学園祭(1/3)
「お疲れ様ですっ。ゼンさんですね、アサギです。リアルでは初めまして」
「お初っスーっ! いやー、アサギくん爽やかっスねーっっ」
アサギは柔らかそうな前髪を揺らして、あははと笑って返す。
アサギのサックスブルーの生地に白で細いストライプが入ったシャツも、機体カラーに近いな。
「クマさんも、来てくださってありがとうございます」
「ああ、今日はよろしくな」
「クマさんって……メカクレキャラだったんですね」
「そーなんスよ! 先輩ってばいつも前髪長いしマスクだし、表情以前に顔見えないんスよね」
「ちょっと意外でした……」
「服はフツーにオシャレなのに、なんか残念なんスよねー。先輩髪切った方がいいんじゃないスか?」
「俺は残念でいいんだよ」
ん? アサギが駆けてきた方向からマイペースに歩いてくる黒髪ロングの背の高い女性がいるが、なんか……纏う空気にボスっぽい威厳を感じるんだが……。まさかあれは……。
「よく来たな」と掛けられた声は、女性には珍しいほどの低音ボイスだった。
「リボルバーか」
「おう」
「美人!!!!」
叫んだのはゼンだった。
そうか……?
んー……まあそうだな。
背は俺と並ぶほどに高いが、全体でみればバランスの取れた体格と顔立ちではあるか。
アサギが、ニコニコしながらゼンにリボルバーを紹介する。
「こちらは僕の彼女の……、……えーと、彼女です」
おいアサギ、彼女をなんて紹介するかくらい考えてから口を開けよ?
流石に、自分の大学のキャンパスで『リボルバー』と紹介しづらかったってのはわかるけどな……。
リボルバーはゼンをジロリと見下ろすと、尋ねた。
「お前は、リボルバーが好きか」
……お前それ、リアルでもやるのかよ。
アサギが慌てて「初対面の人にはまず挨拶からって言ったじゃないか」と訴えるが、リボルバーは瞬きもせずにゼンを見据えている。
「リボルバーっスか!? いいっスよねーーっっ!! あのシリンダーがガチャッて回る瞬間、ドキッとするっスね!! アサギくんの彼女さんもリボルバー好きなんスか? 分かってる人なんスねーっっ!」
ゼンは、物怖じしないいつもの明るさとテンションでペラペラと答えた。
「ふむ。……この頭の弱そうな奴が、お前が前に言ってた後輩か?」
リボルバーが俺に尋ねる。
「あー……。まあな」
俺は僅かに居た堪れなくなって、被っていたキャップのツバを下げる。
「毒舌!!!」
ゼンが叫んだ。
アサギの案内で人の少ない展示をいくつか見てから、俺たちはまた元の中庭に戻っていた。
ステージや屋台の並ぶ大学の表側は人でごった返していたが、いくつかある中庭のうち俺達が最初に待ち合わせに使ったこの中庭は人も少なく、表の喧騒や放送や音楽がなければ学園祭の最中だとは思えないくらいの様子だった。
まあそれでもよく見れば、あちこちにポツポツと座っている学生達が屋台の食べ物を食べていたりはするが。
「腹が減ったな」というリボルバーの声に、アサギが「買ってくるね、待ってて夏……リボルバーっ」と去っていったのはついさっきのことだ。
結局アサギはあの後『リボルバーと呼べ』と彼女に強要され、大人しく従っている。
「あっ、オレも行くっスー!」と後を追ったゼンが、俺に「先輩も欲しいものあったらメッセージ送っといてほしいっス!」と言ってくれたので、俺は今メッセージを打っていた。
ゼンがなるべく買いやすいように、応用が効きそうな文章を作って送信する。
「お前、プラズマキャノンを手に入れたらしいな」
リボルバーは俺がスマホを下ろした途端に話しかけてきた。
……メッセージを送り終わるまで待ってたのか?
「ああ、アサギから聞いたのか?」
「完全覚醒らしいな?」
「まあな」
「……課金か」
「まあ一応、社会人だからな」
「くそ、金の力か……」
おい、女子大生がクソとか言うな。
「リボルバーは無課金なのか?」
「今のところはな」
ふむ。完全無課金勢ってわけではないのか。
「今はまだ、その時ではないだけだ」
「ああ、リボルバーの実装待ちなのか」
「………………、くると思うか?」
ん? なんかちょっと新鮮だな、いつも自信満々なリボルバーの、ちょい不安そうな顔。
「そうだなぁ、ロボワはリアル寄りの武器もあるが、創作武器っぽいのが多いもんな……」
俺の言葉にリボルバーの表情が暗くなる。
おっと、言い過ぎたか?
「けどまあ、来るとは思うぞ」
「本当か!」
顔を上げたリボルバーは、期待に満ちた瞳をしている。
そりゃそうか。自分の名前にするほど好きな武器なんだもんな。
「ファンの多い武器だからな。そのうち来るだろう」
「実装されるとすれば、いつ頃だろうな」
「そうだな……」
リボルバーは確か0.5周年で実装されるはずだから……。
「来年の春頃にはくるんじゃないか?」
「そうか、春か……。そうかも知れないな。リボルバーのシンプルで古風かつ洗練された美しさや物語性は、春という季節にピッタリだからな」
いや別に、俺はそうは言ってないが……。
「春は冬を越えた生命の芽吹きや、新たなスタートを象徴する季節だからな。そうした瑞々しさや純粋さ、新しさと、リボルバーの「原点回帰」や「潔さ」は実にマッチする。そう、リボルバーこそが季節の全ての始まりである春を背負うにふさわしい武器だと。……そういうことだな?」
……そういうことではない。
ではないが……、そういうことにしておいてやろう。
俺は「まあな」と頷いた。
リボルバーは満足そうに「そうか。春か……」と遠くを眺めて頷いている。
まあ、幸せそうだしこれでいいか。
「お待たせしました!」
叫んだアサギの声にそちらを見ると、アサギはまだかなり離れたところにいた。




