七幕・十月の九日 そのに
見回りを終えてあの場所に。
ふらりと歩いていると
「…おっ!ジャック!!こっちこっち!」
と、呼ぶ声。
振り向くと駆け寄ってくるアイツ。
「今日も来てくれたんだな!」
「……別に。」
そっけなく答えた。
なのにこいつは堪えた様子もなく、へらへらと笑っている。
本当に変な奴。
一昨日、こいつに初めて会った時。
しばらく手を引かれたまま道を縦横無尽に動き回り、十分離れたところでおもむろに
「ごめんな、いきなり驚かせたか?」
と、声をかけられた。
俺が立ち止ると、そいつも足を止め手を放し、こっちを振り返る。
淡い茶の髪、カスタードのような瞳。
俺と同じくらいの背格好の少年。
そいつは続けて言う。
「お前、付けられてたんだ。このあたり荒らし回ってる、たちの悪い奴らだよ。きっと目つけられたんだ。お前、その金髪だし。」
知ってたし。
余計なお世話。
そう言う気持ちを込めて睨んでみると、何を勘違いしたのか
「…あ、悪い。名乗ってなかったよな。俺は風見理央。お前は?」
なんて聞いてくる。
こいつ馬鹿なんじゃないの、と思いつつ、あまり波風立てるのも面倒だから答えてやる。
「……ジャック。」
「ジャック?え、マジで外人?言葉通じてる?その金髪も本物?どこの人?」
「…通じてる。本物。英国生まれ。」
そう淡々と答えてやると、そいつ…理央は目を輝かせた。
「すっげーなー…イギリスってどんな感じ?」
再び歩き出しながら、理央は興味津々に訊ねてきた。
悪い気分はしなかったから適当に答えてやって、その答えにさらにテンションを上げる理央と話すのが思っていたより気分良くて。
ふと、階段に差し掛かった時にパルクールを見せてやると
「…すっっげぇ!!」
と、輝いた顔でほめそやされて。
自分にも教えてくれと請われて。
そのままなんとなく明日も会う約束をして。
見回りを済ませてからこいつと会って、話したり、パルクールを教えてやったりして。
こういうのをなんていうんだったか。
馬が合う?
そう、妙に、馬が合ったんだ。
かばねと俺は似ていた。
似ていて、同類で、仲間だった。
理央と俺は似ていない。
話している中でこいつがどこまでも普通の人間だと分かっていたし、お人好しなところも、性格も、正反対なくらいに違う。
なのに、こいつと居るのは居心地がいいと、そんなことを思う自分が馬鹿らしい。
馬鹿らしい、はず、なのに。
「…どうした?ジャック?」
声をかけられて過去に向けていた意識が引き戻される。
キョトンとした顔の理央のカスタードの瞳が俺を捉えている。
俺が別に、と答えると少し訝しむような顔をして、すぐにそれを苦笑に変え
「人が心配してやってるってのに、お前はまた無愛想ーな顔しやがって!友達出来ないぞーー!!」
なんて茶化すから
「なら、俺と友達のお前は相当物好きだな。」
と、返すと、理央は一瞬驚いたような顔をしてから、まーな、と答えて照れるように笑った。
自分の口から友達なんて言葉がこうも軽く飛び出すなんて思いもよらなかった。
そうか…かばねにこいつのことを話さなかったのは気まぐれなんかでなく…。
会わないべきだ。
離れるべきだ。
突き放すべきだ。
かばねはきっと表情一つ変えずそれを指摘する。
そんなこと、俺だって百も承知。
分かっている上で、俺はまだ理央と友達でいたい
こんな理央の存在と俺の態度を知られれば、かばねは理央を殺すだろう。
かばねはそういうところ薄情だ。
理央のような存在にも、そして俺に対しても。
だから俺に恨まれようが、ナイフを向けられようがお構いなしに殺すだろう。
理央も俺も。
そうならないためにも、俺は理央とはそうそうに付き合いをやめるべき。
その、はずだ。
…でも、もう少し。
もう少しだけ。
ここにいる間だけ。
事件の犯人を殺すまでの間だけ。
俺の我儘に付き合ってもらっていいか、理央?




