覚悟
水中からの脱出を試みるアサギが水から飛び出す度、スタン弾で押し戻す。
もちろん、お土産に毒を撒くのもセットだ。
これ、結構楽しいな?
だが、アサギ機の4度目のジャンプは水上にほんの少し頭を出すだけで終わった。
「ちょっ、クマさんっ!? 機体が動かないんですが!?」
「ああ不思議だよなぁ、雪上の方が周辺温度自体は低いはずなのに、氷水の中だと寒冷地用じゃない燃料が固まるとかかな?」
「ご存知だったんですか!?」
「多分、機体の温度調節機構が基本空冷仕様だからじゃねーかな。海底ステージの時みたいな水中仕様なら動けるぞ」
「水中装備なんて持ってませんっ!」
「ゴールドではここ以外に水中ステージもある。水中装備は必須だぞ」
「そうなんですか!?」
そういや最初期のポイントリーグの告知はゲーム内では『ステージは3種よりランダムで選ばれます』って書かれてるだけでステージの内容は不明だったんだっけな。
次第にゲーム内の案内にもステージの内容が出るようになったはずだが、この時期だと外部の攻略サイトや人の投稿頼りだったんだな。
今日始まっての今日では、知らなくて当然だ。
「ぅぅ……。これは、もう……。僕の負けです……っ」
悔しそうなアサギの声。
次の瞬間、アサギ機は爆散した。
まだもうちょいHPはあったと思うが、相手がリタイアボタンを押すと、その時点で機体は爆散するようだ。
俺だったらレーザービームの反動を使って脱出するとか、盾で泳いでみるとか……まだもうちょい粘るとこだけどな。最近の若者は諦めが早いとかそういう世代的なアレか……?
ホームに戻ると、メッセージが届いていた。
『センパーーイっ! ただいま帰ったっス! オレも早速PvP行ってくるっス!』
お。ゼン早いな。PvP初日に大急ぎで帰宅したってとこか。
元気いっぱいの文面に、思わず笑みが浮かぶ。
『お疲れさん。俺はひとまずゴールドまで来たが、しばらくランクアップは難しそうだからゆっくり上がってこいよ』
と、こんなもんでいいかな。
俺とアサギが日中もやってるせいで、どうしてもプレイ時間が少ないゼンは焦りがちだからな。
まあ、俺もあと3か月ちょいすりゃそっち側だ。
お互い焦らずいこうぜ。
で、こっちは……。と。
リボルバーからのメッセージは予想通りの『プラチナランクに上がったぞ』だった。
『すごいな、おめでとさん。俺はしばらくゴールドにいることになりそうだ』
と、こんなもんか?
アサギと戦った話はアサギから聞けばいいだろう。
あいつが言わないならそれでいい。
わざわざ彼女に、負けた話なんかしたくないだろうしな。
しかし、ザンク・ロウに負けて-5ポイント、アサギに勝って+10ポイント、まだ俺はゴールドランクに入ってから5ポイントしか増えてないんだよな。
プラチナランクまではあと350ポイントか……。
仮に勝率が5割だとしても、まだあと90試合くらいはかかる計算だ。
まだまだ先は長いな。
こんな中で、サクッと710ポイントを稼いでプラチナに上がったリボルバーは本当にすごいな。
ずっと負けずに戦ったとして、えーと……何戦だ?
連勝ボーナスが連勝ごとに3ポイントずつ増えていくとしたら、最初が10ポイント、次が13、16、19、22で……、20戦か。
なるほど、負け知らずなら、13勝でゴールドに入って、そこから7勝でプラチナに上がれるのか……。
現在時刻はもう20時を回っているが、リボルバーは20時の少し前に俺にメッセージを送っていた。
リボルバーは1日に4時間しかプレイできないもんな。
きっちり4時間、ずっと集中して、限界まで粘って戦って。
その結果が、プラチナランクなんだ。
……はぁ、全く大したもんだよ。
俺なんて、せっかく時間がたっぷりあるってのに、PvP初日に昼寝なんかしてたんだもんな。
ポンとメッセージの通知が来て、俺はもう一度メッセージボックスを開く。
『先ほどは対戦ありがとうございました。今回は完敗しましたが次は勝てるよう頑張ります!』
送ってきたのはアサギだった。
俺は思わず苦笑する。
完敗だなんてよく言うよ。こいつもなかなか負けず嫌いだよな。
ステージがあそこじゃなかったら、俺が負けてただろうにな。
『今回はたまたまステージに助けられたんだよ。俺と再戦する前に、お前はプラチナに上がるんじゃないか?』
送ろうとして、手が止まる。
……何で俺は、アサギを見送ろうとしてるんだ?
次は勝つと叫ぶアサギみたいに、俺だって、次も負けないと言ったっていいんじゃないのか?
まだロボワは始まって一ヶ月だ。
アサギと俺に、そんな深刻なレベル差はない。
……。
おかしいだろ……。
俺は、他の奴らと並んでロボワを楽しむために、4年の時を飛んだんじゃないのか……?
なのに。
こんなとこで。
PvP初回はゴールドでいいなんて。
そんなこと言ってたら、いつまでもピラミッドの頂上になんか行けやしないだろ?
そんなの、トップランカー達を羨ましく眺めてたあの頃と、何も変わらないじゃないか!
俺は、メッセージを削除して、もう一度書き直す。
『ああ、再戦が楽しみだよ』
短いが、これでいいだろう。
俺はメッセージを送信すると、ホームから、ダイヤの隣の小さな『+』ボタンを押した。
今の俺に足りてないのは、覚悟だ。
いつでも引き返せる。
そんな半端な気持ちじゃ、リボルバーどころか、アサギにだって追いつけない。
俺は持ってるじゃないか、強く美しいURプラズマキャノンを。
あとは、俺がURプラズマキャノンを堂々と使えるだけの資格を、俺の覚悟として支払うだけだ。
UR武器を大量に持っていたオジョウはもちろん、俺よりずっと素早いザンク・ロウとだって、URプラズマキャノンさえあれば互角に戦えるはずだ。
誰よりもレーザー武器を愛する俺なら……、俺なら絶対に、URプラズマキャノンの力を最大に生かしてみせる!
俺は覚悟を決めるとダイヤ購入の最高額、1万円でダイヤ1万個のボタンを押した。




