ひたすらに作業
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ポンと鳴った音にメッセージを開けば、ゼンだった。
『センパーイ、オレそろそろ寝るっスねー。シルバーのAまで行ったんで、明日にはゴールド行けそうっス!』
おお、短時間でよく頑張ったな。
俺は何気なく時計を見て…………もう一度見た。
は!? もうこんな時間なのか!?
2時間じゃなくて3時間経ってるじゃないか!!
「長尾さん、そろそろお休みのお時間ですよ」
うっ。
ゴーグルの向こうからピアリスの声が聞こえる……。
ピアリスに営業時間外の活動も頼めると知って、起床や就寝のリマインダーも頼んでおいたんだった。
「ピアリスありがとう、悪いが少し待っててくれ」
「かしこまりました」
ええと……。
『おお、すごいな。明日が楽しみだ。おやすみ』と。
メッセージを送ると、俺はホームに戻ってダイヤの数を確認する。
ダイヤの数は約6万個。あと10連20回分だ。
あれから俺は意を決して1万円のダイヤを60回購入した。
つまりは60万円だ。
あのお嬢様はどうだか知らないが、俺にとっては信じられないくらい大きな額だ。
何せ俺は車も家も持ってないし、スマホも家電も10万円以上する物なんて1度も買った事がない。
そんな俺が、60万……60万円だぞ!?
意識しただけで手が震える。
そんな高額を、既に54万円分もガチャで溶かしている。
ほんの数時間で、金ってこんなに簡単に消えてなくなるんだな……。
いや、最初は天井額まで課金さえすればそれでいいかと思ったんだが、そうすると、このダイヤが浮いちまうんだよ。
この60万個のダイヤで、俺がまた来月のピックアップやらに挑戦するのはちょっと違うよな、と思った結果、俺はこのPvP用のガチャを10天井分……つまり、10連200回分引きまくっていた。
演出を全スキップしたところで、とにかく回数が多い。
そもそも課金を60回した時点で既に1時間近く経過してたからな……。
課金毎に、認証も、当然60回行った……。
つーか、10個分の天井でこんだけ時間がかかるなら、あの5種のピックアップURを全種とも完全覚醒させてたオジョウは一体何時間こんな作業をし続けたんだ?
こんなん作業ゲーもいいとこだろ……。
あいつはあいつで、意外と根性あんのかも知れないな。
いや、近くにいた誰か……使用人だかに回させたって可能性もあるにはあるか。
ロボワはログイン時にゴーグルでの虹彩認識があるため、自分のアカウントを他人に使わせるのは難しいが、装備品や消耗品なら別に本人が引かんでも、トレード機能でやり取りすればいいもんな。
しかし、この作業……、ガチャを回すだけで済むならまだいいが、回し終わった後にも、地獄の装備品整理作業が待っている。
俺が一度に所持できる武器や防具といった装備類は、現在1000個までだ。
ここもダイヤで数を増やせはするんだが、俺はまだしばらくは1000個でいくつもりだ。
それに対して、今回のガチャで受け取る装備の総数は2000。
既に500程は埋まっていたことを考えると、1500個は溢れる。
溢れた分は一時的にプレゼントボックスに入っているので消えたりはしないが、それを、少しずつ受け取っては強化したり合成したり換金したりする地道な分別仕分け作業………………。
明日一日かけても終わらない気がして、俺は気が遠くなった。
とりあえず、後20回分10連を回し切ってから寝るか……。
「長尾さん、ガチャですか?」
やたら明瞭なピアリスの声に、俺は思わず肩を揺らした。
今これ、VRスピーカーからピアリスの音声が入らなかったか?
「ピアリス、いいか、前にも言ったがガチャには絶っっっっ対に介入してくれるなよ?」
「承っております」
今度の声は、ちゃんと卓上に置いた端末側から聞こえた。
……なんか、それでも怖いんだよな……。
こいつなら、素知らぬフリしてやってくれちゃいそうでさ。
俺はため息を一つ飲み込んで、ロボワを閉じた。
ピアリスの前でため息なんてついたら、理由を言うまで聞いてくるからな。
ゴーグルを外して机の上に置く。
「おまたせ。寝る支度をしてくるよ」
今夜は、ピアリスには睡眠計測も頼んでるしな。
「ガチャはよろしかったのですか?」
ピアリスが不思議そうに尋ねる。
「ああ、また明日にするよ」
「かしこまりました」
「くれぐれも、俺のガチャには手を出さないでくれよ?」
「……かしこまりました」
今ちょっと、ピアリスからうんざりした気配を感じた気がする。
まあとにかく、このくらい言えば、流石に分かってくれただろう。
俺は手早く身支度を済ませると、ベッドに横たわり、ピアリスの端末を枕元に置く。
「こんな感じでいいのか?」
「はい、完璧です」
「完璧か」
俺が笑うと、ピアリスも小さく笑う。
「じゃあ、おやすみピアリス」
「はい、おやすみなさいませ、長尾さん」
こんな挨拶も何だか懐かしいな。
船にいた頃はこれが日常だったからな……。
目を閉じれば、大量の課金による精神的な疲れからか、すぐに睡魔が襲ってきた。
明日……下手すりゃ明後日までか、しばらくはひたすら地道な作業の繰り返しになりそうだな……。
けど、その先には俺の……、俺専用の、URプラズマキャノンが待っている!
ああ、楽しみだなぁ……。
どんな風に改造して、どんな塗装に仕上げようか。
俺はURプラズマキャノンの最強改造計画を思いながら眠りに落ちた。




