どことなく漂うカニ感
「長尾さん、そろそろお休みのお時間ですよ」
ピアリスの声に、我に返る。
「ん!? もうそんな時間か!」
左側のウィンドウを見れば、未読のメッセージが溜まっていた。
俺はメッセージ通知音にも気づかないくらい集中してたのか。
ピアリスに少し待っててくれるよう伝えてから、俺はメッセージを古い順に開けていく。
『ゴールド上がってからもう5連敗っス、先輩はゴールドどこまで上がれてるっスか?』
ゼンは苦戦してるみたいだな。
『勝って負けて負けて、勝って負けて……で、なかなかポイントが増えませんね。クマさんは素材集め中ですか?』
アサギも連敗とまではいかないもののポイントを貯めるほどには至らないようだ。
連勝ボーナスがない状態では、勝つと10ポイント、負けると-5ポイントだからな。
『センパーイ! アサギくんとも話したんすけど、オレ達明日は強化素材集めに行きたいっス! 先輩も一緒にどうっスか?』
おお、俺も色石は大量に欲しいな。
『クマさん、明日はゼンさんと一緒に強化素材を取りに行こうと思うのですが、よければ一緒にいかがですか?』
俺が格納庫に篭ってたせいで2人に同じメッセージをさせてしまったようだ。
『センパーイ、オレお先に寝るっスー。ゴーグルつけたまま寝落ちとかしちゃダメっスよー。風邪引くっスよーっ』
おいおい、ロボワは5分以上目を閉じてると強制ログアウトだぞ。
そんな目を開けたまま寝落ちできるかよ……。
『お忙しいところ度々すみません。もしかして、先日の僕の態度が気に障ってしまったようでしたら、改めて謝罪させてください……』
おいおいおい、待て待て!
俺は慌ててアサギにメッセージを送る。
『悪い! 格納庫で作業に没頭しててメッセージに気づいてなかった!』
ゼンの方はもうオフラインだが、そちらにも送っておく。
『悪いな、改造に夢中でメッセージに今気づいた。明日楽しみにしてるな』
送信と同時に、アサギから返事が返ってきた。
『そうだったんですね。よかったです……』
『疲れてるとこに余計な気を使わせちまったな。俺は全然気にしてないから、お前ももう気にするなよ。明日の素材集め、楽しみにしてるよ』
まあ、全然気にならないなんてことは全然ないが。ここは全然気にならない方向で押し通そう。
***
翌日、ゼンの帰りを待って、アサギの作った練習場のインスタンスサーバに3人集まった。
アサギは今日も夜までほとんどインしてなかったな。
テスト期間とかか……?
挨拶を交わすとゼンが嬉しそうに言う。
「3人で集まるの、3日振りっスね!」
「そうですね。常時PTを組んでいられたら、会話がしやすいんですけどね」
アサギの言葉に、ゼンがぴょこんと跳ねて言う。
「あ、じゃあ通話アプリでグループでも作るっスか?」
「それはいいですね」
「……お前達、いつの間に通話アプリで繋がってたんだ……?」
コミュ強は強いな……と半歩下がった俺に、ゼンはケロリと返す。
「まだ繋がってないスけど、これを機にってやつっス」
「そうですね。せっかくですからこれを機に連絡先を交換しましょう」
スイスイと慣れた様子で友達登録し合う2人。
自分のスマホをゴーグル越しに確認すると、既にゼンから「ロボワ会」というグループに招待されていた。
「……ロボワ会……」
俺の呟きにアサギがクスクス笑う。
「わかりやすくていいと思いますよ」
「えっ、なんかダメだったっスか?」
「いや……、招待ありがとうな」
苦笑しつつ礼を告げると、ゼンは「ういっス!」と元気に答えた。
「まあでも、もうちょいしたらギルドもくるけどな」
俺の呟きに「ギルドですか!?」「ギルド戦とかできるんスか!?」と2人が食いついた。
……あ。やべ。
「多分な、多分。ロボワのコンセプト的に、ありそうだろ?」
「ああ……、実装予想ですか」と肩を落とすアサギに対して「ありそうっス!」とゼンは前のめりだ。
「PvPも楽しいっスけど、オレはやっぱ先輩やアサギくんと一緒にワイワイするのが一番楽しいんで、ギルド戦きてほしいっスねー!!」
「ギルド戦ともなると、何人対何人になるんでしょうね。30人とか50人とかで1ギルドになるんでしょうか?」
残念だが、いわゆるギルド戦と呼ばれるものはこない。
1ギルドに所属できる人数も、最初が10人まで、増やしても30人が限度だったはずだ。
おそらくロボワのシステム自体が大人数対戦には向いてないんだろうな。
ギルドメンバー全員で協力して倒すタイプのレイドボスは現れるが、それは各自がソロ出撃で総ダメージを合算するだけだ。
ただ、同じギルドのメンバー5人で挑戦する5対5のチーム戦ならくる。
これもまた、PvPと同じランキング制だ。
とはいえ、実装はまだ来年の話だけどな。
ああじゃないか、こうじゃないかと話す2人に「センパイはどう思うっスか!?」「クマさんはどう思いますか?」と聞かれて、俺は曖昧に笑って答える。
「まあ……PT戦みたいな感じの5対5のチームバトルなら、来年のうちにはくるんじゃないか? 今の環境だとすぐに実装ってわけにはいかないだろうし。大人数でのバトルは……ロボワのシステムじゃちょっと難しいだろうな」
「チーム戦っスか! 早く来てほしいっスねー!!」
「そうですか……確かに、そうかも知れませんね……」
2人がそれぞれ納得してくれたところで、俺は話を切り替える。
「で、今日はどこに行くんだ?」
***
俺達は、素材集めでお馴染みの空中戦ステージに来ていた。
3日前に3人で来た時は、出現する敵の3分の2程を倒して、俺達は満足していた。
まあ、最初に来たときは全体の3分の1くらいしか倒せなかったしな。
元々が全部倒し切るように設計されたステージじゃないのもあって、3分の2の殲滅量でも、強化素材は十分取れた。
しかし、今日、俺はこのステージの完全クリアを狙っていた。
ちなみに、回帰前でも俺はこのステージを完全クリアしたことはない。
1人で倒すには流石に敵が多すぎるんだよな……。
けど今日はゼンとアサギがいる。
「艦に上がってくるやつは2人に任せてもいいか?」
「ういっス! やっつけるっス!」
「構いませんが、こちらの方がレア率高いですよ?」
「今回は、数を稼ぎたいんだ」
「わかりました。……何やら装備が一新されているようですね?」
「わっ、先輩レーザー出たんスか!? なんかめちゃくちゃカッケーことになってるっス!」
俺の機体は、カニバサミが左肩から生えている以上、これまではどうしても、機体全体にどことなく漂うカニ感が拭えなかった。
しかし今回は、カニバサミに限りペイントと装飾にも力を入れたからな。
あのふっくらなだらかなハサミの曲線もシャープに仕上げたし、一見カニバサミには見えないだろう。
……まあ、動くと結構カニなんだけどな……。




