シルバーランク
ピピッとレーダー内に熱源反応が入ったことを示す音が鳴る。
お。正面側か、ありがたい。
相手は長距離武器を持っていないのか、武器を構えてはいるもののまだ撃ってこない。
俺は、範囲を絞って距離を伸ばしたレーザー砲を浴びせる。
「わ、うわ」と相手の声が聞こえる。
相手はボイスをオンにしていたようだ。
俺のボイスはオフだが、相手がオンにしてれば相手の声だけは聞こえるんだな。
もしかしたら、まだボイスの設定にも気づいていない初心者の可能性はあるが……。
……悪く思わないでくれよ。
俺は、そろそろ届くようになったマシンガンで更に与ダメージを増やす。
相手は、戸惑いの声を漏らしながら、武器を使う間もなく爆散した。
「よっし! まずは1勝!!」
[勝利]と書かれたウィンドウが眩しい。
0ポイントだった俺のポイントが10ポイントになる。
そういや、連勝できればさらにボーナスで3ポイントつくんだっけな。
俺の今のランクはブロンズD。
各ランクはさらに4段階に分かれていて、ブロンズAの上がシルバーDとなる。
次勝てば、早速ブロンズCに上がれるな。
ブロンズランクの間は負けてもポイントが減らないから、とにかくたくさん戦ってたくさん勝つぞ!
俺は早速2戦目の出撃ボタンを押す。
「この調子で行くぞ!」
俺は気合を込めて『準備完了』のボタンを押した。
***
[昇格]
[シルバーランクに昇格しました]
「っしゃあ!」
俺は自分でも驚きの8連勝で、ストレートにシルバーランクに到達してしまった。
いやあ、連勝ボーナスって連勝が続くほど増えるんだな。
まあ、PvPの初回で初日ということもあり、とりあえず入ってみたという感じの非対人武装機が多く、俺の実力と言うよりは、たまたま相手に恵まれたってとこではある。が、それでも嬉しいものは嬉しい。
まさか初日でここまで来れると思ってなかったからな。
試合ペースも1試合に5分程度でまだゲーム開始から1時間ほどだし、まだまだ戦える。
やっぱあれだな、アサギ達と行った迷宮ダンジョン。
あそこで貰った特別報酬……いわゆる迷宮ステッカーの効果がデカいな。
このステッカータイプのアイテムは、機体に貼ると何のコストも無しに永久的に効果を発揮する、使い勝手の良いブーストアイテムだ。
張り替えもローコストだしな。
数年も経てば、ランキング上位の機体にはこんなステッカーがベタベタ貼られるようになる。
王様ネズミの落としたステッカーは王冠のイラストの奥にネズミのシルエットが入っていて、デザインも悪くない。
何より効果がリロード時間の2%短縮と、かなり有難い性能だった。
あれにはリボルバーも喜んでたしな。
あの早撃ちに、リロード時間の短縮が加わればものすごい効果だろう。
しかもこのステッカー、同一機体に同じステッカーが3枚まで貼れる。
当然、俺達はすでに3回、王様ネズミを倒していた。
迷宮ステージはクリアまでにどうしても時間がかかるが、それでも迷宮ボスさえ倒せば確実にステッカーが手に入るってのはありがたいとこだよな。
そんなわけで、俺とアサギとリボルバーのリロード時間は6%短縮だ。
俺がさっきから遠距離レーザーをホイホイ撃てているのも、これのおかげだな。
レーザー武器は1発が強力な分リロードに時間がかかる物が多いが、そこが短縮されれば時間あたりのダメージが随分違ってくる。
本当はゼンにも取らせてやりたかったんだが、俺とアサギとゼンの3機だと、ネズミの群れは何とか3機全員でスタンさせまくれば倒せるんだが、王様ネズミで全滅するんだよな……。
それに、俺たちだけだと、王様ネズミに行くまでも相当時間かかるしな。
リボルバーとゼンの時間が何とか合わせられればと思ったんだが、リボルバーにこの事を話したら「下手くそはアサギ1人で十分だ」って言われたからな。
「いやいやいや、アサギはうまいだろ。かなりうまい方だろ!」って思わず叫んだが、まあリボルバーから見れば全員下手くそに見えるんだろうな、とは思う。
