十一幕・十月の十日 そのろく
「ごめんねージャック。」
「……何?」
「待っててくれたでしょ。話終わるまで。」
「………別に。」
俺はナイフの血を拭ってケースに仕舞う。
帰ってから手入れをしよう。
携帯を開く。
メールの欄。
あれから、送られてくる位置情報を追い街中を駆けた。
そして、今画面に表示されているのは俺がここに着く直前に送られてきたメール。
『くろはっけん。』
初めは何のことかと混乱したが、指定場所に着いてすぐ理解した。
かばねと対峙する男。
……理央、ではない。
確か数日前、かばねを呼び止めた奴。
黒…ターゲット発見、と。
変換をしていないのは、目の前のこいつに隠れて後ろ手で打ったから。
俺の獲物だから、位置情報をわざわざ送り俺を呼び出した。
つまり、コイツが事件の犯人だと。
……本当に質が悪い。
コイツの言動はたまにこういう誤解を引き起こす。
本人は全く気付かないことがほとんどで。
…かばねに聞こえない程度の大きさで舌打ちをする。
当のかばねはそんな事気にもせずに、自分の方に倒れ込んできた男の体を受け止め、血がこぼれないようどこからか出した布で傷口を圧迫している。
下にこぼすと後処理が面倒だから。
赤に染まる布を見て、かばねは一瞬ちろりと赤い舌で唇を濡らす。
こんな時にでもコイツは食欲。
…ブレない。
だからこそ…
「…何であんなこと言った?」
こいつは仕事に関してシビアだ。
これが他の奴なら俺が来るまでの時間稼ぎとも考えられる。
けど、かばねはああいう嘘は吐かない。
「本気だっただろ。」
続けてそう言ってやると、キョトンと俺を見上げてかばねは答える。
「うん、本気だったよ?」
「…自分を恨んで殺そうとしてる奴を。」
「あっは!それ、人のこと言えないよ?ジャックも僕のこと殺そうとしたじゃん!あれ、ラグとれおれおの攻撃無かったら、僕危なかったと思うよ?」
「こんな奴と一緒にされたくない。技術が違う。」
そう、俺が嫌悪を顔に表して言うとかばねはへらへらと笑い、返す。
「だからだよ?だって僕たちいつ死ぬかわかんないじゃん!だからジャックのとこみたいに後継っての育成とかすればいいんじゃないかなって。」
「……は?」
ここで引き合いに出されるとは思わなくて驚いた。
…確かに切り裂きジャックの名は世代を経て受け継いできたものだ。
他の有名な殺人鬼の中にもそういうのは居るらしいし、理に敵ってはいるが…。
「お前に、そういうつもりがあったとは思わなかった。」
「む…それ、どういう意味さぁ?」
「…大罪は一代限りのものになると思ってた。」
後継なんて、そう簡単にいくものじゃない。
俺達は。
…俺は。
「……そもそも、アイツが来ると言ったら誰の下になる?」
一瞬浮かんだ思考から気を逸らすように話題をずらす。
その事に気付いているのかいないのか、かばねは少し考え、俺の話に乗る。
「それはさ、やっぱり、ジャックの手口真似たんだしジャッ……。」
皆まで言わせず殺気を込めた視線を送ると、かばねは気まずそうに視線を逸らして続ける。
「…冗談だって…。そんな怒んないでよ。れおれおのとこだっただろうね。お兄さんは憤怒っていたから。れおれおのスタイルははお兄さんには無理だろうし、そこはジャックとか僕寄りになったんじゃないかなぁ?まぁ、残念ながら、お誘い断られちゃったけどね。」
などと言いながらも、かばねの顔にそう大きな後悔は見えない。
……そう、コイツはそういう奴だ。
結局コイツは、自分と身内以外には欠片も執着など無い。
そしてその執着すら、食欲で塗りつぶしてしまえるのだ。
「……お前の後継は見つからないだろうな。」
俺が思わず零したその呟きを拾ったかばねは、満面の笑みを顔に浮かべ
「だろーね!!」
…と、答えた。
「ところで、死体もらっていい?」
「……使わないし、勝手にすれば。」




