約束されたUR
1つ目のコンテナがゆっくり開く。
七色の光が溢れ出して、ディスプレイいっぱいに広がる。
「UR演出だ!!」
俺は思わず叫んだ。
「1つ目からURなんて初めてだ! ピックアップなら、5分の1の確率でプラズマキャノンだぞ!!」
光の中からシルエットが浮かび上がる。
「これは……っ、間違いない!! プラズマキャノンだ!!」
「よかったですね、長尾さん」
俺は飛び上がりそうなほどの気持ちを、ピアリスの手前なんとか押し留めて次を開く。
「……ぇ」
2つ目のコンテナから、七色の光が溢れ出す。
「こんなことってあるのか!? まさかの2つ目もURじゃないか!!」
光の中からプラズマキャノンのシルエットが浮かび上がる。
「まままままさかの2連続プラズマキャノン!? うおおおおおおおお有難い!! これでいきなり覚醒武器にできるじゃないか!!」
「ふふふ、よかったですね、長尾さん」
「ああ、もう勝ったも同然だ!」
残り8個が全部Nでも、俺は笑っていられるぞ!
にやけそうな口元を必死で引き締めながら、次のコンテナを開く。
「……っ!? 3つ目もUR!?」
しかも、またプラズマキャノンだ。
いくらピックアップとはいえこれは出すぎだろ。
だって先週はSSRが2つだけだったんだぞ!?
「これで2覚醒……。あと1つでいきなり完全覚醒URって事か……!?」
「よかったですね、長尾さん」
嬉しそうなピアリスの声に、俺は小さな不安を感じながらも、次の箱を開ける。
次は……。
「……またURだ……。4連続でUR……、完全覚醒URプラズマキャノン…………。もしかして、俺がガチャ画面を長く開きっぱなしにしてたせいでバグってんのか……?」
まさか、このまま10個全部プラズマキャノンで、大喜びしてホームに戻ったら全部消えてるとか、そんなオチじゃねーよな……。
「いいえ、接続と通信は正常に行われています」
ピアリスの返事に、背筋が凍る。
「……な、なんでピアリスがゲームの通信状況まで把握してるんだ……?」
メディカル担当のお前は、支給されたホログラム装置から俺の体調チェックをするだけの……。いや、そうか。ピアリスは毎日本社に俺のヘルスデータを送信してる。そのための通信性能は備わってんだから、AIと組み合わせれば通信制御もできるのか。
しかし、それにしたって……。
「このゲームが長尾さんの心と体の健康に、強い影響力を持っているからです」
ピアリスは、さらりと答える。
「私には、長尾さんの健康を守る役割が与えられています」
「…………ま、待て待て待て待て! 俺は祈ってくれって言っただけだぞ!? 確率操作しろとは言ってないからな!?」
つーか俺が頼む前に、もう演出は入ってたんだし、結果は決まってた……んじゃないのか? 違うのか!?
あああああくそなんだこれ素直に喜べねぇぇぇぇぇ!!
「長尾さんは以前からレーザー砲がお好きなようでしたので、レーザー砲を多めに祈っておきました」
ピアリスがにっこり微笑んで答えただろうことが、声色からわかる。
うあああああ最後の望みが絶たれた!!!
「それ絶対『祈ってる』だけじゃないだろ!! なんか干渉してんだろ!!」
俺はゴーグルごと頭を抱える。
せっかく楽しくロボワで遊び始めたとこだってのに、何してくれてんだよ!!!
いきなりの重大違反行為じゃねーか!!
「ご心配には及びません。システムデータに一切の痕跡は残りませんので」
怖っっっっ!!!
悪事だと分かっていてやったのかよ!?
いや、ピアリス達自律思考型学習成長AIには犯罪と定義される行為は行えないようフィルターがかかっているはずだ……。
じゃあピアリスは、ゲームの確率操作は犯罪ではないと思ったのか……?
そんなのおかしいだろ。ロボワの利用規約には明確に外部からのデータ干渉を禁止する項目があるんだからな。
「ピアリス、こういうのはやめてくれよ。そりゃ欲しいのが出れば嬉しいけどさ、こんなのはただのズルだ。対人戦のあるゲームは、皆が同じルールの上で、出来る限りの工夫や練習を重ねて強さを競い合うのが楽しいんだよ」
「……ですが、長尾さんの望みのものが出なければ、長尾さんが酷く落胆してしまいます。それは何としても避けるべきです」
んー……。つまり、ピアリスは違反行為と俺の心の健康を天秤にかけた結果、俺の心の健康を守るべきと判断した……って事か。
俺が気安く『祈ってくれ』なんて言ったのがマズかったんだ。
何の役にも立たなくていいから、同じ気持ちでいてほしいなんて、そんなのAIに求めるべき内容じゃなかった。
求めるならせめて、具体的にどうして欲しいのかまで、正確に伝えなきゃいけなかった。
そりゃそうだよな……。ピアリスは、ロボワのサービス終了に落ち込む俺を、無理にでも4年前に戻そうと例外事案を押し通してくれたんだもんな。
俺の健康のために。って。
「……ピアリス。このガチャって無かったことには出来ないか?」
「それは難しいですね……。すでに結果の送受信は終わっていますので」
「っ、じゃあ、せめて、5つ目からは通常の確率で引くってのは……」
「今回のガチャに出現の10アイテムのデータは既にゲームサーバにて保存が完了しています」
「うぐ」
もう、このまま開けるしかないのか……。
なんつーか、もう、嬉しいとかじゃなく、罪悪感しかないんだが……?
「こんなURばっかり出したら、流石に運営に目をつけられるだろ……」
「その点はご安心ください。10連ガチャでURが10個排出される可能性は0%ではありません」
「だとしても普通に生きてて目にするようなもんじゃねぇだろ!」
「……そうでしょうか?」
「そうなんだよ!」
「……長尾さんのストレス値が増加しています」
お前のせいだよ!!
という叫びを、俺はなんとか飲み込む。
ピアリスに悪気は無い。間違ったのは俺だ。
くそっ、せっかくのプラズマキャノンだったのにな、こんなんじゃ使うに使えねぇよな。
今回引いたUR武器は自主的に封印するかなぁ……。
凹みつつ、俺は次のコンテナを開ける。




