しかしてないからな。
俺の言葉に、アサギが一瞬ホッとしたような顔をして、それから青ざめる。
視線を辿れば、リボルバーがアサギをギロリと睨んでいた。
俺はリボルバーに思わず声をかける。
「お前も苦労するな。アサギは大学でもずっとこうなのか?」
話によれば、2人は同じ大学に通っているらしい。
つまり今日は、リボルバーの大学の学園祭でもあったわけだ。
それでリボルバーもここ最近はログイン時間が短めだったんだな。
「大学どころか、こいつは高校の頃からずっとこうだ。いくら言っても全く治らん」
「へえ、お前ら付き合い長いんだな」
「まあそうだな。こいつがオムツの頃から見知ってはいる」
「ちょっ、夏……っ、リボルバーっ」
「幼馴染ってやつか?」
「家が近かっただけだな」
そこへゼンが辿り着く。
「先輩これ買ってきたっス!」
「おう、買い物ありがとな。助かったよ」
「えへへーっ。お安い御用っスよ!」
ゼンが嬉しそうにニカッと笑う。
こんな時のゼンには、頭を撫で回してやりたくなるような愛らしさがあるよな。
言うなれば、飼い主が投げたフリスビーを取ってきた大型犬が、尻尾を振って撫で待ちをしているような、そんな気配を感じるんだよな。
ゼンに小銭を渡していると、俺の横からリボルバーがゼンの頭をグリグリと撫でる。
「え? ええ? 俺なんで撫でられてんスか?」
「撫でて欲しそうだったから、撫でてやったまでだ」
リボルバーに無表情に見下ろされて、ゼンがさらに混乱する。
「僕だって、買い物してきたよ!?」
アサギが必死にリボルバーに訴える。いやお前はもうちょい落ち着け。
「なんだ、お前も撫でて欲しいのか?」
「もちろん!」
面倒臭そうな半眼のリボルバーにグリグリ撫でられて、幸せそうな笑みを浮かべるアサギの様子に、ゼンが俺の隣で呟く。
「アサギくんって……もしかして、彼女の前だとダメなんスか?」
俺は「まあな」と答えながら、ゼンの買ってきてくれた炭酸のボトルを開けた。
「それで、クマさんはリボルバーと何の話をしてたんですか?」
俺たちが適当に座って飯を食い始めたところで、アサギが尋ねた。
お前……、そういうとこだぞ……?
案の定、リボルバーに圧を込めて睨まれたらしいアサギが小さな悲鳴をあげる。
「リボルバー……ああ、武器のな。リボルバーがロボワに来るかどうかって話と、課金の話かな」
俺が答えると、アサギが助かったとばかりに食いついた。
「課金ですか、僕は今のところ無課金ですねー。リボルバーも無課金勢ですから」
アサギの言葉に、リボルバーがさらりと答える。
「我は必要とあらばいくらでも注ぎ込むぞ。リボルバーが実装されればな」
「そうなの!?」
アサギが驚く。
お前達、もうちょい意思の疎通を頑張った方がいいんじゃないか?
「オレは微課金ってやつっスね。毎月のやつに入ってるっス」
「お? そうだったのか」
ゼンが課金してたなんて、知らなかったな。
「だって皆に置いてかれたくねーっスから!」
ゼンは焼きそばを口に入れてから、箸をぐっと握って拳を作った。
そうだよな。
焦るなって言ったところで、焦んないでいられるわけないよな。
「オレ、もっとスピードが欲しいんスよね……」
呟いて、ゼンが焼きそばを口へ運ぶ。
「スピードって、移動速度か?」
「移動も、回避も、もっとビュンビュン動けるようになりたいっス」
「ビュンビュンなぁ……。そんならやっぱり、保留にしてる『空の迷宮ステージ』に行くしかないか」
俺の呟きに反応したのはリボルバーだった。
「空の迷宮ステージ……? 初耳だな」
「なんだアサギ、話してないのか?」
「あ、えーと……ここ最近バタバタしてたので……」
「迷宮ということは、完全クリアでステッカーがもらえるわけだな?」
「移動速度2%アップのな」
「「移動速度2%アップ!?」っスか!?」
ゼンとアサギの声が重なる。
「それはいいな」
リボルバーが口端を上げる。
「けど、このメンバーじゃちょっとクリアは難しいんだよな……」
このメンツじゃ、4人で行ったところで一斉掃射に誰1人耐えきれないよな……。
「そうなのか」「そうなんですか」「そうなんスか?」
聞き返す3人に俺は「”空の迷宮ステージ”で検索してみろ」と返す。
俺もちょうど昨日、動画があがってるのに気づいて確認がてら見たところだ。
「ありました、これですね」
動画を再生し始めたアサギのスマホを、両脇からゼンとリボルバーが覗き込む。
「わぁ」「おお」「広いステージっスねー」
瞳を輝かせる3人が、苦虫でも噛み潰したような顔になったのは開始から3分のあたりだった。