つまり、リボルバーとしては戦力になるやつならともかく、足手まといの面倒を見る気はないって話なんだよな。
そんなわけで、ゼンが迷宮ステージをクリアする日はもうしばらく先になりそうだ。
俺が、封印したUR武器を持ち出せば何とかなりそうな気はするんだが、人助けだとか言って一度使い始めたら、もう手放せなくなりそうだからな……。
正直俺は、自分の自制心に自信がない。
ゼンには悪いが、俺とアサギがもうちょい成長するまで待っててほしい。
俺は、頭の隅でいつも虹色に輝くURプラズマキャノンの存在を振り切るように頭を振って、操縦桿を握り直した。
「このまま、ゴールドランクまで行くぞ!」
ありがたいことに、PvPでは消費した武器やエネルギー、機体の損傷は全て一試合ごとにリセットされる。
だから、遠慮なく戦える。
俺は9戦目の『出撃』ボタンを押して、『準備完了』のボタンを押した。
***
目の前に広がったのは、ジャングルだ。
シルバーランクのステージはジャングル、荒野、コンテナ工場の3つからランダムで選ばれる。
荒野は視界が広く長距離武器が有利なので俺向きだし、コンテナ工場も高低差のある立体マップで、ジャンプに強い逆関節機向きだ。
そんな中で、このジャングルステージは俺にとって唯一不利なステージだった。
まず、視界を遮る物が多く、長距離砲が役に立たない。
頭上も木々に覆われていて、高めに飛ぶと引っかかることもある。
初っ端からハズレステージか。
俺は自分にバフをかけると、なるべく大きな樹を背にして周囲を見渡す。
熱源感知センサーの範囲よりも視認の方が遠くまで確認できるんだが、この木々の中じゃ難しいよな……。
急旋回のできないこの機体じゃ、後ろから来られるとアウトだ。
軽く素早くセッティングしているこの機体の装甲では、重量級の砲撃を至近距離で喰らえば一発撃破もありえるからな……。
「見つけましたわ!」
またボイスオンの相手か。
数瞬遅れて俺のレーダーがピピッと熱源反応音を立てる。
そっちか。
俺は軽いバックジャンプで距離をとりつつレーザーを放つ。
「あら、逃げられてしまいましたわ」
敵機は俺を見失ったらしく、キョロキョロと辺りを見回している。
今のうちに、索敵用センサーのギリギリまで詰めて……。
「仕方ありませんわね。そこら中燃やしてしまいましょう」
敵機が装備をグレネードランチャーに交換する。
何だって!? URのグレネードランチャーじゃないか!
俺は慌てて散弾で頭上を覆う木々を撃ち壊す。
「きゃっ、こんな近くにいらしたんですの!?」
敵機は俺に照準を合わせ直そうとするが、既にトリガーは引かれている。
着弾より一瞬早く、俺は地を蹴って飛び上がった。
ぐんぐん上昇する高度。
眼下にはグレネード弾に焼き尽くされてゆく森。
俺の想定より威力も範囲も上だ。
まさか……、あのURグレネードは完全覚醒済なのか!?
「きゃああっ、痛いですわ!」
どうやら敵機は、俺に照準を合わせようと最後に砲身を下げたせいで、広範囲のグレネードに自分も焼かれているらしい。
何だか残念なお嬢様だな……。
自分の武器の攻撃範囲くらい、しっかり把握しといた方がいいぞ。
俺は、せっかくの力を発揮できないURグレネードを若干不憫に思いつつ、降下に合わせてレーザー砲とマシンガンを連射する。
ついでにカニバサミで毒も入れとくか。
これで終わるだろう。
そう思った俺の予想に反して、敵機は俺の攻撃を受け切った。
「なかなかやりますわねっ! ですが私のエネルギーシールドの前では無力ですわ!!」
エネルギーシールド!? 1枚1万円の課金専用UR装備じゃねーか!!
レーザーに強いとはいえ無力ってことは……。
俺は敵機の損傷度を目視する。
いやほぼ無傷じゃねーかよ!
本当に……当たったのはマシンガンだけだってのか!?
まさかこのシールドも完全覚醒済なのか!?
4万円のエネルギーシールド!?
俺は着地と同時にもう一度跳ぶ。
案の定、着地狙いの弾が俺の足元を掠めた。




