七幕・十月の九日 そのさん
「ジャックとかばねだけで行かせて良かったのですか?」
ラグがそう声をかけてきた。
いつもの読めない笑みでニコニコとこちらを見ている。
無視してコーヒーを一口飲む。
すると
「時間がかかっているようですねぇ?手間取っているのではありませんか?」
なんて続けて挑発するように言ってくる。
僕はため息をついてコーヒーを机に置く。
そして、仕方ないから話題に乗る。
「……何が言いたいの、ラグ?」
出した声が少し不機嫌気味になっているのが自分でもわかる。
そんな僕の様子に気分を良くしたのか、さらに笑みを深めたラグは
「いえ?以前の仕事の際あれだけかばねに説教しておきながら、また今回も頭脳労働の苦手な二人で送り出したというのが少々矛盾しているのでは、という話ですよ。」
そう言って、視線をついっと僕の操作しているパソコンの画面に向ける。
そこには…
「……おや、ハッキングを受けたのですか?」
「まぁ…。最近よくちょっかいかけてきてる龍だけど、別に大したことないから大丈夫だよ。」
「………。」
僕の答えにラグは沈黙で返す。
少しの静寂の後、僕はふっとラグに笑いかけ問う。
「…切り裂き魔の情報、調べてると思った?」
ラグは降参、とでも言うように両手をひらひらと上にあげ、返答する。
「……貴方は彼女に過保護ですから。」
「かばねはほっとくと何するか分からないからね。」
そう答えて苦笑すると、ラグが深いため息を吐く。
「…何?」
「………貴方は束縛の強い人だと思っていたのですが、思い違いでしたかねぇ…。」
「ちょ…何でっ!?束縛強いってどういう認識っ!?ラグは僕をどういう人間だと思ってたのっ!!」
なんかラグに思わぬ誤解を受けていたことが判明してしまった!?
っていうか何っ!?
束縛って…口煩いからか!!
「…っ大体、かばねは悪運強いし、問題を起こそうが、なんだかんだ帰って来るからそこは別に良いの!事前の情報収集は僕がしたし、かばねだってそれを生かしきれない程馬鹿じゃない。ただ、後始末が面倒になるんだから、ちょっとは自重してほしいって言ってるワケ!!この濃いメンバーの尻拭いがどれだけ大変か!普通の人じゃ付き合いきれないレベルだよ!?もう少し僕に感謝してほしいくらい…。」
僕は勢いのまま捲し立てていたけど、ラグが何故だか目を丸くしたのを見て言葉が尻すぼみになる。
「…え…ちょっと…何…?」
珍しいラグのキョトン顔に僕がたじろいでいると、
「…成程。私としたことが、どうやら遊びすぎたようですねぇ。」
ラグがそう呟いたかと思うと、僕の前にコトリと何かの瓶を置く。
不意の出来事に僕は目を瞬かせる。
その間にラグはさっさと部屋を後にしてしまった。
我に返って置いて行かれた瓶を見ると、僕がいつもラグにもらっている睡眠薬が入っていた。
不規則な生活をしているから、時々お世話になる。
そういえば切れてたから追加を頼んでたっけ。
……まさかこっちが本題で、そのついでに僕をからかいに来ただけじゃ…。
~~普通に素直に渡せないのか、あのひねくれ者っ!!
大方、暇を持て余したラグが、僕を適当に踊らせて遊ぼうとでも思ったんだろう。
本当にくだらない時間だったと、僕は若干苛立った気分でコーヒーを飲み干すと再びキーボードに向かう。
無機質な画面に浮かび上がる通知。
またもや僕に無謀な勝負を仕掛けてきたらしいその相手に、悪いけど八つ当たりさせてもらう。




