十六幕・十月の十六日 そのさん
仕事を終えて、今から帰ろうという時、部屋に飛び込んできた邪魔者。
即座に殺そうとしたのに、耳に付けたインカムの向こうから、プラチナの制止がかかった。
仕方なく距離をとり、ナイフを両手に構えながら相手を観察する。
年の頃は俺と同じくらい。
獲物は重々しくその手に提げられている鉈。
紫黒の髪に赤い瞳。
同じ赤でも、かばねやラグとはどこか違う。
よく見た色だ。
ついさっきも見たような。
そう思ってふと目線を逸らすと…あぁ、やっぱりあった。
そう、あれは鮮血の色だ。
なんて考えていると、目の前のそいつが舌打ちをして呟く。
『…もう殺られてるのか。』
米国式英語で
……チッ。
こちらに話しかけたわけでなく独り言のようだし、つまりコイツは普段から米国式を使っているのだろう。
……話す価値さえない。
声をかけることすら不快だ、としばらくその鮮血の瞳と睨み合う。
それを逸らしたのは向こうが先だった。
素早く踵を返し、逃げるように去って行く。
それを追おうとした俺に、再びの制止。
『ストップ、ジャック。この仕事は隠密。これ以上暴れちゃダメ。このまま撤退する。向こうの通信も傍受できたから正体は分かってる。追う必要はないよ。』
…だからこいつとの仕事は。
普段ならともかく、現場では俺はこいつに従うべきだと、分かっているだけにイライラする。
目的である殺しは達成できたはずだが、どこか不完全燃焼のまま、俺はその場を後にした。




