十幕・とある切り裂き模倣犯の殺人日記
目の前のこいつが分からない。
ついさっき俺に殺意を持って刃物を向けられたというのに、ただ困ったような笑みを浮かべるこの子供が分からない。
初めに会った時からおかしな子供だった。
いきなり校門に現れ、切り裂きジャックを追ってるだの言い、警察か何かなんじゃないかと思うくらいの資料を持っていて。
でも、こいつのお蔭で助かったこともある。
三木の言ってた目撃者の女が、指名手配されている女だと確かめられた。
そして、最初会った時に見た資料のお蔭で、切り裂きジャックの犯行を警察にもバレないほどにコピーできたんだ。
切り裂きジャックの日記が一部メディアで公開された。
狂っているとしか思えなかった。
人を殺した様子がそれは楽しそうに綴られていた。
自分の犯行に陶酔し、殺人を快楽にしている狂人の殺人日記だった。
ふざけるな。
こいつが。
こいつがアイツを殺したのか?
許さない。
殺してやる。
そう思ったところで気付いた。
これじゃ俺も同じじゃないか。
そうだ。
同じだ。
なら、同じにやってしまおう。
逃げ回って警察なんかに捕まってんなよ?
こんな狂人なんだ。
自分の真似をされるなんて、屈辱だろう?
俺を殺しに来いよ。
おかしいな。
俺はこんな。
こんなに狂っていたか?
復讐なんてするやつだったか?
復讐に人を殺す奴だったのか?
復讐のために無関係の人間まで殺す奴なのか?
そんなに俺の中でアイツが大切だったのか?
大切だったよ。
勿論、恋愛的な感情なんてなかった。
それに、アイツ以外の友達がいないわけでも無かった。
アイツだけが特別だなんてことは何にも無かった。
けど、それが何だ?
何でもいい。
何でもいい?
どうして?
俺が変だ。
一人目。
少し前、見た記憶の中に残る、切り裂きジャックの資料を思い返していた。
どういう場所で、どういう奴を、どういう風に殺していたか。
思い返しながら殺した。
殺した。
何で?
俺は人を殺した?
自分が、分からない。
早く来い。
二人目も殺した。
一回目より感覚が薄い。
どうして俺はこんなに無感動に人を殺している?
アイツを殺した奴を許さない。
殺してやる。
早く来いよ。
早く。
お前を殺さないと俺は止まれない。
「あぁ、お兄さん。憤怒ってるんだね。」
目の前のかばねが呟くように俺に投げかけた言葉に、意識が現実に戻って来る。
その言葉は俺の中にストンッと落ちてきた。
今の俺を示すのに何より的確な言葉であるような気がした。
「ごめんね、お兄さん。」
かばねはもう一度謝る。
刃物を持って、先刻自分の首を割こうとしていた相手に向かって、淡々と。
「かまかけてみたんだよ。」
そういえば、この子供はナイフを振るう俺の手を弾いた。
こんな子供が?
「お兄さんが出してきたのがスタンガンとかなら。刃物でも、的確に殺す気で首を狙ってきたんじゃなかったら、僕の勘が外れたんだ、ってなったのになぁ。」
どうしてだ?
警察も、テレビも、全部騙せていたはずだ。
どうして俺を疑った?
「お兄さんが、最近の事件の犯人だったんだね。」
しかも、こいつは元々の、アイツを殺した切り裂きジャックと会っているはずだったんじゃないのか?
前の切り裂きジャックを、そのまま追っていたんじゃなかったのか?
しかも、最近の?
以前の切り裂きジャックと、俺が殺した分が違うことも気付かれている?
「大丈夫。お兄さんの思ってた人じゃないと思うけど、お兄さんの待ち人は僕だよ。」
かばねが、そんな訳の分からないことを言う。
ぐるぐると、あの日からずっとフル回転してるんじゃないかと思うくらいの脳みそは、その言葉の意味を考え…出てきた結論を思わず否定する。
そんなまさか。
なんて俺の思考をあざ笑うように、かばねの口から俺の推論を肯定する答えが飛び出す。
「お兄さんのお友達を殺したのは僕だよ。あと、警察やお兄さんが探してる切り裂き魔のお姉さんは、僕が殺しちゃった。」
そう言って、目の前の子供は笑ったんだ。




