ロボワ会
「おはようございます、長尾さん」
ピアリスの声に目を開ければ、目の前でピアリスのパステルピンクの髪が揺れる。
「おはよう、ピアリス。……なんか、距離が近くないか?」
俺の言葉にピアリスはサッと30センチほど離れた。
「失礼いたしました」
いやまあ、ホログラムだからぶつかったりすることはないんだが。
あんま近くに寄られると、俺の焦点が合わないんだよな。
ピアリスはベッド脇に置いていた俺のスマホまで移動すると「スマートフォンに9件のメッセージ通知があります」と知らせてくれた。
「そっか、教えてくれてありがとうな」
メッセージが届いていたのは、昨日入ったロボワ会だった。
グループトークなんて、学生の頃以来だな。
最近会話した相手なんて、ゼンだけだ。
その前は、母親が地球に帰った俺に無事を確認している。
まあ宇宙旅行なんて流行ってはいても、まだ地球を出た事のないやつの方がずっと多いもんな。
俺も、ピア・オデッセイ号が初めての地球外勤務だった。
『元気だよ、母さん達も宇宙旅行したくなったら案内送るから声かけて』と返した俺のメッセージに、母は『ありがとう』とスタンプを一つ送ってきた。
それ以降会話はない。
俺はロボワ会を開く。
『おはようございます』とスタンプまで敬語なのはアサギか。
『はよーっス!』と元気なスタンプでゼンが応えている。
『昨日はお疲れ様でした。おかげさまで沢山色石も集まりました』
『空中戦ステージ、美味しかったっスねーっ!』
『せっかくお二人とこうして通話アプリでも繋がれたんですし、もし良ければお二人も僕の大学の学園祭に遊びに来てください』
一緒に学園祭お知らせページのURLとチラシらしき写真が添えられている。
うお。俺でも分かるほどの、めちゃくちゃ有名な大学じゃないか……。
こんな個人情報を知り合って1か月くらいの相手にホイホイ出していいのか?
『いいんスか!?』
『行くっス!!』とゼンが元気いっぱいなスタンプで答えている。
朝から元気だな。なんて思ったところでふと気づく。
……ん? これ、俺も誘われてんのか。
いや、俺は別に……、他人の学園祭にわざわざ顔を出すつもりも……。
んんん、他人ではない、か。
アサギは俺達のことを知り合いとして誘ってくれてるわけだしな。
しかし、あんま人の多いとこは行きたくねぇな……。
『あ、クマさんはご無理のない範囲でお考えくださいね。ただその、外部からの参加者がここ数年減り気味でして、少しでも増えるとありがたいんですが……』
いやいや、一見謙虚なようで、しっかり言いたいことは言ってるな。
さすがアサギ。
……これは断り辛い……。
『そんなのオレ1人じゃ寂しいじゃないスか! 先輩も一緒に行きましょーっスよー!』
何だこの流れは。
俺がスマホを見た時点で、既に行くしかないみたいな雰囲気になってるじゃないか。
不意にヒュポっとスマホが鳴る。
うるうるした瞳の子犬が『お・ね・が・い』と言っているスタンプを、ゼンが送ってきていた。
あー……、ゼンのやつ、既読がついて俺が開いたのに気づいたんだな。
見なきゃよかった。という正直な気持ちをそっと宥めて、俺は返事を考える。
学園祭なぁ……。
「行ってよかった」と思えるような未来はカケラも思い浮かばないが。
ずっと家とコンビニの往復ばっかりじゃ、流石に体に悪いしな。
たまには散歩がてら、ゼンに付き合ってくるか。
『仕方ないな。なるべく人の少ないとこだけ行くってんならついてってもいいぞ』
『先輩、人混み苦手っスか?』
『まあな』
そこで、俺の発言への既読が2に増える。
アサギも開いたのか。
『ありがとうございます!』『楽しみです!』とアサギからスタンプが二連打されて、そこから『ここからこの辺りの展示は人も少ないと思います』と校舎の見取り図が添えられたり『この門を通ると来客のカウントが……』と通ってほしい入場ルートまでしっかり案内されてしまった。
『土曜の11時~12時でしたら、僕が直接ご案内できます』
『じゃあその時間に行くっス! 先輩も大丈夫っスか?』
『ああ』
今の俺にはロボワ以外の予定はまるでないからな。
『では待ち合わせ場所は……』
2人がサクサクと予定を詰めていくのを、俺はぼんやり眺める。
「学園祭なぁ……。何着ていけばいいんだ……?」
俺の呟きに返事をしたのはピアリスだった。
「お出かけですか? 長尾さん」
ピアリスは俺のスマホをチラと見て「◯◯大学の学園祭でしたら、こういったコーディネートが長尾さんにお似合いかと思われます」と資料を開いて見せた。
いやいや、情報の把握が早ぇよ。そして提案までが一瞬すぎる。
相変わらず恐ろしいなこの高性能AIは……。
あ、でもこれなんか良さそうだな。
俺はピアリスの提示してきた3枚のコーディネイト写真から、1枚を選ぶ。
これなら家にある服で近い感じにできそうだ。
俺は2人の会話を横目に、クローゼットを漁った。




