十二幕・十月の十一日 そのに
…いつもの場所に着く。
今度は俺の方が先にその姿をとらえる。
「……理央。」
声をかけるとパッと振り向き、俺の姿をとらえて笑う。
「…ジャック!今日は早いな!!」
「…お前も。」
「あぁ、今日はさ、短縮で早かったんだ!いいだろ?」
俺には全然わからない学校の話。
温かい家族の話。
…仲の良い友達の話。
「…でも、何かやっぱりお前と一番気が合うよ!」
そう言って笑うコイツを。
友達になろうよ、と笑ったアイツに。
…殺させたくはない。
楽しそうに話す理央の声に、言葉をかぶせて話を遮る。
「…理央。」
理央は一瞬目を丸くしたけど、すぐに
「…どうした?ジャック?」
と、カスタードの目で俺の蒼をのぞき込む。
……この目は、苦手だ。
小さく深呼吸してずっと喉元で止めていた言葉を、決心が鈍らない内に吐き出す。
「…もうここには来ない。」
「……え?」
キョトンとした顔になる理央。
呆けたような疑問の声を上げ、少しの間の後、
「な…なんで…!?俺が何か気に障ること…っ!!」
そう、苦しそうな顔で捲し立てる。
俺はその言葉も遮って答える。
「……もう、俺はこの辺りから居なくなる。ここにも来れない。」
「…は……?それって…えっと…イギリスに、帰るってこと…か?」
「…っそれは…。」
英国に帰るわけじゃない。
そんな事を言いそうになって、言葉に詰まる。
そういうことにしておいた方が良いんじゃないか?
そうだ、と嘘を吐いてしまえば後腐れなく…。
黙り込む俺に、何を思ったのか。
理央は表情を暗くする。
「……っやっぱり、なんか俺に隠してるか……?…もしかして、俺うざったかったか…?俺の事嫌ったか…?……まさか俺が…。」
「…っ!違うっ!!」
自分を責めるような理央の言葉に、思わず否定の声を上げる。
理央は何も悪くない。
普段あまり多くを話さない口を必死に動かして言葉を紡ぐ。
「国内…◆◆市のあたり…が本当は…今、俺のいるところで…こっちには用があって…数日だけ…居るだけで…。あまり言えない…が、俺は…敵が多いから。お前に迷惑になる…から、もう、あまり会うべきじゃない。」
俺は今ものすごく情けない顔をしてるんじゃないか。
躊躇いながら、たどたどしく口にした俺の話を、理央は黙って聞いていた。
しばらくの沈黙。
理央の方を窺うと、なんとなく泣きそうな、悲しそうな顔をしていた。
その唇がゆっくり、開かれて。
「…なんだよ。そんなの……。」
俺を責める言葉が飛び出すんだろう。
これで、こいつとの付き合いも終わり、だろう。
そう、身構えていたのに…。
「…ばっかじゃねーの!?そんなの気にしてたら最初の時、お前を助けてないっての!!◆◆市?全然近いじゃないか!!そんくらいで一生付き合い止めるみたいな言い方…っ!…俺だけか!?お前を親友だと思ってたのは!?そりゃ会って数日で、話したのもまだ片手で足りるくらいだけどっ…お前とは、生涯の友ってのになれるんじゃないかって……っ!俺は…っ!!」
…責められた。
……けど、それは…。
ぐっと唇を噛みしめる。
俺だって思った。
…思ったんだ。
コイツとなら、一生の付き合いができるって。
恋愛感情じゃなくて。
羨望なんてものでも無くて。
正反対なのに。
同じ。
そんな、感じで。
けど、お前はただの一般人で、俺は殺人鬼なんだ。
俺は…人を殺さないと中毒症状で死ぬだろう。
…最悪、コイツのことも…。
渦巻く胸の内を何とか抑え込んで、何か答えようとした。
けど、
「~~っ!絶対会いに行くからなっ!!お前が嫌がっても絶対にっ!逃げても捕まえてやるんだからな!!俺のしつこさ甘く見るなよっ!!」
そう言って理央はバーカバーカ!と俺を罵りながら走り去っていってしまう。
…いや…捕まえるって…今逃げてるのはお前の方じゃ……。
俺はそんなことを考えながら、呆然とその背中を見送って…。
「……っく…ぷっ…ははっ…!」
耐え切れず吹き出す。
会いに来るなんて言われて、どこか安心してる自分がいて…。
あぁ、駄目だ。
俺は嘘が吐けない。
理央にも、自分にも。
何で今まであんなにに弱気になっていたんだか。
俺は《傲慢》だ。
理央との関係くらい隠して見せると、驕ってしまえ。
かばねにも、他の奴らにも、勘付かせない。
俺はそんなに単純じゃない。
隠し通して見せる
口元に浮かんだ笑み。
晴れた気分でその場を後にする。
手始めにあの妙に鋭い馬鹿の追及を、さて、どうやって逃れようか。




